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避暑旅行 2日目

旅行2日目の朝がきた。

晴天の青空が広がっており、絶好の観光日和だ。


今日もびっちりとスケジュールを組んであるので、朝食を食べたらすぐ用意をして出発になっている。



「それで、何で僕はお前らに呼び出されてんだ?」


シルビアは、庭園の木陰でナイルとティーエの2人を見た。


ティーエはグスグスとしながら目を潤ませている。

昨夜は相性を考えエディスとルオークを相部屋にしたので、ナイルとティーエの2人が相部屋になっていた。


「どうした?ナイルに虐められたのか?」


そう聞くと、ティーエの瞳からぶわっと涙が溢れだした。


「会長〜、聞いて下さい!朝時間なっても起きないから、起こしてあげたら引っ張られてキ、キスされたんです!」

「えっと………そうなんだ」


シルビアは軽蔑の眼差しでナイルを見る。


「違う!いや、違くはないけど、寝ぼけてたんだ。目の前に可愛い顔があったらキスもしたくなるだろ」

「意味分かんないんだけど、普通しないよね。節操がないのは知ってたけど、男相手にまでとは」

「いや、男は対象外だよ。でも、この顔ならいけるだろ」


そう言ったナイルから、ティーエは後ずさり、シルビアは再び軽蔑の眼差しを向けた。


「うわ〜ん、僕初めてだったのに〜!こんなの酷い!」


ティーエがシクシクと泣き始めてしまったので、シルビアは困りながら上の空を見上げた。


参ったな、もう出発したいのに。

結構密なスケジュールになってんだよね。


シルビアは意を決すると、ティーエの肩を力強く掴んだ。


「大丈夫!同性とのキスは数に入らないから!練習相手になってもらう事もあるんだって!」

「へっ………?」

「よくある、よくある!大丈夫だって、動物にチュッとされてそこまで気にする?あれと同じ!」

「えっえっと…………」

「あれ〜、それともナイルの事意識してんの〜?」

「ち、違いますよ!こんなの気にしてません!」

「そうそう!大した事ないって、本番への予行練習だって!ほら行こう、皆んな待ってるから!」


シルビアはティーエの背中をグイグイと強く押して前に歩かせる。


「シルビア、お前って…………」


呆れたようなナイルに、お前のせいだろとばかりにギロっと睨みつけた。


今は忙しいから誤魔化しちゃってごめんよ、ティーエ。

責任持ってちゃんと弟子にしてあげるからね。



そうして6人が揃い、いよいよ遺跡巡りツアーへの出発となった。


何代も前の文明の遺跡が、今だに残っている姿には夢を感じる。

感じとしては、元の世界でのマチュピチュの空中都市のようなものでそこに石作りの大きなピラミッドみたいな城もあるそうだ。


今日は山頂にあるその城と墓を昼前に観光し、昼食のちにまた別の山に登る予定だ。

もう1つの山は、はるか昔に大噴火して山頂が思いきりえぐれ、そこに長い年月で水が溜まり湖のようになり、今では個別のボートを漕いで遊ぶ事の出来る恋人達に人気のスポットになっているのだ。


当初の目的を忘れてはいない。この旅行はルオークとカトリーヌをいい感じにしてあげる為の旅なのだから。


そうして始まった遺跡巡りだったが、直ぐに問題にぶち当たった。

それは皆が思いの外、体力がなかったという事だ。


山頂にある遺跡なので、馬車も途中からは入れず完全な登山になった事と、遺跡の城も墓も結構な広さなので始終歩き通しで、カトリーヌとティーエが足がガクガクなるくらいへばってしまったのだ。



ラブイベントはここからなのに、カトリーヌはハンカチを顔にかけて馬車の中でゴロっと横になっていた。

ティーエは魂が抜けたみたいにボーっとしている。

男共はへばってはいないものの、もう次の山登りはやらないという雰囲気になっていた。



「えーと、皆様、この馬車はただ今次の目的地であるエーレ山に向かっております。そこも途中からは馬車が入れないので、少しでも体力をつけておくよう軽食を配らせて頂きますのでお食べ下さい」


シルビアは頼んで作って貰っていたサンドイッチと飲み物を、ささっと皆に配る。

カトリーヌとティーエは受け取る気力さえないようなので、そっと横に置いておいた。


「大変素晴らしい遺跡でごさいましたね。私は感動と興奮覚めやらぬ状態でごさいます。ああいった価値のあるものを更なる後世まで伝えていかなくてはと強く思いました。非常に短時間で厳しい密な時間でございましたが、とても心に残る思い出になったのではないでしょうか」


