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攻略対象 カディオ・デネビア

20日前に国王陛下が訪問し、帰った後もしばらくは教師も生徒も浮ついた気分でいたが、今ではようやくそれも落ち着いてきた。


だがそれも束の間で、あと7日後にやってくる夏期休暇の為に、再び生徒達は浮つき始めている現状だ。



昼食ももう外で食べるには暑くなってきており、テラスには人もまばらになってきていたが、今日もこの4人はテラスのテーブルで昼食をとっていた。



「暑っー。もう夏真っ盛りだな」


文句を言いながらルオークは手で顔を仰いだ。


「そうだね。でも、もうすぐ休暇に入るから頑張って耐えなよ」


涼しい顔で食事を口に運びながらエディスが言う。


「ったく1人だけ涼しい顔しちゃって本当は暑くないんだろ」

「暑いに決まってるだろ。髪とか肌とか色素が薄いから涼しげに見えるけど、ちゃんと汗かいてるよ」


エディスは、暑そうにグタッとしているナイルと、暑さで顔を赤くしているカトリーヌを見た。


今日は個室の予約が取れなかったから、外になるのは仕方なかった。このメンバーで食事をすると注目の的なので、個室以外では人の少ない所を選ぶようにしていた。


特にカトリーヌを巡るナイルとルオークの争いを聞かせる訳にはいかない。ルオークは好きとは言ってないが、ムキになっている姿は誰が見たってバレバレだからだ。


「カトリーヌ嬢、個室取れなくてごめんね。暑いよね。ナイル先輩とルオークが喧嘩しないなら中でも良かったんだけど、あまりにみっともないからさ」


その言葉にすぐにナイルが突っかかってきた。


「俺は何にもしてないのに、あいつが勝手に絡んでくるんだ。自分の気持ちは隠してるくせに嫉妬してるんだろ?」


ルオークを見てニヤッと笑ったナイルに、ルオークの表情が変わる。

これでまた言い争いになるところだが、この暑さだ。食べたら早々に切り上げたい。


「ナイル先輩も煽らない。せっかく皆んなで楽しく食事をしてるんだから、美味しく食べましょうよ」


自分で言っておいて、楽しいかこれ?と思ってしまった。

週の半分は彼らと食事をしており、慣れてはきたが間を取り持ったり、ルオークを促したり、話を誤魔化したり、かなり神経を使っている。

シルビアも協力するとは言ってたけど、間違いなく1番の功労者は僕だろう。


ルオークの為にここまでする事になるなんて。


「あっ、そうだ。もうすぐ休暇に入ると皆んなバラバラだから、休暇中良かったら王室の避暑地に集まらない?」


ニッコリと笑って3人を見ると、見事反応が分かれた。

カトリーヌは瞳を輝かせ、ルオークは何言ってんだ?と驚いた顔をし、ナイルはどうして俺がお前らと?と顔をしかめた。


あー腹立つな。こっちだって、誘いたくて誘ってるんじゃない。


「何言ってるんだよ?どうしてこのメンバーで集まるんだ?」


ルオークが、は?という顔で見てきたのが無性に苛ついた。


お前の為にやってやってるんだよ、と今すぐにでも暴露してやりたかったが、顔には苛立ちは出さずにニコッと笑った。


「思いの外皆んなと集まって話してるのが楽しくてさ。休暇中全く会えないのも寂しいなと思って。1泊か2泊程度どうかな?」

「エディス様、私は大丈夫です」


すぐさまカトリーヌが返事をしてきた。

よし、彼女が来ないと何も始まらないからな。

あとはルオークと、当て馬役のナイル先輩が来れば、ルオークも勝手に行動してくれるだろう。


「カトリーヌちゃんが行くなら俺も行こうかな」


ナイルはカトリーヌへとニコニコと笑いかける。

さっそく当て馬が動きだしたぞ、と思ったらルオークもすぐに参戦してきた。


「ふざけんな、エディス何でこいつなんか誘うんだよ!?」

「だっていつものメンバーで誘ってあげないと仲間外れみたいだし、カトリーヌ嬢だって寂しいよね?」


お前が自ら行動しなさそうだから、当て馬として投入する事になったんだよ。


「私も誰か欠けてしまうより、皆んな一緒がいいです」


笑顔でカトリーヌはルオークを見る。

それにより、ルオークはうっと怯んだ。


