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生誕パーティー

夕方の薄暗くなり始めた頃、学園で1番大きい祝儀ホールに生徒達が続々と集まり始めた。


今日は昼より後は自由時間となっており、女子生徒達はドレス着用に化粧に髪のセットに飾り付けと大忙しだった。


昼食の後に、あっという間に校舎から女性生徒が誰一人居なくなってしまったので男子生徒達は、特にパーティーが初めての1学年は非常に驚いていた。


貴族の令嬢は独自に従者を雇い、支度をしてもらっていたが、平民の生徒達は、被服デザイン研究会がホールを貸し切りドレスの着付けを行なったり、学園の従者達が多数手伝っていたがそれでも手が足りず、終わった生徒も一緒に手伝っていた。




空砲の音が響き渡り、祝儀ホールでは学園が雇った奏者達による演奏が始まった。


「エディスこんなとこにいていいのか?主役は遅れて登場するんじゃないのか?」


ニヤニヤと笑いながらルオークがからかうように言ってきた。


「止めてもらった。極力、僕の誕生日だって事は出さないでただのパーティーのようにしてもらうようお願いした」


ムスッとしながらエディスはルオークを睨む。


「せっかく格好良くしてもらったんだから目立てばいいのに。お誕生日会を開いてもらって感謝してますって」


ぷぷっと笑ったルオークの背中を、苛立ちながらエディスがバシバシと叩く。


「いてっ!ちょっと、止めろって!ほら、注目されてるぞ!」


チラチラと見られているが、それは会場に入ってきた時からずっとだから関係ない。


「エディス正装してるのもあって今日はとびきりいい男だぜ」


ニッと笑うルオークは無視して、ぐるっと会場内を見回した。


シルビアはまだ来てないか。


視界に映るのは、話しかけたそうにこちらを見ている女子生徒達ばかり。いつのまにか増えて円のように取り囲まれている。

しかも、どんどん距離が近くなっているような………。


今日はいつも下ろしている前髪を上げて、紺の正装をし雰囲気を変えてみた。シルビアが深い青のドレスを着るというから、近い色にしてみたのだがあまり着ない色だからどうだろうか。


あからさま過ぎるかな?意識してると思われる?

いや、そこまで思わないか。考え過ぎだ。


エディスは息をつきながらルオークに寄りかかった。


「どうした?」

「不毛な考えにとらわれて」


すると、取り囲んでいた女子達がキャーキャー騒ぎ始めた。


何だ?突然どうしたんだ?


その様子を見ながら可笑しそうに、だが必死に声を殺してルオークが笑う。


「シルビアが言ってたんだけど、俺ら2人が仲良くしてると女の子は喜ぶんだって。女とイチャつくのは許せないけど、いい男同士なら最高の目の保養だってさ」

「はあ?」

「サービス〜」


ルオークが肩を掴み、グイッと抱き寄せてきた。


途端に女子達がどっと騒ぎ出した。


は?こんなのの何がそんなに盛り上がるの?

女の子ってよく分からないな…………。


その時、肩を抱くルオークの手に力が入った。


ハッとし、ルオークを見てからその視線の先を追う。


その視線の先には、軽やかな足取りで歩いてきているカトリーヌ嬢がいた。


ふわふわの桃色の髪を上でまとめ上げ、頭上の輝くティアラがキラキラと光を反射して光っていた。雰囲気に合ったフワッとした感じのピンクのドレスがとてもよく似合っている。


