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シルビア婚約

夏の終わりが何だか物悲しい気持ちがした。

来年はもうここではなく学園で過ごしているのだ。

こうしてのんびり彼らと過ごすのは最後の15歳の夏が過ぎようとしている。


「シルビア大丈夫?」


不意に顔を覗き込まれた。

心配そうなエディスの顔を見て、ふっと笑みが浮かぶ。


「大丈夫。ちょっと暑さに参っただけだから」

「調子にのりすぎだよ」

「面目ない」


ベンチに横になっていたシルビアは、身を起こすと立たせてというようにエディスへと手を伸ばした。

エディスはシルビアの手を掴み、グイッと引っ張った。

その力強い手の力と、自分に迫る程伸びた背丈にエディスの成長を感じた。段々と男になってきたな。


「大きくなったねぇ」

「男の成長は女性より遅いからね。まだまだこれからだよ」


楽しそうに笑うエディスの横顔も少年から少し顔つきも変わってきた。


今日は王都で開催されている夏祭り的な祭典に参加する為、わざわざやってきたのだ。いつもの3人でだが、本当はアンネちゃんも誘いたかった。でも、アンネちゃんが来ると走り回れないし、お茶コースになるぞとルオークに言われ断念したのだ。


だってせっかくの祭典を全力で堪能したい。

飾り付けられた建物に、賑やかな音楽、露店は勿論のこと、あちこちに芸人みたいのが芸を披露してるし、花火の音はポンポンしてテンションも上々、もう全力お祭り気分だ。


そんなハイ状態で、芸を披露してるステージ上から綺麗なお兄さんも良かったらどうぞ〜と誘いを受け、調子に乗って魔剣を手に剣舞を披露してしまった。


剣先から炎を出し、剣舞を舞っていたのだが、あまりに盛り上がったので更に調子に乗って、火柱まで出したりフィニッシュには横一例大火柱に、上空に突き上げた剣と共に爆発させたり、気づいたらステージ上で焼き豚のように熱せられていた。


脳ぐらぐら状態でステージから降りると、気持ち悪くてすぐにベンチに横になってしまうという始末。

自分がこんなにお調子者だったなんて。


そこへルオークが合流してきた。


「そこの近くの店、頼んで一角を貸し切りにしてもらったから行こうぜ。冷たいとこで休憩しよう」


近くの赤いレンガの店を指差してから、ルオークは2人の繋いだ手を見てニヤリと笑う。


「こ、これはシルビアがふらふらしてるから……!」

「別に何も言ってないけど〜。休ませるなら、早く行こう」


ニヒヒと笑いながらルオークは歩きだす。


「………行こうか」


エディスは手を引いてくれ、ゆっくりと歩きだした。

ああ、早く冷たいとこで、冷たいもの飲んで休みたい。


お店に入ると氷の魔石がよく効いていて、店内は涼しく心地よい気温になっていた。


「生き返る〜」


思わず声がもれた。後は早く座りたい。


エディスに手を引かれるまま、店主の案内のもとに奥の個室へと通され、部屋の前には護衛騎士が数人見張りとして残り、後は店舗外で待機となった。

この暑いのにご苦労様だ。しかし、一応お忍びで来てるのにこんなに物々しくてはバレバレだな。


シルビアは席に座り、テーブルに上半身を乗せて力を抜く。


「あ〜テーブルが冷んやりして気持ちいい。このままここで寝る〜」


シルビアは瞳を閉じた。

早く回復しないと。こんなんで祭りが終わったら馬鹿すぎる。まだほとんど回ってないのに。


そうしてるうちに飲み物がきたので、シルビアはガバッと身を起こし一気にそれを飲み干した。


「飲み物おかわり!あとパフェも!アイス大盛りで!」


そう言ったシルビアを見て、ルオークは苦笑いした。


「お前露店の物食べ尽くすとか言ってなかった?」

「それも食べる。満腹なったらお腹空くよう走り回ってくるから大丈夫」

「また無茶するなよ。この暑いのに炎なんか出しちゃってさ、熱風くるし、下にいても顔とか目とか焼けるようだったぞ。馬鹿だろ、本当は馬鹿なんだろ?」

「悔しいが返す言葉もない。何で水にしなかったんだろ。炎の方が派手だと思っちゃったんだ。悔やまれる」


そこへおかわりの飲み物が来たので、シルビアはまたすぐにそれを飲み干した。3杯目にいきたいが、それは露店で目をつけていたフルーツ丸絞りジュースのために我慢しとこう。