「………仕方ないな、こいつが行くなら俺も行かないと」

「先輩をこいつ呼ばわりすんな。お前は来んなよ」

「は?エディスの友達は俺なんだけど?お前こそ来んな」


この暑い中、またルオークとナイルの低レベルの戦いが始まりそうだ。この会話を遮って潤滑に進めるのも僕の役目になっている。


「でもカトリーヌ嬢1人だと変な噂でも立ったらいけないから、シルビアも呼ぶよ」


その言葉にすぐさま反応したのはナイルだった。


「シルビアも来んの!?」


驚愕の表情で見られ、思わずふっと笑ってしまった。


「悪さ出来ませんね、先輩」

「い、いや、悪さなんてしないけど………。シルビアを女子枠に入れちゃうか〜。その人選どうかと思う」

「逆に婚約者以外の人連れてくる人選あります?」


ニコッとと笑顔で見ると、ナイルは視線を彷徨わせた。


「うーん、シルビアねぇ、シルビアか………。あいつ俺には凄く厳しいからな」

「それだけの事をしたんでしょう」

「あいつ婚約者で大丈夫?何かされてない?俺さぁ、前にシルビアから逃げきれたら見逃してやるって言うから必死に逃げたらあいつ全く追いかけて来なくて、これなら逃げれると思って、ふっと後ろを見たらすぐ背後にいたんだよ!もう恐怖で叫んじゃったよ、あの距離一瞬で詰める!?怖くない!?おまけにニヤッて笑って確信犯なんだよ!」


興奮してナイルは語ったが、いかにもシルビアがやりそうな事だ。


「意地悪したくなっちゃったのかな。可愛いね」

「はい?今の話聞いてた?可愛い要素全くないんだけど」

「まあ、要はそんな扱いを受けるナイル先輩が悪いという事ですね。シルビアを連れていけば、先輩も規律正しく生活できますよ」

「休みくらい羽目外させてくれよ」

「何を言ってるんですか、年中外れてますよ」


エディスはチラリと、無言で考えこんでいるカトリーヌを見た。


何を考えてるんだ?さっきまでは喜んでいたのに。

交流のなかったシルビアと過ごす事になるから不安なのか?

ナイル先輩が余計な事言ったし、変な印象ついてなきゃいいけど。


「カトリーヌ嬢、それでいいかな?」


微笑みながらカトリーヌを伺い見る。


不服があったとしても、面と向かって嫌とは言ってこないだろう。ここはカトリーヌの気持ちは無視して押し倒す。


「はい、大丈夫です」


複雑そうな表情でカトリーヌは頷いた。


「良かった、皆んなで行けるね。日取りは後で予定を教えてもらって調節しようか」


余計な口を挟まれないよう、どんどん勝手に進めていけば僕のペースだ。


その時、向こうからカトリーヌの名を呼びながら歩いてくる人影が近づいていた。


「カディオ先生じゃん。カトリーヌちゃんに用か?」


ナイルは不思議そうにカトリーヌを見た。

カディオは1学年の授業には全く関わっておらず、接点がないからだ。


カトリーヌはカディオの姿を見て目を丸くしながら、じっくりと上から下まで観察するように見ていた。


「外は暑いな。君らよく外で食べれるね」


カディオはハンカチで額の汗を拭う。


「先生室内にこもってばっかで体力ないんじゃないの〜?」


からかうようにナイルが笑うと、カディオは反論しようとしたがそれも事実だったので口を閉じた。


「そうかもしれないな。あと、カトリーヌ嬢、客人がみえてるから終わってるなら一緒に来てくれないか?」

「あ、はい。もう大丈夫です」


そう言ってカトリーヌは共に食べていた3人を見る。


エディスはカトリーヌへとニッコリと笑った。


「僕らの事はいいから行っておいで。カトリーヌ嬢がいないなら男3人で食事するのも何だからすぐに解散するし」

「はい、すみません。では、また明日も一緒に食べましょうね」


カトリーヌは3人へとニッコリ微笑む。

それに釣られてナイルも笑い返し、ルオークも照れたように笑った。


ははっ、大の男2人がデレデレだな。

最後にはこの2人のうちのどちらかが勝者になるんだろうか。今のところ他の対抗者はいないからな。


カトリーヌは3人にお辞儀をすると待っているカディオの隣りへと歩いていった。


そのうっとりとした顔に、一抹の不安がよぎる。


ん?初対面なんだよな?その顔は何だ?そうゆう顔が好きなのか?