教団から一式を贈ってもらったと言ってたっけ。


彼女が歩くたび誰もがその姿に見惚れていた。

そしてここにも……………。


ルオークに視線を移して思わずドキリとした。


人が恋に落ちる瞬間、というのだろうか。正確にはもうすでに落ちてはいるから、更に惚れ直したが正しい。


何て顔してるんだよ…………。


言葉すら失い、ただその存在に惹きつけられ目を逸らせられないルオークの姿がそこにはあった。


僕の視線にも気づかない。

今ルオークの世界には、ここにいる誰も目には入らず彼女1人だけなのだろう。


表情がもう見てられない。恋に落ちた男の顔だ。

他人事ながらこうゆう内情を見てしまうのは恥ずかしい。


長年一緒にいたルオークの剥き出しの感情に、こちらが照れてしまった。友人だけれど、恋する男の顔を見させられてどうしていいか分からなかった。


だが、直ぐにハッとし周囲を見回した。


幸いアンネローゼ嬢がいなかったのでホッとしたが、ルオークのこんな惚けたうっとり恋する顔を見せる訳にはいかない。


エディスはバンバンバンとルオークの背を強めに叩いた。

それに対し、ルオークはムッとしながら睨んでくる。


「今日のカトリーヌ嬢は美しいな」


サラッと言って笑ってみせるとルオークは再び彼女に目をやった。


「そ、そうだな。とても綺麗だ」


自分の言葉に、カァとルオークが赤面する。

落ち着けルオーク。こんなんじゃ隠しきれないぞ。


そこへ追い討ちのように、シルビア様とアンネローゼ嬢がいらしたわよという生徒の声が聞こえた。


まずい。こんな惚けただらしのないルオークの顔を見せる訳にはいかない。


咄嗟にエディスはルオークを引き寄せ、その顔を胸に押し付け身動き出来ないよう抱きしめた。


「お、おい!?」


びっくりしたルオークの声。

僕だって咄嗟にこんな事しかできない自分に驚いてるよ。


「何してんの?」


呆れたようなシルビアの声がした。


「………サービス?」


そう言って、振り返り僕の時間は止まった。


ルオークの事を言ってられない。

僕の目もそこにいたシルビアに釘付けになった。


いつもの尻尾のような髪型ではなく、下ろしてフワッとさせて肩の所で1つに結び前に垂らしている。そしてドレスはあまり見た事のない、体のラインにそった広がらないシンプルな深い青のドレスだった。ところどころに小さな宝石が縫い付けられてるのか、光の加減で煌めいている。


「変わったドレスだね。でもよく似合ってる」


驚いた。今日のシルビアは何て美しいんだろう。

とても綺麗だ。綺麗すぎて困る。


「どうせ変わり者だと思われてるから好きなの着ようと思って。デザインも自分でしたんだ」

「自分で?凄いね、本当にシルビアに合ってるよ」


でも少し胸元が開き過ぎじゃないのかな。体のラインにそってるからくびれとかも見えるし、ん?


よく見たら腿の辺りが裂けて足が………。


「スリットが入ってるんだ。動きやすいような切れ目の事ね。背中もほら」


背を向けたその後ろ姿に愕然とした。


背中の布がない。大きく腰近くまで肌が開いていた。


前言撤回。これはいけない、他の人に見せたらいけないやつだ。


よく見ると周囲の男子生徒達がチラチラとこちらを見ている気がする。


エディスはルオークを離すと、上着の留め金を外しだす。


「シルビア、上着貸すから上に着て」

「何で?これはこうゆうデザインなの」


前の世界ではとでも言う気か?それでもここでは一般的ではないし、露出が高すぎる。


「だから言いましたでしょ。子供みたいな意地を張って。ほら、羽織るものを持ってきてますわよ」


アンネローゼが黒のショールを差し出す。

流石はアンネローゼ嬢だ。気が利く。


「シルビア、僕の上着を着るかこれを受け取るか2択だよ」


2人に睨まれ、シルビアはしぶしぶアンネローゼのショールを受け取った。


「あーあ、せっかくの美しいラインだったのに。背中から腰、お尻と鏡で見て惚れ惚れしたのにな。どうせ誰も僕の事なんか見ちゃいないのに」


ぶつぶつと文句を言いながらシルビアはショールを羽織った。


大きく開いた背中が隠れたのでホッとした。

前にも際どい鎧姿を見せられた事があったし、もしかしてシルビアは露出癖があるんだろうか。

それとも前の世界ではそれくらいの露出が当たり前だった?