エディスとルオーク、ナイルへと笑いかけたが、かろうじてエディスが笑ってくれたものの、残り2人は仏頂面だった。


「皆さんお疲れですね〜。ちょっと急ぎ過ぎました?でも、これから楽しいボートが待ってますよ〜」

「もう今日は山登り止めようぜ」


ルオークが睨みながら言ってきた。これは本気で嫌がってるな。


「心配いらないよ。皆んなで山登りをして一致団結と思ったけどプランを変更します。シルビア姉さんの実力を見せてやる」


当初の目的を果たさないと、ただ観光しただけになってしまう。


「それにしても皆んな汗だくでちょっと臭うんじゃない?」


山で涼しかったとはいえ、季節は夏でじとっとしていた。山登りからの動き通しで汗だくの6人の馬車はキツい。


「自信満々に計画してきてるから何とも思ってなかったけど、無謀に詰め込んだだけだろこれ。って言うかティーエは現地詳しいんだから、半日で回れないって気づいてくれよ」


ナイルがぶつぶつと文句を言いながら、へばっているティーエを横目で見た。


「僕は身体強化常にしてるから楽勝プランなんだけど。凡人には厳しかったか。次は超身体強化を見せてあげるよ」


身体強化は魔力による強化で、それなりのコントロールが出来ればそんなに難しくはない。

超身体強化は僕考案で、精密なコントロールが必要で、体の細胞の一つ一つに身体強化並みの魔力を送っている為、必要魔力も膨大なものとなり、体の強化も化け物級に強くなる。

まさに僕専用というか、僕にしか使えない強化方法だろう。



そうしてるうちにエーレ山の途中まで来て馬車は止まった。

ここからは道が悪く、岩などもある為馬車では進めず登山となる。


シルビアは1人馬車から降りると、馬車と馬を切り離し、手綱を持っていた馬引き2人にここで待機するよう伝えた。


「さてと…………、いくぞー!!しっかりつかまってろー!!」


シルビアは気合いを入れ、馬車の車体をゆっくりと持ち上げた。


うん、大丈夫だ。軽い、ボールみたいだ。


「んじゃ、行ってきまーす!」


言うなり馬車を頭上に上げ、ダッシュで走り出した。


山を登っていた人達がギョッとしながら、こちらを見て立ち止まる。

どうだ、これが超身体強化だ!


その人達の上をジャンプで飛び越え、次々に山を駆け上った。


「とりゃ、スーパージャーンプ!!」


勢いをつけて飛び上がると、木々をはるかに越えて頭上には青い空が広がった。


皆んな見てる?これがいつも僕が見ている風景だよ。

なかなか素敵なもんだろ。


そのままの勢いで着地し、ペースを落とさず駆け上るとあっという間に山頂に到着した。


だが、楽ちんだったよと喜ばれるどころか、非難の嵐だった。


馬車内は激しく揺られていたそうで、エディス、ルオーク、ナイルの3人は身体強化を使って身体を支えつつ、カトリーヌとティーエを守っていたそうだ。


ティーエはグロッキー状態で、馬車から降りるとゲーッと吐いていたし、カトリーヌちゃんにも涙目で睨まれてしまった。


しばらく休憩をしてから、当初の目的のボート漕ぎの時間となった。


勿論、ルオークとカトリーヌちゃんがペアで、僕とエディス、ナイルとティーエの組み合わせだ。

ナイルが文句を言っていたが、お前なんかと女子を一緒にできるか!と一喝して黙らせといた。



「はー………カトリーヌちゃん怒ってた。へこむわ〜」


シルビアは大きくため息をついた。

あんな可愛い子に、でっかい瞳で睨まれたら悲しくなる。


「僕やルオークはシルビアの無茶振りに慣れてるけど、他の人といる時は気を使ってあげた方がいいかもね。皆んながシルビアについていける訳じゃないんだし」


へこんでる僕が珍しいのか、エディスが少し楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。


「昨日の夜もさぁ、カトリーヌちゃんと距離を詰めようと自分の事結構ぶっちゃけてみたんだけど、軽くかわされちゃってさ。全然心を開いてくれなかった。もうぶっちゃけ損だよ、恥ずかしかったのに〜」

「何をぶっちゃけちゃったの?」

「そ、それは秘密」


いくらエディスにでも言えない。

異性相手に言うのは流石に無いと思う。


「教室の女の子とかは私も〜とか話題も盛り上がるんだけどなぁ。やっぱ美少女は会話もレベルが高いのか。距離の詰め方が分からん。ただ今日更に距離がひらいた事だけは分かる」