それに気づいていないナイルとルオークを見ながら、不穏な予感がしていた。


最後は3人に増えるかもしれないな…………。



――


隣りを歩くカディオを食い入るように見つめていると、気まずそうにカディオがこちらを見てきた。


「あの………何かついてるかな?」


そう聞かれハッと我に返った。


こんな出会いではなかったはずが、不意打ちのように現れるから心構えが出来てなかった。


「い、いえ。初めての先生だな〜と思って」


カディオ・デネビア。攻略対象の1人で、茶色の髪に、瞳、それに眼鏡がちょうどいい塩梅で、眼鏡キャラになる為に生まれてきたような男性だ。


それに、大人の色気っていうの?あの3人も勿論格好いいけど、それとは違った歳を重ねた大人の男の魅力があってドキッとしてしまった。彼らも何年か経てばその魅力を手に入れるんでしょうけど、現状の本物の大人の魅力を見た後では、まだ子供ねと思ってしまった。


「入学式で一応挨拶もしたんだけどね」


ふっと小さくカディオが笑う。


キャー、笑ってくれた!す、素敵ー!!


「突然で驚いただろう、魔導研究の学科を担当しているカディオ・デネビアだ。2学年から教える事になるから俺の事は知らなかったか」

「よろしくお願いします、カディオ先生」


いえ知ってます!よーく知ってます!


「訪ねてきた客人っていうのは教団の人なんだ。夏期休暇の際の計画を立てたいみたいだ」

「あっそうなんですね」

「今日はたまたま手の空いてるのが俺しかいなくてね。何もないとは思うけど、学園にいる間に万が一の事があってはいけないから俺も同席させてもらってもいいか?」


眼鏡の奥の瞳がじっと私を見る。


眼鏡男子、いえ大人の男性の魅力最高!

今まで私の周りにいなかったタイプだからめちゃドキドキする。


今23歳よね。私が16歳だから、歳の差7歳、いける!

っていうか前世からの年数を合わせると私の方が歳上だし。

大人な恋もいいかもしれない。


「カトリーヌ嬢?」

「え?あ、はい。同席してもらって大丈夫です」


いけない、いけない。ボーッとしちゃった。

同席じゃなくて2人きりでお話ししたいわ。


ニコニコとしながらカディオを見つめる。


学生は見慣れてるでしょうけど、こんな美少女は中々いないでしょ。もっとよく私を見てよ。


「あの、カトリーヌ嬢………」


言いかけて、カディオは何かに気づきビクッとすると、私の手を引っ張って横の廊下に逸れた。


えっ何?人気のない所に連れてく気?


だが、カディオは直ぐに立ち止まり、もとの歩いていた廊下の方を見る。


そこには立ち止まってこちらを見ている者がいた。

カディオはその者を見て体を強張らせた。


「………会長?」


あれシルビアよね。

カトリーヌは怪訝な顔でカディオを見る。


怯えてるの?この2人の間に何かあったの?


だが、シルビアは何を言うわけでもなく、すぐにプイっと向こうを向いて行ってしまった。


「えっと…………カディオ先生?」


誰もいなくなった廊下をじっと見つめているカディオに声をかけると、カディオはハッとし私を見た。


んも〜、何?シルビアとどうゆう繋がりな訳?

シルビアは王太子ルートでしょ!何で他の攻略対象者と毎回関わってるのよ!ヒロインは私よ!


カディオは気まずそうに下を向いた。


あーもう気になる!その態度の理由は!?


「シル………会長と何かあったんですか?」


話しやすそうな雰囲気を作って冷静に聞きだすのよ。


「ごめん、変なとこ見せちゃったね」

「いえ。でも、今隠れようとしたんですよね。何かあるんですか?」


早く言ってよ。このまま何も言わないつもりじゃないでしょーね。


「何でもないよ。気にしないで」

「何でもない訳ないでしょーが!」


思わず声を荒げて、瞬時にハッとした。


「あ………嫌だ、私ったら…………」


げっ、唖然とした顔で見てる。

可愛くて優しいカトリーヌのイメージが〜!


「駄目だな、俺は教師に向いてないのかもな………」

「えっ、ちょっと何もそこまで思わなくても」


カディオはガクッとうなだれてしまった。


え〜、もう何なの〜!?


「会長のシルビア嬢とは昨年、ある事件が原因で気まずくなってしまったんだ」


ボソッとカディオが語りだす。

あっようやく話してくれるわけね。


「彼女は教師の中でも歳の近い俺を頼ってきてくれたのに、被害者が平民という事もあって俺はうやむやにしようとしたんだ。相手は貴族だ、そんなのこの学園以外だってどこだってそうしてる。俺は何の疑問も持ってなかった」


昨年何か事件があって、シルビアがカディオ先生に助けを求めたって事?