では、パフェでも頂こうか。


ニッコニコのシルビアを見ながら、ホッとしたようにエディスも笑った。


「元気になってきたようで良かったよ。ステージから真っ赤な顔で虚ろな目をしてふらつきながら降りてくるから本当ビックリしたんだよ」

「はは、歓声にのまれて調子乗っちゃった。だって炎がボン!ってなるたび大歓声だよ、やるしかないでしょ」

「皆んな夢中になって見てたね」

「でしょでしょ〜。エディスもちゃんと見てくれた?」

「うん、見てたよ。動きの切れも良くて力強さもあり、流れるようにしなやかな舞いがとても綺麗だった」

「えっへっへ。照れますなぁ」


少し照れながら嬉しそうに笑うシルビアを見て、エディスもやんわりと微笑んだ。


「おい、注意は!?全く、エディスはシルビアに甘いんだから」


ルオークは大袈裟にため息をつき、エディスを見る。


「心配はするよ。でも死ぬようなものではなかったからね」

「死ぬとか基準がおかしいだろ。本当お前は………」


ぶつぶつ言ながらルオークは飲み物を口に運ぶ。


シルビアは2人の事をじっと見た。

この2人の交友関係はどんな感じだろうか。ルオークは期待出来なさそう、いや、返っていい人材が見つかるかも。ダメ元で相談してみようかな。


「突然だけどさ、歳が近くていい男知ってる?」


その問いに、2人はこちらを見て固まった。


「………いい男をどうするんだ?」


ルオークが恐る恐る聞いてくる。


「どうするって、婚約したいんだよ」


ガチャン。音がしてエディスが飲み物のグラスを倒した。


「あっ、何やってんの!?わ〜溢れる!」


エディスが反応しないので、代わりにテーブルのペーパーで溢れた飲み物を拭く。幸いそんなに残ってなかったので被害は少なかった。


「婚約………?」

「そう。出来れば出しゃばらなくて従順で僕を立ててくれる婿養子に相応しい婿がほしい。爵位は夫のものになるけど、実質の公爵家の跡取りは僕だ。それをわきまえられる婿知ってるか?」


これも変な聞き方か。婿知ってる?なんて、急だったかな。


「お、お前前に生涯独身とか言ってなかった?」


ルオークがオロオロとしながら聞いてきた。

どうしてこんな動揺してるんだ?


「あ〜………昔そんな事も言ったかな。でも年頃になってくれば考えも変わる。ずっと独り身は寂しいし、公爵家は継ぎたいし、今は自分のやりたい事したいけど大人になったら自分の家族とかも欲しいし」


昔は体も幼女だったし、目覚めたばかりで結婚なんて考えられなかった。でもこの世界で長く生きてきて、体の成長と共にその先の未来まで考えるようになってきた。

一応、生きている年数でいえばもう25歳だ。家庭をもって、子供達に囲まれて過ごす生活も想像したら幸せそうで有りだと思った。まだ17歳の高校生だった時は、結婚なんてまだまだ先の話だったが、今なら十分有りだ。


「あのさ、前世は男だった事に結構影響受けてると思うんだけど、今はどっちの気持ちな訳?男?女?」


身を乗り出し真剣な面持ちをしてルオークは聞いてきた。

僕の事にこんなに興味を持って真剣に考えてくれるなんて。いつものように茶化されたり、グチグチ言われると思ったのに。


「どっちって………男だ女だと意識して生活してる訳じゃないけど、どっちかってそりゃあ女でしょうが」


だって男であるものなんて1つもないのだ。幼女であるうちはそこまで意識もしなかったが、成長していくうちに体は女性へと変化していき、その毎日を女として過ごしている自分は女以外の何者でもない。

鍛えていても男の体とは違う柔らかさを持った体、低めの声だけれど男の声よりは高い。膨らんだ胸の柔らかさに、何より股間にアレがない。女性の裸を見たって下半身が興奮する事だってないのだ。


