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お父様、お母様

二か月。

この世界に来てから、それだけの時間が過ぎた。

未だ目覚める兆しはない。




シルビアはため息をついた。


書庫の窓辺に腰掛け、ぼんやりと外を眺める。


退屈はしていない。

でも、ここは自分のいるべき場所じゃないと思ってる。

父も妹の奈緒も心配してるだろうな………。

僕の体は病院のベットで寝たままなんだろうか。


再びため息がもれる。


実は死んでるなんてことはないよな……。


そこでハッとし、ぶんぶんと首を振った。


いけない、思考が暗くなった。

面白いけど、こんなふざけた世界が現実のわけないじゃないか。絶対に違う。

僕は………帰るんだ。家族のもとに。

帰りたい………。

やりたい事だっていっぱいあったんだ。

これからなのに………これじゃあ、今まで頑張ってきた事すべて何だったんだ。無駄か?


シルビアは手で顔を覆った。


ここ最近、いつも気持ちが沈んでいた。


二か月……よく頑張ったと思う。

気づかないふりしてたけど、ホームシックだろうか。

突然だったもんな…………。

誰も支えてくれる人がいない。不安な心の内を話せる相手もいない。


「あー………へこむ」


ちょっとだけ疲れた。そう、疲れたんだ。


また、小さくため息をつくと、今度は気合いを入れるため両手で頬をバンバンと叩いた。


「よし!やるか!」


シルビアは横にあった本を数冊手に取ると歩き出した。

何も考えなくていいくらい、他の事で頭を埋めたい。

もう考えるのも疲れてきた。




そんな僕が向かった先は、この世界の父親の執務室だった。

ドアをノックし、部屋に入る。


「父上、失礼します」


すると、大きな机で書類の山を片付けていた父が、自分の姿を見つけニッコリと優しく笑った。


「シルビア、どうしたんだい?」


黒髪に青い瞳のキリッとした顔の長身の父親、カルロス・アルビシス公爵だ。シルビアは圧倒的に父親似である。

お母さんは金に茶色の混じったような髪に、青い瞳の愛らしい人だった。

お母さん似だったら、シルビアももっと可愛い女の子だっただろう。背は高くなるわ、目つきは悪いわで、あとそうだ、性格も悪かった。


「シルビア?」

「あ、いえ、父上に見惚れてました」


若かりし頃は現在の国王の近衛隊長も務めるなど、剣術にも優れ、凛々しい姿の父親は、僕的には凄くかっこいい。王子キャラとかより。


「…………前みたいにお父様〜って呼んでくれてもいいんだけどな」

「またその話ですか?転げ落ちた時に、しこたま頭をぶつけた事により、脳が活性化され思考が変わってしまったと何度も言いましたよね」


申し訳ないが、そうゆう設定で通す事にした。

始めは、両親も使用人たちも大混乱だったが、今では落ち着いてきている。


そうは言っても、受け入れがたいよな……。


寂しそうに笑うカルロスに、胸が痛んだ。


可愛い娘が突然こんなのになったらショックだろう。


「覚えてはいるんです。でも前のように考えられなくて………。ごめんなさい」


プライドも、恥も外聞も捨ててシルビアの振りをしてあげれたら、こんなに悲しませなかったのにな。


〝イヤイヤイヤー!シルビアそんな事言うお父様嫌いだもん!あれが欲しいの〜!欲しいってば欲しいの〜!ぷ〜!〟


うん……。ごめんなさい。無理です。

心の中で練習してみたけど、やっぱり無理です。


「いや、いいんだよ。あの事故でシルビアが生きていてくれただけで、それだけでいいんだ」

「本当にごめんなさい……」

「謝らないでくれ。シルビアは何も悪くない」

「はい……」

「あっ……それより用があったんじゃないのか?」

「そうでした」


ハッとし、シルビアは持っていた本を机の上に置いた。


「新しい教育の先生が欲しいんです」

「………今の先生は嫌なのか?」

「嫌とかそうゆう事じゃないんです。今の先生って子爵の娘さんで読み書きとか、簡単な勉強教えてくれてるんですけど、簡単すぎて物足りないんですよね」

「えっ………?」

「書庫の本あさって読んだんですけど、分かるようで分からないというか……意味が分からないとこが結構あるんですよ。自分で調べてもいいんですけど、聞けばああなるほどね、っていう事に労力つかうの時間の無駄だと思うんで、今の先生に聞いたんですけど、答えられないんですよ」

