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告白

ここ2、3日エディスとルオークの様子が変だ。


お互い別の友人と過ごしているようで、初めはそんな日もあるだろうと思っていたが、翌日も別の友人と過ごしていたので違和感があった。


観察をしてみると、一緒にいないだけではなく、一切の会話もしていなかった。

小さい頃からずっと一緒にいる親友で、誰よりも信頼し合っていた2人なのに一体何があったというんだろう。


喧嘩だろうか?珍しいな。

エディスはあまり感情論で揉めないだろうし、ルオークはどこか一歩引いてエディスを立てるようなところがあるから、そうそう喧嘩にはならなそうだけど、何故だろうか。


こうゆう時は、本人に聞くに限る。



「エディスと喧嘩でもした?」


そう聞いた僕を驚いた顔でルオークは見た。


「シルビア………。ここは気づかない振りしろよ」

「えっ何で?むしろ、すっごい気になるんだけど」

「何にでも興味持つんじゃねーよ。言いたくない事だってあるんだよ」


ルオークの方が口を滑らすかなと思ったけれど、この様子はもしかして本気の喧嘩か?


「口も聞いてないよね。何があったの?」

「お前、俺の話聞いてた?」

「うん、聞いてた。それで本当に何があったんだろうって、より気になって。仲介しようか?」

「余計な事すんなよ、お前が関わるとややこしい事になるから。時間が経てば収まるだろうから、何もせず待っててくれ」


ルオークは周囲をチラッと見る。


エディスがいないか警戒してるのか?

これはいよいよ気になるな。


「シルビアは………その、婿候補は見つかったのかよ?」

「おや〜、僕の婿探しに興味あるの?」

「進展だけは気にしてやってんだよ。でっ?」


でっ、と言われても進展ないんだけれど………。


「全く誰にも興味を持たれてない状況です。てか、恐れられてる?1学年の時のあれが不味かったな〜、対応間違えたな〜」


女だから舐められてるのか、決闘に勝ってもよく他の男から決闘を申し込まれたので、そんな気も起きないよう1度実力を思い知らせてやろうと思ったのがいけなかった。


決闘中、剣を手放し相手の振りかざした剣を肩で受け止めたのだ。

静まり返った訓練場で、微笑みを浮かべる僕に相手は腰を抜かした。肩に深く沈んだ刃を、声も上げず笑みさえ浮かべ引き抜くと、すぐさま体が自己修復を始め、すぐに元通りになったが、気づくと皆の視線が化け物を見るような目に変わっていた。


細胞の隅々まで魔力をゆき渡らせられる僕にとっては、痛感遮断と自己再生をしただけなのに、その日から不死身のシルビアなんて、変な異名をつけられてしまった。


化け物じゃなくて、これはれっきとした技術なのに。


「どれもシルビアのやる事は驚く事ばかりだろ。それを全部ひっくるめてのお前なんだから、そこでビビッてたらお前の全て受け止めるなんて無理なんだよ」

「そうだよ〜、いい事言うね。僕のやる事全て受け止められる人じゃないと、婿は務まらないよね〜」

「俺はそんな寛容な奴、1人知ってるけど」


ん?おおっ、ここにきてまさかのルオークの紹介か?


「そんな人いるの?嘘、嬉しい。誰誰〜?」

「知ってんだろ?お前の幼馴染で、長年お前に片思いしてた奴」


ルオークは口の端で笑う。


あー………、そうゆう訳。


「何でそこでエディスの名前出すかなぁ。あいつとの婚約はもう済んだ事だろ。破棄にエディスだって何も言わなかったし、平気そうだったし、婚約した事で気が済んだんじゃないの」

「何か言われたら、お前も考え直したのか?」

「どうゆう意図の質問、それ?可能性の話なんかしたって意味ないよ。僕は公爵家の後継ぎとして学んでるし、今もそう進んでってる。これが結果だ」

「お前はエディスの事どう思ってる?」


グイグイくるな。

ルオークめ、さては僕とエディスをくっつけたいんだな。


本人が何も言ってこないのに、余計な気を回してんじゃねーぞ。

エディスは新しい婚約者探しに動きだしてるんだから、そんな事したって意味ないのに…………。


「どう言わしたい訳?らしくない事しちゃって、余計なお世話だよ」


ニコッと笑ったシルビアに、ルオークは少し困ったように笑い返す。


「余計なお世話か。うん、そうだよな。でも、もう世話焼き始めたからこうなったらとことんやらなきゃだよな」

「はい?何言ってんの?慣れない事はしなくていいから、自分の事だけ考えてな」

「シルビアは理想は掲げてるけど、そんな都合のいい相手いないってもう分かっただろ。どんな条件だったらエディスと結婚する?」


おーい、何言ってんだ?どうしたんだ、ルオーク?