どちらにしろ今のここの常識では、露出は控えた方がいい。

いや、違うな。シルビアは常識に囚われず自由に好きにしていいんだ。僕が他の奴らに見せたくないだけなんだ。


今日のシルビアは本当に息を呑むくらい綺麗だ。

これで、シルビアの魅力を分からなかった者達もその美しさに気づいてしまっただろう。

誰も気づかないままで良かったのに。

誰にもシルビアを見られたくない。

醜い嫉妬だな……………。


「今日は2人で衣装を合わせたんですの?エディス様にしては珍しい色ですもの」


アンネローゼが、シルビアと僕とを見比べながら言ってきた。

今更ながら無断で合わせた事が少し恥ずかしい。


「だから色聞いてきたんだ。やるじゃん、さすがは僕のパートナーだ。ダンスを踊るのにも衣装合わせたみたいでいいな」


シルビアは嬉しそうに腕を組んできた。

まだ始まってもないのにテンションが高い。

うわぁ、ちよっと………胸が腕に当たってるんだけど………。


「いつも明るい色が多いけど、たまにはこうゆう色もいいな。引き締まって見える。格好いいぞ」


近くで微笑まれ、顔が熱を持ったように熱くなってきた。


落ち着け、こんなことで動揺するな。

そうだ、さっきのルオークの顔でも思い浮かべよう。


「シルビア嬢!」


ふいに聞き覚えのある声が聞こえた。


その声の方を見ると、父が手を振りながらこちらへ歩いてきていた。


「父上!?なっ………何普通に来てるんですか、後からの登場でしょう!?」


皆が集まりパーティーが始まってから、ご来賓の紹介がされ大々的に国王陛下入場となっていたはずだ。


「国の式典でもあるまいし、そんな堅苦しくしなくていいだろう。ここの主役は学生達なんだから」


アーレントは周りで騒いでいる生徒達へと手を振ってみせる。


「段取りを崩すのも迷惑をかけると思わないんですか?」


慌てて追いかけてきている数名の教師を見ながら言った。


ホールに入るのも、警備兵達に不審物を持ってないかチェックされたり物々しい感じになっているのに、肝心の父がこれだ。


「このくらい大した事ないだろう。じっと待ってるのも退屈でな、シルビア嬢が見えたから追いかけてきた」


ニコニコと笑いながらアーレントはシルビアへとスッと手を差し出した。


「さっ、レディ、本日のエスコートは私めが致します。お手をお取りください」

「父上!?」


冗談じゃない!今日のパートナーは僕なのに!


シルビアは苦笑い混じりに、ごめんというように僕を見た。


「お久しぶりでございます陛下。では、エスコートよろしくお願い致します」


シルビアの腕が僕の腕からスルリと離れ、差し出された父の手を取った。


父は茫然とする僕をチラリと見た。


「ダンスのパートナーも俺が務めるから大丈夫だぞ。お前は他の学生達との交流も必要だろう?こちらは俺に任せておけ」


父は笑顔でそう言うと、シルビアの手を引いてゆっくりと歩きだす。


え?待って、何これ?は?どうゆう事?


ポツンと1人残されたエディスの肩に励ますようにルオークが手を置く。


「ほら、アンネローゼもダンスしてくれるから元気だせって」


そう言ったルオークをキッと睨んだ。


「俺を睨んだってしょうがないだろ」


そうだけど。いくら何でもこれって…………。


前方でシルビアを連れながら、学生達に気さくに声をかけている父の後ろ姿を睨む。


息子の婚約者を連れてくって何だよ!普通するか!?

一応生誕パーティーってなってるけど祝う気すらないな!