「えっ……?」

「先生の学力って、言っちゃ悪いんですけど子供に教える程度ですよね。もっとしっかり学んできて学園とかでも上位だったような人に教えてもらいたいんですけど」


じっと父親を見る。

けれど、カルロスは何も言わず神妙な顔をしていた。


「これ……読んだんですけど、これくらいの内容は教えられる人に来てもらいたいんです」


カルロスの机に置いた本にバンと手を置いた。


「………これを…シルビアが読んだ?」

「はい。ちゃんとした人に教えてもらえれば、これよりもっと難しい事も分かると思います」


一応現役の高校生だし、難関高に合格した学力は持ち合わせている。学校でも上位の成績だった。


「僕……いえ、私は時間を使うなら難しい分からない事や、初めての魔法とか剣術とか自分の為になったなと思うものに時間を割きたいんです」

「シルビア………君は天才になってしまったのかい?」

「は………えっ?はい?」

「こんな難しいものが分かるなんて……」


カルロスは本を手に取って唖然としている。


「いや〜、分からないところは多いんですが、そこまで難しいものではないかと」


言葉の意味とか、どうゆう事なのかとか教えてもらえれば、大した事ないのではないかと思ったレベルだ。中学生くらい?


「そんな……セントリア学園でも教えられている内容なのに………」

「えっっ、学園で!?」


そんな………。もしかしてこの世界って………学力低い?

あ!そうか、この世界には魔法があるんだ。そっちの方が重要で大変なのかもしれない。


「シルビア………君は変わってしまったんじゃなくて、頭が良すぎるようになってしまったのかもしれないな」


カルロスが真面目に考えだす。


「…………そうですね、私もそう思います」


もうそうゆう事にしておこう。


「先生か………。シルビアの能力をいかせるような人をみつけないといけないな」

「今は王国の歴史書も読んでいます。時系列で何があっかだけは把握してるんですが、伝記のような楽しい話をしてくれる人だとなお嬉しいです」


戦国マニアじゃないけど、歴史に詳しい人だと人物や何があったかをお話しのように聞けて楽しそうだ。


「あと、なるべく早く魔法も習いたいです」

「魔法も?………まだ早いんじゃないかな。集中力もコントロールする力も必要だし、力を使いすぎると体力だって奪われる」

「そうなんですね。では、それはもうちょっと後回しでいいです。あとは、剣術を習いたいです」

「えぇ!?シルビアが!?」

「はい。毎朝走り込んでいるんでるんで、だいぶ息も切れず安定して走れるようになってきました。今は騎士達の訓練場の隅っこで、見様見真似で木刀を振ってるんです」

「えっ!?そんな報告受けてないぞ!」

「遊んでると思われてるんでしょう」


剣道と違って、剣は切るような動きをするから振り方も違うし、握力のないシルビアの手からは何度も木刀が吹っ飛んでいた。


「でもほら、ちゃんとやってますよ」


シルビアは手のひらを上にかざして見せた。

豆だらけの手に、豆もつぶれて少し血もにじんでいる。


頑張ってる人の手でしょう。と、いうつもりだったのだが、カルロスの瞳が潤んだ。


「こんなに小さな手が…………可哀想に……」


カルロスは駆け寄ってきて、シルビアの手をその大きな手で包み込む。


「ちゃんと手当てしなきゃ駄目じゃないか。シルビアの可愛い手がこんな………」


今にも泣きそうな悲しみに溢れた表情だ。


こんなに凛々しい厳格そうな父親だが、果てしなく娘を溺愛する親バカなのだ。シルビアが我が儘放題に育った原因である。


「あ……別にそこまで痛くは……。そのうち皮も固くなると思うし………」

「駄目だ!もし、もし傷から化膿でもしたら……!」


わなわなと震えた後、カルロスはシルビアを抱き抱えた。


「え?え!?な、何ですか!?」

「医者に治療してもらう」


言うが早いか、カルロスは猛スピードで走り出す。


廊下は走っちゃいけません!!