「これまであいつには全然男を感じなかった?少しくらいはなびかなかったか?」


あーもう、駄目だこりゃ。何つー事言ってんだよ。

堪らん。退却だ、これ。


「あいつの事嫌いじゃないんだろ?他の男であいつよりいい男なんているか?よく考えてみろよ」

「何なのお前?そんなエディス推ししたって、もうあいつにその気はないだろ。現実を見ろ」

「強がってるだけだ!エディスは我慢強い意地っ張りなんだよ、シルビアだって分かってるだろ!」

「あーもう、お前が分からん!今更うっさい!じゃあ、そうゆう事でバイバイ!」


言うが早いか、身体強化でササッとその場から逃げるように姿を消した。


話が通じないから、退散した方が早い。


頭どうかしたんじゃないのか?突然何だよ。

もう全部終わったっていうのに、今更蒸し返そうとして。


エディスだって、迷惑だろ。

陛下は婚約破棄にやっぱりお怒りになったそうだが、父上も介入し、今は落ち着いたとも話を聞いた。

ひと騒動を起こして、ようやく落ち着いたのに、こんなのはあいつも望んでないだろう。


エディスは僕に何も言わなかった。

素直に従ったって事はそれが答えなんだ。僕が公爵家を継ぎたがってるから、それを優先させてくれ諦めてくれた。


そんな答えを出してくれたエディスに、今更僕が何を言えるっていいうんだ。


エディスはもう前に進み始めている。

前みたいに触らせてもくれなくなった。

僕がもうあのサラサラの髪を撫でる事はないんだろうな。


友達ではあるけど、ルオーク達とは違う一線を引かれた女友達。


何だかそれが少し悲しかった。





ボーっと歩いていると、突如肩を掴まれた。

ビクッとし、直ぐに身構えかけたが、相手を見て警戒は解けた。


「シルビア、ごめん。何回か呼んだんだけど気づかなかったから………」


そこにいたエディスは、サッと手を離す。


おい、何だ、バイ菌を触ったかのように。


「…………どうかした?表情が暗いけど」


そう聞いてきたエディスに、お前のせいだよとも言えずにただジロッと軽く睨んだ。


「シルビア?」

「王太子殿下〜!」


出た。どこからでも現れる貴族令嬢達。


「あら、シルビア様もご一緒で?良かったら、皆んなでお茶でもしませんかしら?」


3人の令嬢は、僕は対象外とばかりにニコニコと笑っている。


あー、そうゆう顔されると腹立つんだよねー。

エディスも乗り気じゃなさそうだし、意地悪しちゃおうかな。


「お茶なら僕はエディスと2人で飲むから、長年の親友の僕らの間に割り込まないでくれる?それに、エディスの嫁は僕が見定めるんで」


シルビアは腕を組み、3人をジロジロと見た。


「顔はいいとこ50点、マナーもなってなければ意地も悪いし教養もなさそうだ。エディスに聞くまでもない、こりゃ駄目だな」


そうだろ、というようにエディスを見ると、エディスは黙って頷いた。


これまではニッコリ笑ってやんわりとかわしていたエディスだが、ここ最近ではキリがなく苛々が募ったのか厳しく対応してるようなので、これでいいだろう。


「何なんですの!?失礼すぎません!?」

「一部の生徒に付き纏う迷惑行為は、減点1。減点10になったら風紀を乱す観察対象として監視がつく上、集団での生活不適合者として家門に連絡する。又、周知させる為学園内にも掲示するから皆んなに知れ渡るだろうね」

「ま、まぁ!なんて横暴なっ!」

「やりたい放題で許されると思うなよ、それも会長の僕の前で。見せしめも必要なんだよ。今後エディスに近づいてるとこ見たら減点追加していくからな。ほら、さっさと行かないと減点5にするぞ」