こうして波乱のパーティーは始まった。



学生の演奏会を聴きつつ豪華な作りの別席で楽しく談笑している父とシルビアの姿を見ながら、エディスは立食形式の食事を口に運ぶ。


「やさぐれた目してんな。いい加減気持ち切り替えろよ」


隣りでは皿に沢山の料理を盛ったルオークが呆れた顔をしていた。


「何が生誕パーティーだ。国王陛下ご来園祝賀会にでも変えろ」

「まあ陛下も大人気ないとは思うけどさ。それだけシルビアと話したかったんだろ」

「腹立つ………」


苛々を紛らわすように、料理を詰め込んだ。


僕だって楽しみにしてたのに…………。



そうしてるうちに演奏会は終わり、次はダンスの時間となった。

それが終わったら今度は学生の劇の披露があるんだっけ。

もうどうでもいいけど。


ダンスのパートナーがいないので是非にと群がってくる女子生徒達を通り越した先のフロアで踊る父とシルビアの姿を見つめた。


本来ならあそこで踊ってるのは僕だったのに、こんな切ない気持ちで見てるだけなんてな。


「ちょっと皆様おどきなさい!!」


ハリのある声と共に、レイラ嬢が生徒達を押し退けやってきた。


「殿下が小動物のように怯えてますわよ!シルビア様がいない今、私が殿下をお守り致します!」


小動物って…………。切ない気持ちなのがそう見えたんだろうか。


肩を出して、袖のない黄色のドレスを着たレイラ嬢は逞しい腕も見えてることからいつもより勇ましく見えた。


「僕と一曲踊って頂けますか?」


身を屈めレイラ嬢へと手を差し出す。

女子生徒達が騒ぎだしたが、この中で踊るならレイラ嬢だ。


「勿論でごさいます。シルビア様の代わりとしては役不足ですが、今この時ばかりは私をシルビア様と思って踊ってくださいませ」

「お気遣いどうも………」


シルビアはこんなにゴツくない。

いつも一言多いけど、こうやって気にしてくれるのもありがたいな。僕もそろそろ気持ちを切り替えてないと。


エディスは他の女子生徒達へと、ごめんねというように微笑んでみせた。

自分の見目がいい事は知っている。こうして笑うだけで機嫌を直してくれるのも分かってる。減るものでもないし、使えるものは使っておいた方が損はない。


レイラ嬢をエスコートしながらダンスフロアの中央へと出ていく。


「殿下、あまり愛想を振りまくのもどうかと思いますが」


コソッとレイラ嬢が言ってきた。


「ムスッとしてるよりいいでしょう?僕は王太子ですからね、彼女達も僕の王国民ですよ」

「殿下はシルビア様以外の事では、涼しい顔をしてそつなくこなしますわよね」

「褒めてくれてるんですか?ありがとうございます」


ニコッと笑いレイラを見る。


「またそうやってキラキラを振りまいて。でも私はそつのない殿下より、シルビア様の事でオタオタしたり、顔を赤くして狼狽えてる殿下の方がいいと思いますわ」

「は、ははは…………」


どんな評価だそれ?

そんな格好悪い姿がいいわけないじゃないか。


王太子として軽んじられたり舐められるような隙のある態度をとる訳にはいかない。愛想をふりまくのもその一環だ。



レイラ嬢とのダンスが終わり、父とシルビアの方を見ると踊り終えていた2人はまた席につき談笑していた。


父上…………僕の誕生日ですよ。次にダンスさせてやろうという配慮もないんですね。


諦めのため息をつき、ホール内を見回すと険しい顔をしたルオークが目に入った。

その視線の先を追うと、カトリーヌ嬢とナイルがフロアでダンスを踊っている。


こっちはこっちで面倒見てやらないとな。


エディスはルオークの側に歩いていくと、ムスッとした顔のルオークの手をグイッと引っ張って歩き出した。


「おい、何だ?どうした?」


ルオークは驚いた顔をしたが、取り繕うのも説明するのも億劫だったので無言で手を引いて歩いた。


お前がしたいようにしてやるんだよ。


丁度ダンスが終わったカトリーヌ嬢の前にルオークと共に立った。

途端にナイルがムッとした顔をする。

ルオークに話させると喧嘩が始まりそうなので先手を打つぞ。


「今日のカトリーヌ嬢は一段と美しいですね。僕らとも是非踊って頂けませんか?」

「え!?」


横でルオークが驚いた声を出す。


え、じゃないだろ。踊りたいんだろ?何驚いてんだ?