そう言いたくなるくらい、早いし、危なかった。使用人たちもビックリして慌ててはじによる。


長身の大きい体で、小さなシルビアを宝物のように優しく抱っこする姿。その焦った顔に思わず顔がほころんだ。


本当にシルビアの事が大好きなんだな。

うちの父さんなんかとは、比べものにならないくらいカッコいいのに、親バカって……。


前のシルビアのように、〝お父様だ〜い好き♡〟でほっぺにチュッとしてあげたくもなるが、まぁあくまでそんな気になるだけだ。

現実にやるとしたら、ハードル高すぎる。




「大変だ!ロエンいるか!?シルビアを診てくれ!」


ドアを開けるなり、カルロスは言った。


中にいた従医の男、ロエンが席を立つ。


「お嬢様がどうかされたんですか!?」


ただ事でない、カルロスの剣幕にロエンの顔も強張った。


「これだ!診てくれ!」


カルロスはシルビアを抱っこしたまま椅子にどかっと座り、そっとシルビアの手を取るとロエンに見せた。


「シルビアのこの可憐な手が……手が!こんな痛ましい事に!!」


はい。親バカですみませんね。

こんなことでお騒がせしてしまって、お恥ずかしい。


「痛そうですねぇ。こうなる前に来て頂けたら良かったんですが」


中年の従医、ロエンは手のマメをまじまじと見る。


「お嬢様は我慢強くなられたんですね」

「こんなの……」

「そうなんだ!シルビアはとても我慢強い!こうなっても泣き言一つ言わないんだ!」


僕の発言を遮る勢いでカルロスがかぶせてくる。


「ち、父上落ち着いて……。たかがマメで………」

「たかがじゃない!シルビアのか弱い小さな手がこんな傷ついて平気でいられる訳ないだろう!」


そうだった。彼にとっては、大切に怪我一つ負わさず育ててきた、可愛い可愛い宝物のシルビアなのだ。

この体は、僕のであって僕のじゃない。

こんなマメくらい、と思うのは僕の感覚だ。

大切な愛娘を傷つけて、カルロスの心も傷つけた。


親バカなんて笑ってられない。

そんな人だって分かってたのに、僕が軽率だっただけだ。

たかがなんて……バカは僕だった。


「ほらほら、カルロス様が怒るから落ち込んでますよ」


ロエンの言葉に、カルロスはしょんぼりしたシルビアを見る。


「いや……お、怒ってる訳じゃないんだ。違う、違うぞ。ただ………もっと自分を大切にしてほしくて…」


落ち着むシルビアを前に、カルロスは狼狽えた。


「父上……ごめんなさい」

「いや!本当に怒ってないから!」

「ごめんなさい……」

「違う、違うんだシルビア。シルビアは何も悪くない。そんな悲しそうな顔見せないでくれ………」


どう見てもカルロスの方が悲しそうな顔をしている。

謝るのも気を使わせてしまうな。


「では、次から気をつけるという事で、さっ治療しちゃいましょう」


ロエンはシルビアの手に自分の手を重ねた。

すると、その手から光が溢れた。


「あ………手が!」


思わず声がもれる。

傷が消えた!ていうか治った!

これってもしかして………魔法!?


「お嬢様は治癒魔法は初めて見ますかね。怪我したことありませんからね」

「す……すごい!」


感動なんだけど。本当すごいんだけど。

これが魔法……!


「階段から落ちた時も傷は治したんですが、頭を強打されたのでその中までは治療できず、力不足で申し訳ありませんでした。小さな変化でも何でもいいので、何かありましたらすぐにいらして下さい」