「あははっ確かに。シルビアのやりたい放題に引いてたね」

「笑うな。でも、ちょっと旅行にはしゃいじゃって周りが見えてなかったかも。人を気遣うとかも最近してないしなぁ」


下調べして、ここもあそこも行きたいと楽しみにしていたのは事実だ。ルオークの応援という目的と、自分の楽しみのどちらにウェイトを置いてたかと考えれば、自分の方かもしれない。


「自負勝手な生き方してるな。エディスが前の世界の僕を見たらビックリするかも。本当にシルビア?って」


だって前の世界じゃ、母さんが亡くなってから旅行なんて行った事もなくて修学旅行がもの凄く楽しみだった。

古い建築物や、歴史ものが好きだったけど、あの世界での僕はそれを楽しむ余裕さえもなかった。


「そんなに違うの?」

「人に気を遣うし、常識の範囲内で生きてたし、我慢もいっぱいしてた。2度目の人生の今は楽しくて仕方ないよ。たかが外れるくらい、周りの事なんてどうだっていいくらい、やりたい事で溢れてる。正直、今は人にどう思われたっていいんだ。どうせ僕に何もしてこれないんだから」

「そうなんだ」


木のオールを漕ぎながら、それだけ短くエディスは言った。


か、軽い。ルオークだったらいっぱい突っ込んでくるとこだけど、いいんだそれで。


エディスは何も言わなかったが、沈黙も心地よかった。


水の揺らめきと、頬をくすぐるそよ風に降り注ぐ暖かい日差し。


お前は僕の事当たり前のように受け入れるな。

無理してる感じでもなく自然に。

だからか、お前の側にいるのは心地いい。


「見て、いい雰囲気になってるよ」


エディスは少し先にある一艘のボートを見ながら静かに笑う。

その視線を追うと、ルオークとカトリーヌが楽しそうに笑いあっている姿が見えた。


「あいつ本当にカトリーヌちゃんの事が好きなんだな。アンネちゃんの事も普通に好いてるんだろうけど、あんな顔見せた事ないもんな。何か…………ルオークの甘々顔見てると恥ずかしいな、必死に恋してる感がもう見てられない」

「僕も前に思ったよ。親友といえど、そうゆう顔を見せられるのはちょっと戸惑うね。なんて言ってるけど僕も側から見たらそうなのかもしれない」


その言葉に、誰か好きな人いるの?と気軽に声をかけそうになったが、口が動かなかった。

僕を見るエディスの瞳とぶつかる。

お前がそんな目で見るから、何も言えなくなった。


ヤバい、スイッチ入った。

顔が火照る。そんなに見るなよ。

言葉にしなくたって目が語ってる、僕が好きだって。

もう心臓の音がヤバいんだけど。


悔しいから僕からは目を逸らさない。


やっぱり訂正。最近は心地いいより、たまに落ち着かない。





「体調はもう大丈夫か?」


心配そうなルオークの顔に、カトリーヌは嬉しくて微笑んだ。


「ありがとうございます、ルオーク様。もうすっかり元気です」


あなたは他の攻略者と違って一途に私を思ってくれてるのよね。

もう攻略出来てるからこのままキープするとして、本当はエディス様と一緒に乗りたかったけど、婚約者のシルビアがいるんじゃ流れとして不自然だものね。

ナイルは2人きりになったら手を出されそうで不安だし、ティーエ君は一緒にいたら美少女2人みたいだから無しだし、今日はあなたで正解ね。


他のボートの女性がチラチラとこちらを見てくるその視線に、高揚してきた。

どう、美男と美少女でしょう?