男だった高倉 綾人はもうどこにもいない。もうその名を呼ぶ者も誰もいないのだ。今ではその事さえ忘れて過ごしている。彼らに元の世界の話をしてなかったら、もう思い出しもしなかったかもしれない。

それくらいシルビアとしての人生に馴染んでしまった。

今後だって、この人生でやりたい事がいっぱいある。


「そっか………、そうだよなぁ」


ボソッと言い、ルオークは気を使うようにエディスを見た。その視線につられるようにシルビアもエディスを見る。

エディスは俯きかげんでボーッとテーブルの一点を見つめていた。


えっ何?こちらはどうしちゃったの?さっき迄普通だったよね。


「どうして今なんだ?今まで婚約なんて話した事なかったろ」


ルオークは僕に関心ありありだな。仲良く過ごしてたお姉さんが遠くにいってしまうようで寂しいのか?


「ここ最近、求婚状がいっぱい届くんだよね。ほら、来年から学園に行くからその前に手を打っとこうとしてるんじゃない?公爵家は魅力いっぱいだからね」

「だからそれに乗せられて婚約したくなったのか?焦らないでもっとゆっくり相手を探した方がいいと思うぞ」


おお、止めてくるなルオーク。やっぱ寂しいんだろ。


「いや、今はいいんだ。求婚者達と接点もないし、護衛騎士に守られてるし公爵家にいれば安全だ」

「どうゆう意味だ?」

「セントリア学園に入学したら無防備って事だよ。普段は絶対に負ける事のない僕も、万一睡眠薬でも盛られて乱暴されちゃったらどうする?既成事実を作られて結婚まで持ってかれちゃったら?」

「発想が物騒だな。そんな事が起きたら結婚じゃなく、公爵もお前も相手を抹殺するんじゃねーの?」

「そうなんだけどさ。でも沢山の求婚状を見てると、こんなにも多くの男が魅力的な公爵令嬢を狙ってるのかと思うと何だか怖くて。公爵邸を出て寮に入るから絶対狙われるよ」

「お前の中で学園はどんなだよ。はぁ………でもそれで婚約って訳だな」


ルオークはまたエディスをチラッと見る。同じくシルビアもそちらを見た。エディスはまだ俯いたままだ。


「そうなんだ。もう決まった相手がいればそう手を出せないだろ。でも、理想の相手がいないから困ってるんだ」


ふぅと息をついてから、シルビアはパフェを食べ始める。


「お前焦ってるからって妥協はするなよ。変なの捕まえて結婚までいったら、そっちのが大変だぞ」

「おお、今日のルオークはこんなに親身になってくれてとても嬉しいよ」


まあ、入学までに見つけられたいいなと思うけど。勿論、妥協なんてしたくはない。


「ねぇ、誰か知らない?従順で僕をサポートしてくれる献身的な婿をさ。あ〜でも馬鹿は嫌だよ。頭はいい方がいいし、男らしくはあってほしいかな。それに顔はそれなりに整ってるといいねぇ」

「お前何様だよ?そんな男いねーよ」


呆れた表情でルオークは僕を見た。

確かにそんな都合のいい条件のイケメンなんてそうそういないよな。自分でも分かってる。

けど顔はイケメンがいいな。その、何だ、結婚すれば夜の夫婦生活とかあるだろうし、見た目は大事だ。


「いないか〜。あ〜どうしよ」


婿養子に求める条件が厳しいかな。でもなぁ、一生涯の事だし。

何の制限もない自由恋愛だったらもっと手っ取り早かったのに。


あ〜誰かと付き合いたい。

こいつらには言えないけど、25年も生きてきて経験なしだ。

僕はモテたけど童貞だった。高2の初めに彼女が出来てキスはしてたけど、彼女の家でそうゆう雰囲気になった時、震える彼女にがっつかない余裕あるとこ見せたくて、焦らないで次にしようね、なんて言ったら次は来ずこの世界だ。

こんな未来が待ってると知ってたら、怖がってたとしても致しちゃったのに!