「シルビアは天才になったんだ!」


またもや食い気味にカルロスが割り込んできた。


「天才……ですか」

「そうなんだ。シルビア、歴史書で何があったか覚えたと言ってだだろう。ロエンに教えてやってくれないか?」

「いいですけど……。何があったかは詳しくありませんよ。何年に何があったかとか時系列にざっと覚えただけですし」


机の上に紙とペンが置いてあるのをみつけ、そのペンを手に取った。


「この紙ください。書いていきますね」


シルビアはスラスラと字を書いていく。

それを上からカルロスとロエンが覗きこんできた。


じっと見られると、何だか緊張してしまう。


「お嬢様、すごいですね!こんなに覚えたんですか」

「ははっ、まぁ現役ですから。暗記もの得意なんで」


思わず自がでたが、何が現役か突っ込まれるとヤバい。


「次、裏面に書きます」

「シルビア凄いな!こんな細かいとこまで知ってるなんて!」

「まぁ、覚えるだけなら簡単です」


なんて調子にのってみたりして。


その時、突如大きな音を立ててドアが開いた。


一瞬唖然とする面々の前に現れたのは……


「母上!」


シルビアの母、マリアンだった。


「もお〜!やっといた!探したのよ!」

「俺を探してたのか?」


そう聞いたカルロスへ首を横に振り、マリアンはシルビアを見る。


「書庫にいるって聞いたのに居なくて、探して執務室にいるって聞いたのにいないし、そしたらカルロスがシルビアちゃんを抱き抱えて走っていったっていうじゃない!」

「あ、それはシルビアが手の平を怪我していて……」

「も〜!どれだけ探したと思ってるのよ!!」


ぷんぷんと怒りをあらわにマリアンは頬をふくらませる。

可愛い怒り方だ。


マリアンは貴族のお嬢様で、だいぶ甘やかされ大切に育てられてきたようだ。価値基準もそこからきているので、同じかそれ以上にシルビアを甘やかしていた。


「マリアン、そんなに怒らないでくれ」


マリアンに頭の上がらないカルロスはオタオタとする。

カルロス、絶対的にかっこいいのに女にはてんで駄目だな。


「ふ〜んだ。あっそうだ、シルビアちゃん、お茶会のお誘いがいくつか来てるのよ。お母様と一緒に行かない?」


ニッコリとマリアンは笑った。


げげげ………。またその話か。

前に断ったけど、新たな招待状が来たんだろうか。


「それはいい!新しいドレスを注文して、二人で楽しんでくればいいじゃないか!」


ご機嫌とりか、カルロスまで勧めだしてきた。


新しいドレスって………毎回毎回注文してるし、母上の宝石商もしょっちゅう出入りしてるし、よく内装や調度品も変わるし、食事はいつも豪勢で何倍もの人数分くらい出て廃棄されてるし、ずっと見てきたけど散財しすぎ。