山登りに城や墓巡りに連れてかれた時は、もう終わったと思ったけど、このプランだけはいいじゃない。


「今日はすっかり会長のペースでしたね。私はせっかくのお休みだから皆んなでゆっくりとお話ししたかったな」


上目遣いでルオークを見ると、少し照れたようにルオークは視線を逸らした。


「そうだな。ひたすら歩いてるばかりで喋ってる余裕もなかったな。本当にシルビアはやりたい事にまっしぐらで迷惑な奴だよ」

「ふふっ、でも昔からの仲良しなんですよね。女性と男性の友情っていうのもあるんですね」

「あいつは男みたいな奴だからさ。女だけど別枠っていうか」

「分かります。会長は独特ですよね」


どうゆうふうに育てば、あんなになるのかしら。

そうだ、ルオークならシルビアの親についても詳しいだろうからリサーチしとかないと。


「会長のご両親ってどんな方なのかしら。ルオーク様は知っています?」

「ああ、知ってるけど…………。両親も独特ではあるな」

「お父様のアルビシス公爵は有名でしょう。貴族の中での1番の権力者で、お金持ちで、剣技が好きで公爵家独自の大規模の騎士団を持って力をつけているとか」

「そうだな、どれも合ってる。一目見れば直感的にこうだって分かる人だけど、何て説明したらいいのかな」


ルオークはうーんと考え始める。


「見た目がまずヤバい。195フィートの大柄で威圧的なオーラを纏って、獲物を見るような鋭い目つきに、話す言葉は毒だらけ。毒はいてしか喋れないんじゃないかな」

「へ、へえ………凄い方なのね」

「毒言葉も言われ続けてると慣れてくるのか、エディスなんてうつってきて毒舌なってきてるし。陛下もそうだよ。あの親子は公爵の毒舌の犠牲者だ」

「エディス様も公爵と関わってるんですか?」


仲が良くない設定だったけど、今はシルビアとの友情があるから変わってきてるのかしら。


「ある時期から公爵に何かと構われてるようになってさ。お陰でエディスの口も悪くなってきた。陛下なんて、結構な事言われてるのにニコニコしちゃって、あれは完全に麻痺してるな」

「そうなんですね………。私も1度お会いしてみたいわ」


すると、ギョッとし慌てた顔でルオークが見てきた。


「絶対に駄目だ!公爵は女性だろうと容赦しない、心折れるぞ!」

「そ、そうなんですね」


ルオークが本気で心配している。

王太子ルートでいくなら、公爵がどんな相手か1度見ておいてもいいと思ったけど、この反応を見たら不安になってきたわ。


「でもシルビアが一緒にいれば大丈夫かも。公爵は夫人とシルビアの前では声がちょっと高くなって、ニコニコとデレちゃってそれはもう普段と違い過ぎてゾッとするんだよな」

「まぁ、会長はとても愛されてるんですね」


親バカなのは、シルビアが変わってもそのままなのね。


「シルビアに優しく笑ってる姿がまた気持ち悪い。カ……カトリーヌは聖女だから今後会う機会があるかもしれないけど、関わろうとしたら絶対に駄目だ」

「ありがとう、ルオーク様。そんなに私の事を心配してくれてとても嬉しいです」


ニッコリと微笑むと、ルオークも小さく笑った。

友人達とは馬鹿笑いしてる彼も私の前ではこんなにも大人しい。

見ないようにしながら、いつも私の事を見てるの気づいてるのよ。


ねぇ、そんなに私の事が好き?