こっちはシルビアと踊れもしないのに、お前の為にやってやってるんだぞ。早く申し込め。


「カトリーヌちゃんは俺と踊って疲れたんだから休憩くらいさせてやれよ」


標的がこちらに変わり、ナイルが睨んできた。


「疲れさせるくらい振り回したんですか?駄目だな、男性がちゃんとリードしてあげないと。僕がお手本見せましょうか?」


ニッコリと優雅に微笑んでみせると、ナイルは顔に不満をあらわにした。


「腹立つ奴」

「そう言わないでくださいよ。お昼を共にしている仲じゃないですか。皆んなで仲良くしましょうよ、ねっカトリーヌ嬢」


ニコッとカトリーヌへと笑いかけると、カトリーヌもうんうんと頷いた。


「ではこうしましょう。先にルオークと踊ってもらってから休憩しましょう。僕とナイル先輩は、踊り終えたカトリーヌ嬢の為に飲み物でも用意しに行きましょうか」


エディスは力まかせにボーっと立つルオークの背を押した。


ここまでお膳立てしてやったんだからさっさと誘え。


それに後押しされたように、少し頬を赤くしながらルオークがカトリーヌへと手を差し出す。


「……俺と踊ってくれますか?」


その手を満面の笑顔でカトリーヌは取った。


「ええ、勿論」


そう言って笑ったカトリーヌに、ルオークも赤くなりながら照れ臭そうな顔で笑い返す。


あーあ、締まりのない顔しちゃって。見てらんないな。


エディスはナイルの腕を掴んで引っ張るように歩き出す。


定期的にこのメンバーで昼を共にしてるのは周知されてきてるし、ダンスに誘っても違和感はないよな。


シルビアはアンネローゼ嬢に、ナイルがカトリーヌ嬢にちょっかいをかけようとしてるから僕らにさりげなく守るよう言ってある為だと言ってあるらしい。


前にアンネローゼ嬢に〝大変ですわね〟と声をかけられ、カトリーヌ嬢とも友人になり平民の話も聞けて楽しいですよ、と友人アピールをしておいたので、交流を持ってたって変ではないだろう。


「おい、どうゆうつもりだ?」


僕の手を振り払い、ナイルが睨んできた。


「………どうゆうつもりとは何が言いたいんでしょうか」

「ルオークをけしかけたり、大体お前はシルビアと踊ればいいだろ。その気がないなら人の邪魔はしないでくれ」

「シルビアは僕の父上に独占されてるんでパートナーがいないんですよ。折角の誕生日なんですから綺麗な女性と踊るくらいはしたいでしょう?」


その言葉にナイルは黙り、国王とシルビアの方に目をやってからまた僕へと視線を戻した。


「そういえばこれ生誕パーティーだっけ。国王陛下をもてなすパーティーだと思ってたわ。誕生日か…………」


先程までと変わり、同情的な目でナイルに見られた。


「仕方ないな、後でカトリーヌ嬢と踊らせてやるよ」

「別にあなたの許可はいらないんですけど」


まさかナイルにまで同情されるとは。


父上さえ来なければ、街で人気のレストランでも予約してシルビアと2人でお祝い出来たのに。


来年は来るのを防がなければ同じ事が繰り返されるだろう。

何が何でも絶対に防がなければ。



何が楽しいのかご満悦な顔でニコニコ笑う父上に、楽しそうに笑うシルビアにため息はもれたが、大切な人達の幸せそうな顔に悪い気はしない。


今年の誕生日は、これはこれで印象深く記憶に残るだろう。

これが僕の16歳の始まりだった。

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