幼女の時はさすがに性欲なんてなかった。でも体が成熟してくると共に欲求も深まってきた。この年数まで生きてきたら一度は致したくて仕方がない。


1度目の青春真っ盛りのこの青少年達に、2度目の青春を迎えた僕のエッチな事がしたい欲求など言える筈もない。

2人にとってはきっと清純派のお姉さんだから、こんな気持ちバレたら恥ずかしすぎる。


シルビアは深いため息をついて、食べ終わったパフェの器をぼんやりと見つめた。


あーあ、どうしよっかな。まずは婚約の相手探ししないと。


「相手が見つかるまで僕が代理の婚約者になってあげようか」


それまで黙っていたエディスが突如そう言った。

シルビアは驚いて目を丸くしながらエディスを見る。

顔を上げて真っ直ぐに僕を見るエディスの顔は冗談を言っている顔ではなかった。


「本気………?」

「うん。王太子の婚約者なら他の人は手を出してこないでしょ」

「そうだけど……………」


代理の婚約者なんて考えてもいなかった。それも有りかなとは思うけど、相手がエディスでなかったらだ。


「王太子と婚約ってなったらやっぱ辞めますなんて認められなそうだ。こっちの立場が上なら力業でどうにか出来るんだけど。第一エディスの父さんにめちゃくちゃ狙われてるから、絶対離してくれなそう」

「あはは、父上はシルビアがお気に入りだからね。僕にも婚約しろってしつこいんだよ」

「だろ。王宮行くといつも構ってくるだよな。婚約したら破棄なんてこちらからはさせてもらえないだろうな」

「そんな状態だから、かえっていいと思って」


エディスはニコッと笑う。

さらさらの金の髪がゆれ、整った顔の碧の瞳が細まる。王道のイケメン王子の微笑みだな。

天使のようだったエディスも、こんなに男っぽくなってきてずっと成長を見守ってきた者としては感慨深いものがある。


「かえってってどうゆう事?」

「婚約期間はお互いにゆっくり相手を見つけられるだろ」

「ああ、成る程」


婚約を隠れ蓑に、僕は僕で理想の婿養子を探し、エディスはうるさい父親からの干渉を逃れ本当に結婚したい好きな人を見つけるという事だね。

そうだ、学園でエディスはヒロインのカトリーヌと出会うんだ。僕の夢でも認識してればきっと登場してくるはず。


「けどなぁ………。陛下が婚約破棄を認めると思う?」


かなり好かれている自信はある。陛下は父上の事も大好きだ。

カルロスの女版みたいだと誉めてくれたが、それって女性に言う褒め言葉としてどうなの?と思ったが本当に嬉しそうなので、陛下にとってはそれがとても価値のあるものなのだろう。


「父上には何も言わせないよ。内内で処理されないように、皆の前で婚約破棄を公表するんだ。立場的に僕から言えば問題ないと思う。周知の事実にしてしまえば、父上が何と言ったって公爵家として突っぱねればいい」


ん?皆の前で婚約破棄、どっかで聞いたような話だな。

あれ?妹から聞いた顛末の話じゃないかそれ?


「そのまま流れで国外追放とかされたりしちゃう?」

「何で追放………?意味が分からないよ」

「だよね。追放される理由がない」


王室に対して破棄をする不敬罪?でもエディスから破棄するからそれには当たらない。

思えば何で本筋のシルビアは国外追放されたんだろう?公爵家の富と権力を持ってすれば、大抵の事は片付けられる。あの父上が娘が追放されるのに黙ってるのなんて有り得ないし。


「お互いの相手が見つかるまでの期間でいいからさ、どうかな?」


エディスは僕の反応を窺うようにじっと見つめてきた。

碧の瞳が宝石のようにキラキラとしている。


いい提案だと思う。自ら望んで代理婚約者になってくれるなんて、僕にとって破格の好条件だ。

それなのに即断できないのは、この流れに乗っかっていいのかと心の奥で一抹の不安あるから。このままでは本筋のシナリオの通りになってしまうのではないか…………。


どう思う?と意見を聞こうかとルオークを見た。


な、何なん、その顔?


ルオークは未だかつてないくらい満足げに満ち足りた顔に、満面の笑みを浮かべて笑っていた。


ちょっとキモい。何でルオークが満足してんの?

う〜ん。2人とも頑張れ、みたいに応援してんのか?