「だから、シルビア嬢の裏切られたような、それに失望をあらわにした顔には凄く驚いた。彼女は普段は冷静だが、あの時は動揺していたようで、口汚く思いっきり罵られたよ。それでもどうして俺がここまで言われなきゃいけないのかあの時は分からなかった」


カディオはうなだれていた顔を上げ、カトリーヌを見る。


「あんな軽蔑の瞳で見られるような事は俺は何もしてない、加害者でもないのに何故なのか。結局、俺は何もしなかったが、シルビア嬢が自分で事件を片付けてしまったよ」


んー………。どんな話なのか全然分からないんですけど。

要は助けを求めたけど、助けてくれなかったからシルビアが怒ったって事?


「あれから廊下ですれ違ったりする時に、冷ややかなさげずむ目で見られたり、小声でクソがとか辞めろとか舌打ちとかしてくるんだよ。地味に傷つく」

「口悪いですね。1回会っただけだけど、そんな印象なかったけどな。でも酷いですね!助けてくれなかったからって逆ギレですよそれ!」


そんな人だとは思わなかった。紳士みたいな感じだったのに。

やっぱり大元の悪役令嬢の部分が残ってるのかしら。


「違うんだ、彼女の文句を言ってる訳じゃなくて……。俺が悪いんだ、全て」

「何でですか?悪いって、何もしてないんですよね?」

「そうだ、俺は何もしていない。力にもなってやらず、傍観し、ただここにいるだけだ」


う〜ん、話がよく分からない。

先生ってもしかして自分の気持ちを伝えるの苦手な人なのかしら。


「それはどうゆう意味ですか?」

「シルビア嬢のやってる事を見ていて気づいたんだ。彼女はきっとそういった事を俺たち教師に求めてたんだって。生徒の為の学園、そんなふうに考えた事もなかった。教えてやってるんだ、くらいの気持ちいたんだ」

「そうなんですね………」

「彼女はもう俺たち教師に何も期待していない。頼りにもしていない。だから、自分で変えようとしているし、それを実現してしまっている。この学園で教える程度の事なんて別に俺じゃなくたって誰だって同じだ、じゃあ俺がここにいる意味は?教師でいる意味は?いろいろ考えるといつも彼女の言葉を思い出すんだ」

「会長は何て言ったんですか?」


すると、カディオはそれを思い出したのか小さく笑った。


「相当ぶち切れてたからね、お前それでも教師か、このクソ野郎!って怒鳴られたよ」

「うわっ、口悪いですね」

「他にも、主役は教師じゃなくて生徒なんだ、貴族も平民もお前らが差別してどうするんだ、未熟の者達を導いてやるのがお前ら教師の大人の役目なのに、我が物顔で支配者気取りか、教えるだけなら誰だって出来る、それ以上の事を人を育てる事をしなきゃお前らなんている意味ない等々、もっと汚い言葉で罵られたんだ」

「会長言いますね………」


生徒の為の、なんて偽善的と思ってたけど、これはもしかして本物のお人好しなのかしら。


「それだけ失望したんだろうな。あの剥き出しの感情の熱量と、失意の眼差しと言葉が今でも蘇る。俺は天才だ何だってもてはやされて勉学も好きだったからずっとそればかり、自分の事ばかりで、他人の気持ちなんて気にした事なかった。そんな俺が教師なんてな。研究施設で俺の研究が盗まれて腹が立ってたところに声をかけられたから来ただけで、人を育てる気なんて全然なかった」

「でも仕方ないですよ。教師って殆どがそんな感じですもん、生徒は教えをこいに来てるんだって上から目線で。たぶんどこの学校もそんなものですよ」


この世界は階級もあり、差別的だけれどそれがここでの普通なのだ。だから、会長の考え方が変わってるのだ。

まるで前の世界の学校のような…………。


「君がナイル君と一緒にいるのを見てドキッとしたよ」

「えっ…………?」

「彼も更生してるけど、少し距離を置いた方が………」

「もしかしてその過去の事件てナイル先輩が関わってます?」


カトリーヌの言葉に、カディオは青ざめた。

そして無言で視線を逸らし、床を見つめた。


「関わってるんですね」

「…………俺は駄目な教師だな。彼も努力してるのに、君にも余計な疑念を抱かせたり、この結末をどうもっていけばいいかも分からない。正解が分からない。これが他者と関わってこなかった結果か、情け無い姿を見せてしまってすまない」


うん。かなり拗らせてるタイプだという事は分かった。

天才的頭脳の持ち主だけれど、それ以外は不器用そうね。


「教師に向いてないのも分かってる。辞めようかとも思ったけど、これ以上失望はさせたくなくて………」

「えっ!?辞めないで下さい先生!」


まだ何も始まってないでしょ!物語はこれからでしょ!