この公爵領は、港を有しており貿易も盛んで、活気もあり人も多く、国内で一番の収入を収めているのだ。

真の金持ちである彼らにとって、この程度は散財でないのだろうが、こっちは長年庶民として暮らしてきたので価値観の違いにビビりまくりだ。

もう少ししたら、帳簿を見てやる。どんだけ消費してるか、チェックしてやる。


「母上。行きませんよ」


こっちもニッコリと笑ってマリアンを見た。


「またそれ〜?シルビアちゃん、同じ年頃の子も来るからお友達作ったら絶対楽しいわよ」

「いりません」

「可愛いドレス着るの楽しみでしょ〜。ダイヤを砕いて散りばめちゃう?」

「楽しみじゃありません。散りばめません」


絶対行きたくない。

この歳で幼い女の子達との交流なんて、絶対無理。

リアルおままごとの世界じゃないか。


「最近つれなくてお母様悲しいわ。シルビアちゃんと一緒にお出かけしたいのに〜」

「二人でなら出かけます」

「え〜も〜、カルロス〜、シルビアちゃんが冷たい〜」


マリアンがカルロスに泣きつく。


「マリアン、それが……シルビアは事故の後遺症で、急激に頭が良くなってしまったようなんだ。それで、同年代の子とも合わないのかもしれない」

「どうゆうこと……?」

「これを見てくれ」


カルロスは先程シルビアが書いた年代表をマリアンに見せる。


「えっ?何なの……?まさか……これ全部シルビアちゃんが!?」

「そうなんだ。あんなに勉強嫌いだったのに………すらすらと書いて…。こんなに覚えられるなんて」

「すごーい!シルビアちゃんすごいじゃない!お母様も昔は頑張ったけど、今はもうすっかり忘れちゃった」


マリアンはシルビアをギューッと抱きしめた。

胸を押しつけられ、シルビアはカアっと赤くなる。


「マリアン、シルビアが苦しそうだ」


カルロスの言葉にマリアンはパッと腕を離した。


「あらヤダ、真っ赤だわ。そんなに強く抱きしめてないのに」

「は……母上、刺激が強いのでいきなりやめてください」


大きかった。柔らかかった。

はー…………、顔が熱い。

手で顔を仰ぎながら、チラリとマリアンの胸を見る。


でかいな…………。


「どうしたの、シルビアちゃん?」

「あ………いや、別に……。と、とにかく今は同年代の子と遊ぶより、勉強の方が楽しいので」

「勉強が好きなんて、人生損しちゃうわよ。美味しいもの食べて、おしゃれして、いっぱいお喋りして、恋をしたり人生を楽しまないと」

「ははは………」


好きなことだけして生きられれば、それは最高だろうけど。

やり甲斐とか、達成感とかそういったのはなさそうだな。


「あっ、友達ならエディス……王太子殿下と、ルオーク…様がいるので、それで十分です」


これで安心してくれ。


「まあ!素敵!二人の男性と仲良くなるなんて!でっ、どちらが本命?」

「……はい?」

「ちょっと待った!!」


カルロスが顔を強張らせ、シルビアの前に立つ。


「……恋なんかじゃないだろう?シルビア」

「恋よ!前に王太子と婚約したいと言ってたじゃない!あら、なら本命は王太子?」

「こ、婚約なんてシルビアにはまだ早い!早すぎる!」

「早くないわよ。この歳から好きな人と結婚の約束ができるなんて素敵だわ。ずっと一緒にいられる時間は長いもの」

「け……結婚………」


マリアンの言葉にダメージを受け、カルロスは押し黙った。


「婚約なんてするつもりないよ!気の迷いだから!あんなちびっ子弟だから!」


婚約なんてさせられたら、たまったもんじゃない!


「あら〜、シルビアちゃんは年上が好みなのかしら?」


マリアンは含み笑いをしながら覗きこんでくる。

楽しんでるみたいだけど、あ〜もう、早くこの話終わりたい!これだから女子は………!


助けを求めるように、カルロスを見た。


「ぼ……私は一番父上がかっこいい」


うん。間違った事は言ってない。カルロスは一推しだ。でも告白みたいで恥ずかしい。自分の父親にだって言った事ないのに。


「シルビア………」


カルロスが感動で瞳を潤ませた。


「ふふっ、シルビアちゃんてばまだ恋をしてないのね。恋をしたらね、父親なんて………」

「マリアン、シルビアはまだ子供なんだから。ほら、ドレス選びなら付き合うから行こう」


カルロスはマリアンの手を取った。

よかった。このままマリアンを退場させてくれ。


「え〜、もっと〝お友達〟について詳しく聞きたいのに」

「友達だ。普通の友達!この歳で何かあるわけないじゃないか。あるわけない!」

「女の子はいつだって女の子なのよ。もう恋してたっておかしくないわ」

「ないないない!シルビアはそんな女の子じゃない!」


カルロスはシルビアを見ると、近づいてきてコソっと耳打ちした。


「剣の稽古は、専任の奴をつけるから勝手にやらないように。………母様には内緒だぞ」

「はい。私も父上みたいになりたいです」

「そうか、シルビアは父様みたいになりたいか」


デレデレと照れたようにカルロスが笑う。

自分の言葉一つで可愛い男だ。これが男を手玉に取るというやつか。


「もう、ほら。ドレス選んでくれるんでしょ」

「あ、ああ」

「次こそはシルビアちゃんも一緒に行きましょうね」


言いながらマリアンはカルロスを引っ張って行った。


次も行かないけどね。

そう思いながら、隣にいたロエンをチラッと見る。


「女の子もいろいろ大変ですねぇ」

「苦労しますよ、いろいろ」

「ははは、若い証拠です。私なんてもう昔すぎてトキメキがあったかすら覚えてない」

「トキメキねぇ………」


トキメく頃にはもうこの世界にはいないかもしれないけど。


その時までは、ここでやれるだけの事をやっておくだけだ。

幸いクセの強い人達だらけで面白いし、やる事も多いから退屈はしないですみそうだ。

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