ちょっとそうゆうキャラじゃないでしょ。


シルビアは視線をエディスに移す。


「いいよ。婚約しようじゃないか」


まぁ、いいか。いつも通り道は自分で切り開いてやる。


「本当?」


エディスの表情がパァと明るくなった。

こっちも嬉しそうだな。いいさいいさ、僕を隠れ蓑にしてカトリーヌとの恋を楽しむか、その他の女子に狙いを定めるかすればいい。学園に行けば選びたい放題だよ。


「けどシルビアさんは口約束じゃ契約しませんよ〜。ちゃんと書面にして氏名と拇印押してもらいますからね〜」


シルビアはキョロキョロと周囲を見回し、アンケート用に置いてあった紙とペンを持ってきた。


「よし、この裏面に書くか。証人欄にはルオーク名前書いてね」


シルビアはサラサラと文面を書きあげると、自分の名前を書き込んでからそれをエディスに渡した。


「内容をよく確認して名前書いてね」

「ちゃんとした書面を用意するのに」

「大丈夫とは思うけど王宮でいろいろやって陛下にバレるとマズいだろ。それに思い立ったらすぐ行動、今日この書面を持ち帰り父上に代理婚約者の件を了承してもらう」

「ああ、公爵に………」


エディスは父上を思い浮かべたのかぶるっと身震いをした。

でも大丈夫。多くの求婚状を手の上で消し炭にしてた父上も、この条件の代理婚約者なら納得するだろう。


エディスのありがたい申し出期間のうちに、理想の婿を探さないと。猶予はそんなにはないかもしれない。エディスが学園に行けばあっという間に相手を決めてしまう可能性が高い。

そうなる前に僕も学園で理想の婿候補を見つけなければ。


「店の人に拇印用の朱肉借りてくるから、2人は書いておいて」


シルビアはダダダッと慌ただしく部屋を出て行った。


室内はシンと静まり、ルオークは向かいの席から書面を見るエディスの隣の席へと移動した。


「婚約か、やったな!!」

「声大きい。それに代理だ。シルビアが望むまでのね」


エディスは淡々と言い、書面に名前を書いていく。

ルオークはそんなエディスの横顔をじっと見た。


「お前俺から見てもいい男になってきたよ。その魅力でさ、シルビアを惚れさせちゃえば婚約は続行だろ」

「これまで一緒にいてシルビアが僕に惚れるとは思えない」


エディスは書面の紙をルオークに押し付ける。


「でもお前どんどん男らしく変わってるし、近くにいすぎて気づかなかった気持ちに目覚めるかもしれないだろ。最近、茶会とかでさ前とは違った目でお前に見惚れてる令嬢多いんだぞ」

「僕の価値を見定めてるんだろ」


エディスは指でトントンとテーブルを叩いた。


「……好きって言わねぇの?」

「言わないよ。前から言ってるだろ」

「そうだけど、それでいいのかと思ってさ……」


ルオークは書面へと目を移し記名をする。

そこへ、朱肉を借りたシルビアが戻ってきた。


「お待たせ!さっこれで書類が出来ちゃうよ〜!」


部屋の前で護衛している騎士達もまさか中で婚約が取り決められているとは思ってもみないだろう。


ニコニコとしながら2人の間に朱肉を置く。


「さっ、遠慮なく指につけて拇印押してくれ。蒸しタオルもあるよ」

「じゃあ、僕から押すよ」


エディスは躊躇いもせず拇印を押した。その様子を見ながら、ルオークも次に続く。


「俺さ、お前らの事応援してるから。頑張れよ」


ルオークはシルビアへと書面を差し出した。


「うん、ありがとう。頑張るよ」


ルオークもこんなに人を思いやれる程成長して。

シルビアも書面へと拇印を押す。


これでほぼ婚約成立だ。

帰って父上に話して、父上から陛下に両名から承諾を得たとでも話を持っていってもらえば、あの陛下は反対しないだろう。むしろ大喜びだな。歓喜するだろう。

騙すようで可哀想な気もするけど、会うたびに婚約を勧められたし、エディスもそうだっただろうから、出し抜く為には仕方ないと割り切ろう。


まさか、祭りに来て婚約が決まるなんてな。

帰って父上や母上の驚く顔が楽しみだ。

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