冒頭からフェイドアウトって冗談じゃないわよ!


睨むようにカディオを見るカトリーヌに、カディオは驚いた顔をした。


「…………ありがとう。出会ったばかりの俺にそんな真剣に向き合ってくれて君は優しいんだな」

「あ、いえ、そんな……。先生は確かに少し、不器用そうなとこはありますけど、今私達生徒に向き合おうとしてくれて悩んでるんでしょう?自分は教師で偉いんだぞって顔してる他の先生より、それって全然立派な教師です。駄目なんかじゃない」

「ありがとう。今は辞めるつもりはないよ」


カディオは優しい瞳でカトリーヌを見つめ、瞳を細めて少し照れたように笑った。


「いずれは研究の方に戻るけど、それは今じゃない。まだ何もしてないから、このまま辞めたら俺だって納得できない」

「本当ですか?良かった」


だったら辞めようと思ったとか言わないでよ。

でもあれね、今ので少し私に気を許した感じ?

いい顔して笑ってるじゃない。歳上だけど可愛いわね。


「恥ずかしい話、シルビア嬢に認めてもらいたいんだ。あんなに失望させてしまったけど、ちょっとはマシな教師になったって見直してもらいたい」


ん?シルビア?

その名を口にしたカディオの顔はまるで……………。


「シルビアの事好きなんですか?」


思わず呼び捨てしてしまったが、それさえも気づかないくらいカディオは動揺し、顔を赤くした。


「なっ………な、な、そ、そんな訳ないだろ!教師と生徒だし、だいたいいくつ離れてると思ってるんだ!?」

「会長となら6歳差でしょう?有りですよね」

「あ、有り…………!?」


カディオはもう真っ赤赤だ。


うわ〜、もうやる気なくす。またシルビア?

この物語のヒロインは私よ、カトリーヌ・ココットよ。

王太子ルートだけでも邪魔なのに、他のルートにまで入ってこないでよ。


「教師をからかわないでくれ。す、好きなんて事はないから、絶対に」


酷く落ち着かない様子でカディオは眼鏡をクイッと上げるが、その手が僅かに震えていた。


どんだけ動揺してるのよ。

これが私の事でだったら、大人なのに可愛いって思えるけど、シルビアを思ってなんて腹が立つしかないわ。

罵倒されて好きになるなんて、ちょっとM気質あるんじゃないの?


不満げにカディオをじっと見ていると、何を勘違いしたのかカディオは嬉しそうに笑った。


「俺を心配してくれてるのか?本当に優しいな。聖女なんてどんなものかと思ってたけど、君を包む雰囲気はとても優しくて暖かい」

「カディオ先生………」

「おかげで話しやすくて、いろいろ話してしまったよ。下手だし、つまらないのに真剣に聞いてくれてありがとう」

「いえ、大したことはしてないので」

「それでも嬉しかった。頼りない教師かもしれないけど、この学園にいる間、君の事を全力で守るよ。だから悩みでも些細なことでもいいから何でも頼ってくれ。俺は君の力になりたい」


その真剣な瞳に胸がキュンとした。

おーっと、これフラグ立った!

シルビアルートに行きかけたけど、戻ってきたー!

これはカディオとの交流を深めれば、どんどん好感度上がるパターンでしょ。


「はい、先生とても頼もしいです。嬉しい」


ここぞとばかりに満開の笑顔で笑ってみせる。


「少し寄り道してしまったね。行こうか」


カディオは照れたような顔で眼鏡を上げ、元の廊下の方を見た。


「ええ、でもこうゆう寄り道嫌いじゃないですよ。カディオ先生の事も知れたし」


カトリーヌはカディオの隣まで歩いていき、カディオの顔を覗き見る。視線が合うと、カディオはパッと違う方を見た。


「い、行こうか」


短く言い、カディオは歩き出した。


お〜意識してる。俄然やる気が出てきた。


優しくて暖かい雰囲気が好きなのね。

私は見た目も愛らしいし、フワッとしてるから元からそうゆう感じでしょう。先生がM気質があるっていうのなら、S気出したあげてもいいのよ。


一瞬諦めかけたけど、やっぱりここは私が主役の世界なんだわ。

私の望むように進んでいってくれる。


ふふっと笑うと、カトリーヌはカディオの隣へと行き、共に歩き出した。

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