でもまだ告白とかはしてこないでね。皆んなとのイベントをこなしてから最終的に誰にするか決めるんだから。

ごめんなさいね、もう少し我慢していて。





周りのボートを見ながら、ナイルはため息をついた。

見事に恋人だらけだ。


「ちょっと!不満気にため息なんかついちゃって腹立つんですけど!こっちの心境ですからね、それ!」


キャンキャンと吠えるティーエをチラッと見て、あーあとばかりにまたため息をついた。


カトリーヌちゃんと一緒が良かったけれど、警戒されてるしな。


「またため息!腹立つー!」

「うるさいな、お前は。さっきまでぐったりしてたくせに。あー、うるせー。周りは恋人ばっかなのに、何が楽しくて男なんかと」

「その言葉そっくり返します。僕だって先輩みたいなふしだらな人と一緒なんてごめんです」

「俺のどこがふしだらだよ?今は真面目で通してんのに」

「どこって、顔に言動に行動全部ですよ。目じりなんてちょっと下がり気味で、いかにも軽薄そうな顔してますよね」

「お前は可愛い顔して、口は減らないな」

「可愛いって言うな!そんな事言われて喜ぶ男はいませんよ!」


ぷうっと頬を膨らませて、ティーエは不満をあらわにする。


「えっ、お前それわざと?そんな可愛い仕草しといて、可愛さアピールしてるだろ」

「してません!」


顔を真っ赤にして、むっとする顔まで可愛いらしい。


「お前男だよな?」

「失礼ですね!男に決まってるでしょう!」

「そっか………。じゃあ、お前もカトリーヌちゃんみたいな可愛い子と一緒にボート乗りたいとか思ったりすんの?」


その言葉に、ティーエはカトリーヌの乗るボートに視線をやった後、表情を暗くした。


「先輩、嫌味な人ですね。分かってるんでしょう?僕みたいなのが相手にされる訳ないって」

「え?いや、そんな事ないだろ」

「女の子なんて、小さい頃はお人形扱いで友達になってきて、大きくなったら隣りにいると女より可愛いくて惨めになる、男の癖に〜とか言うんですよ」

「………実体験?」

「女の子を好きになったって、友達だと思ってた〜とか、自分より可愛い子は無理、この人と付き合ってるって言うの恥ずかしいとか言うんですよ」

「ねぇ、それ実体験?」

「先輩こそうるさいんですよ!黙ってオール漕いでてください!」


うわ〜可愛い顔して腹立つな、コイツ。

人に漕ぐの任せといて当たり前のように。


「お前小さいな。身長いくつ?」

「……164フィートですけど。何ですか?自分が大きいからって自慢ですか?」

「いや、単純に聞いただけだけど。お前突っかかってばっかで卑屈だな。小さいし、細いし、体力はなさそうだし、そんなんでシルビアの弟子なんて大丈夫か?」


すると、またキャンキャンと言っくるかと思えば、ティーエは口を固くつぐんで瞳を潤ませた。


「えっ?ちょっと、泣くのは無し!その顔で泣かれちゃ俺完全に悪者じゃん!」

「泣きません。そうですね、あなたは一応兄弟子だし、いささか僕が失礼でした」


ティーエは瞳にじんわりとした涙を慌てて拭う。


「僕、あの学園に入学してもう5人の男に告白されてるんですよ」


ん?いきなりどうゆう話題振ってくるんだ?


「入学するまでは男から告白なんてありませんでした。女っぽいっていうのからとうとうそうゆう対象にまでなってしまった事がもうショックで………。僕なんか、この先ずっとそうゆう人生しか送れないんだなと思ってた時に会長に出会ったんです」

「災難だな〜。いくら可愛いからって、男が好きな訳じゃないんだろ?」

「はい、正常に女性が好きです。話は戻りますけど、僕会長の事初めは男だと思ってたんですよ。ある時、女性だという事を知って衝撃を受けました」

「驚くよな。背も高いし、凛々しい顔立ちだもんな」


でも、よく見れば女性って分かるけどな。


「僕とは逆で、会長は男性っぽいのに、全然卑屈にならずに堂々と胸を張って生きていた」


ティーエは顔を輝かせながらナイルを見る。


「それどころか自信に満ち溢れて、強くて優しくて格好良くて、すっごくすっごく、誰よりも輝いてた!」


満開の笑顔を向けられ、逆にナイルは真顔になった。


うわっ、破壊力凄っ。このはちきれん笑顔、可愛い過ぎるでしょ。駄目でしょ、こんな顔しちゃ。


「僕なんてってずっと思ってました。自分に自信がないから、何か言われるとすぐ突っかかって卑屈になって、こんな容姿だからって諦めて納得して。でも、会長と会って間違ってたのは僕だと気づかされました」

「そうか、良かったな」

「はい!僕は変わりたいんです、会長のように。自分に自信が持てるように、好きになれるように」

「なら今日はシルビアに振り回されてガッカリしたんじゃないのか?気も使ってくれないし、こんな人だったんだ〜って」


出会って直ぐに分かって良かっただろう。

これに懲りて、弟子なんて辞めてくれればいいけど。


「とんでもない!逆に自分を貫く人は、他の人の事なんてまるで気にしないんだなって分かって勉強になりました!人の目を気にしたり、意見に耳を傾けたり、そうゆうのに惑わされて身動き出来なくなってた僕はやっぱり駄目だったと改めて分かりました!」

「………そうゆう受け取り方しちゃうんだ」

「やりとげようとするあの強い意志!あの気迫に誰にも止めませんでしたよね!僕は改めて会長の元でもっともっと学ばせて頂きたいと思いました!」

「ああ、そう。やっぱ、やりたいの」


結局はそうなるか。

シルビアは忙しいし、基礎的な事は俺がやる事になりそうだな。


期待に満ちた瞳をキラキラさせているティーエを見ながら、ナイルの口元にも笑みが浮かんだ。


何がそんなに嬉しいんだか。


あの時の俺のようだな。

忌まわしい伯爵家の邸宅が崩れていく様を見て、解放されたような、暗闇から光を見つけたようなあの感じだ。


仕方ないな。

その可愛いさに免じてしばらくは面倒みてやるか。

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