追い払うようにすると、令嬢達はキッと睨んでから慌ててその場を立ち去っていった。


「態度悪っ。更に減点追加してやろうかな」


そう呟いてると、エディスが声を殺して笑ってるのに気づく。


「何笑ってんの?」

「いや、いいなぁと思って」


そう言いながらも、エディスはプルプルと震えながら笑っていた。


「こら、お前の為にしてやったんだぞ。まぁ、ちょこっと憂さ晴らしもあったけど」

「ごめん……。でも権力あるといろいろ出来ていいな、シルビアが卒業したらそれが僕のものになるのか。楽しみだな」

「気になる言い方だな」


そんな僕へと、ふっと柔らかくエディスは笑った。


最近じゃ見せない気を許した表情を不意に見せられ、ドキッと大きく鼓動した。


んんっ?どうしたんだ、ドキドキしてきた。


「シルビア、ちょっと話をしようか。こっち来て」


エディスの手が僕の手を掴み、グイッと引っ張って歩きだす。


うおっ、何だこれ。ドキドキが収まらない、ヤバい……。



そうしてどんどんと人気のない方へと進んでいった。


これが僕じゃなかったら、貞操の危機を感じるところだ。

それにエディスが、いかがわしい事してやろうとか企んでる訳ないし、単純に人を避けたいんだろう。


段々と冷静になってきて、ドキドキもすっかり収まった。



そうして着いたのは大きな石の鎮魂碑がある場所だった。


学園で飼ってる生き物や、実験などで使う小動物の供養の為に建てられ鎮魂碑なのだ。


「ここ誰も来ないから、僕の気に入ってる場所なんだ」


ニッコリとエディスは笑ったが、人を避ける為に、こんな寂しい場所にまで行き着いてしまったエディスが哀れで笑うに笑えなかった。


「向こうに動物を焼く焼却炉もあるし、用がなければ誰も来ないよな。穴場を見つけたな、エディス」

「そんなに凄い真顔で言われても。こんな場所でも、今は1人になれるって方が重要なんだ」


エディスはベンチに腰掛けると、隣りに座りなよというようにベンチをトントンと叩いた。


シルビアは黙ってエディスの隣りに、ちょこんと座った。


エディスの雰囲気が違う。まるで前に戻ったかのようだ。


チラッとエディスを見ると、それに気づいたエディスが微笑む。


な、なんか嬉しいな、こうゆうの。

最近は友達っていっても、一線を画した友達になってたから。


ルオークと喧嘩してるようだから機嫌悪いと思ってたのに、そんな事ないじゃん。

むしろ、最近で1番の穏やかになってるし。


「エディス、何かいい事でもあった?」

「別にないけど」

「本当に?いつもと違うっていうか、すっきりした顔してるなって思ったから」


そう言った僕をじっとエディスは見つめてきた。


「そう見えるんだ。きっと諦めたから、肩の力でも抜けたかな」

「諦めたって………何を?」

「自分を偽ることを。終わらそうと思っても、誤魔化そうとしたって、会えばやっぱり欲しくなる。どうしたって僕はシルビアが欲しいんだ」

「えっ?」


今なんか言った?僕の名前言った?


「好きだよ、シルビア」


エディスの眼差しが、僕を捉える。

その瞬間、息をする事さえ忘れた。


え?えっ?ど、どうゆう………す、好き?あっ好きね。え?好き?


「ずっとずっと好きだったんだ」

「えぇーーっっ!!?」


シルビアは思わずベンチから立ち上がる。


これって告白!?嘘、告白しちゃったの、エディス!?


「今更だよね。本当はシルビアの選んだ道を応援してあげたかったんだ。邪魔したくなかったから黙ってるつもりだったのに、好きな気持ちは全然消えなくて、諦められなくて苦しくなってきたんだ」


エディスもベンチから立ち上がると、シルビアの前に立った。


「何も伝えず自然消滅で終わらせようと思ったけど駄目みたいだ。この想いに決着をつけない限り、僕は前にも進めないし終われない」


真剣なエディスの顔、瞳、その全てに心臓かバクバクと大きく高鳴り始める。


「全てが好きなんて言うと嘘くさいけど、僕はシルビアの全てが大好きだよ。ずっと見てきたんだ、駄目なとこも、いいところも全部が許せる、全部好きだ」


もう好き好きと、好きのオンパレードだ。


本人は言いたいことを言えた満足感からか、嬉しそうに笑ってる。


こっちはもう苦しくて息も吸えないくらいなのに。


「………僕のどこが好きなんだよ?男にモテないってのは分かってるんだ。背は高いし、父親譲りの凛々しい顔だし、気は強いし、でも顔は整ってると思うよ。バランスのとれた肉体美もあるし、性格だっていいと思うけど………」


それを聞いて、エディスがぷっと笑う。


「自分でそうゆう事言っちゃうとこも好きだよ。頑張り屋のとこが好き。諦めないとこも好き。自由なとこも好き。いつだって前を向いて生きてる生き方も好き。怒ってるとこも好き。笑ってるとこはもっと好き。背が高いのを気にしてるけど、ピンと背筋を伸ばして堂々としてるとこも………」

「わー!もういいから!全部好きって言えばいいもんじゃないぞ!」


はわわ、これはヤバい。アドレナリン最大放出もんだ。

血が沸騰してるかのように、体が熱い。

鼻血出そう………。


「でも全部好きなんだ」


そう言って嬉しそうに笑うエディスに、胸がグッと締め付けられた。


おい、可愛いじゃないか。

そんな嬉しいか?エディスが嬉しそうだと、何だか僕まで嬉しくなってくるじゃないか。


「シルビアが他の誰にもモテなくて良かった。この魅力に気づかないなんて皆んな損をしてるよね。でも誰にも教えないけど」

「ははっ、そりゃどーも」


ニコニコと嬉しそうに瞳を細めてエディスが笑う。


素直なエディスは破壊力が強い。

くっ、心臓が痛いくらいだ。


「シルビア、本当に好きだよ」

「わ、分かったってば」

「ようやく伝えられて嬉しいよ。ずっとずっと見てた、好きだって思ってた。好きだって言葉にすると、形になってくような気がする。僕の想いちゃんと伝わってる?」

「つ、伝わってるよ。もぉ〜、こっちのが恥ずかしいよ」


照れはないんかい、照れは。


「良かった、ちゃんと伝えられて。僕の想いもこれで報われる」


少しホッとしたような顔でエディスは微笑んた。


「シルビアに僕がずっと想ってたって知ってもらえたから、これで終わることになっても僕は満足だよ」

「エディス………」

「………また嘘ついちゃった。満足なんて嘘、本当は終わらせたくなんかない。他の誰でもなく、これからもシルビアの事をずっと好きでいたい」


そう言って悲しそうな顔で笑ったエディスの瞳から、涙が一雫こぼれ頬を伝った。

すぐにハッとしたエディスがその涙を拭う。


「ごめん………。これでもう終わりなんだと思ったら……」

「エディス…………」

「情け無いな、こんなの。全然格好良くない、ボロボロ泣いちゃって笑っちゃうね…………」


拭ったものの涙が次から次にと溢れてきて、困った表情で自虐気味にエディスは笑った。


エディスが泣いたとこなんて初めて見た。

ポロポロとその涙の雫が落ちるたびに、胸がぎゅうぎゅうと締め付けられるように苦しくなる。


泣くなよ、お前に泣かれるとどうしていいか分からないよ。


「大好きだよ、シルビア。終わったとしても、これから大人になって他の人と結婚して、お爺さんになったってこの想いは忘れない。懐かしく思う時がきても、きっとシルビアの事は色鮮やかに覚えてる。こんなに好きになった事、大好きな人がいたんだってずっと覚えてるよ」


涙をこぼしながらも、エディスは微笑んだ。


胸が締め付けられて苦しい。苦しくて堪らない。


そんな顔して笑うなよ。僕まで泣きたくなる。


あーもう!あーもう!あーもう!!

くっそ!あーもう、もう降参だ!


シルビアはハァーと大きく長いため息をついた。


「………呆れちゃった?」


涙を拭いながらエディスは力なく笑う。


「いや。僕の負けだ。順調な人生送る予定だったのに」

「シルビア?」

「お前の想いのたけに負けたって言ってんの。そんなふうに泣かれたら、僕が幸せにしてやりたくなるだろ」


シルビアはむくれながら、エディスを睨んだ。

そして、ハンカチを取り出すとエディスの涙を拭う。


「えっ?えっ…………それ、どうゆう意味?」

「心臓鷲掴みにされた気分だよ。こんなにドキドキさせられるのなんて、今後エディスしかいないかもしれない」


エディスの手がハンカチを持つ僕の手を掴み、視界を広げるようにそっとどかせた。


そして、その碧の瞳が僕を映す。


「シルビア、顔真っ赤だよ」

「うっせー、見んな」

「でも、可愛いよ」


あーもう。はいはい、降参ですよ。認めますよ。


「お試しでさ………僕ら付き合う?」


そう言った僕を驚いた顔でエディスは見た。


「えっ………?」

「あー、これ最後の保険ね。やっぱ何か違うから止めますとか、周りにもう迷惑はかけれないから、こっそりと内緒で誰にも知られずに付き合おうってこと」

「え!?付き合う!?」

「そっ、今から秘密の恋人ってこと」


はー顔が燃えるように熱い。


シルビアは手で顔を仰ぎながら、茫然としているエディスを見た。


反応が悪いな。もっと喜ぶと思ったのに。


「恋人って………シルビアと?」

「そうだって言ってるじゃん。お前にほだされちゃったの」

「本当に?」

「本当だって。ほら、恋人らしくハグでもするか」


来いというように手を広げてみせた。

だが、エディスは来ない。


勢いでやってるけど相当恥ずかしいんだからな!

さっきまで友達だったんだぞ!


「こらっ!恥かかせんな、来いっ!」


怒ると、それに促されたようにエディスが動く。

そして、僕の腰の辺りを掴むとヒョイと持ち上げた。


「シルビア、本当の本当に?」


こ、こうじゃなーい!


でも、信じられないといった顔で嬉しそうに笑うエディスの顔は悪くない。


「そうだってば。何度言わせるんだよ」


可笑しくて、ぷっと笑う。


その途端、ギュウッと強く抱きしめられた。


突然でビックリしたのと、苦しくらい強い腕に胸がバクバクとした。


完全のゼロ距離。密着の肉感が凄い。

これが恋人の距離か………。エディスと恋人になったのか。


「信じられない。嬉しい…………」


エディスが肩に顔を埋めてくる。


ふおっ、い、息かかる。そこにある存在感凄っ。

ひえ〜、こそばゆい。


今血圧測ったら、すんごい数値になってるだろう。


恋人っていったらあれだよな。

いろんな事が解禁になっちゃうんだよな。キスしたり、それ以上の事とかも……………。


うわっ、心臓ヤバッ。尋常じゃないスピードになってる。

違う事考えなければ。


思えば、今のエディスの年頃の時、幼い小さなエディスと出会ったんだよな。あの頃は天使のように可愛いかった。まさか、あの小さな天使とこんなふうになるとは………。

そう考えると背徳感凄いな。長年見守ってきた子と付き合うようになるとは。

ま、まぁ、実年齢は上でも、この体の年齢は同じようなもんだし、犯罪ではない。


「ふわっ」


思わず声がもれた。

エディスが、肩のとこでスリスリしてきたからだ。


首ヤバい。首のとこ駄目だ、弱い。


シルビアはグイッとエディスを引き剥がす。


「恋人になるにあたっての注意点を確認する!人前で抱きついてきたり、イチャつくのは禁止!あくまで友人として振る舞う事!匂わせ発言とかも駄目!」

「人前ではさすがにしないよ。ルオークにも言っちゃ駄目?」

「駄目!これからどうなるか分からないんだし、2人だけで将来どうするか決着をつけよう。報告は結果のみだ」

「分かったよ」


そう言ってエディスは僕の顔を見て、嬉しさが溢れだしたような幸せそうな顔で瞳を細めて微笑んだ。


か、可愛い〜!母性本能?庇護欲?何の感情だこれ?

はー、いろいろとヤバい。それに完全に嬉しがってる自分がいる。


う〜ん、参った。描いてた将来像とは違うけど、これはこれで良かったんじゃないかと早くも思い始めてる。


でも、このまま終わる僕じゃないからな。


違う未来なら、それに沿った将来計画を立ててやる。

そうする為には、父上にも報告してお互いの計画を練り直さないといけないな。

様子見の期間も決めて、計画的に進めていかないと。


けどまぁ、今だけは考えるの止めとこ。


この記念すべき日は、目の前にいるエディスの事だけ考えてあげなきゃな。


僕の選択によって今がある。

この幸せそうなエディスを選択したのは僕だ。


まっ、悪くないな。


シルビアもエディスへと笑いかけると、ギュッとその体に抱きついた。


これは僕のものだ。

この温かいぬくもりも、触れ合う感触も全部。

うん。実感出てきたぞ。

今この時から、僕らは恋人だ。

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