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お茶会デビューだぞ

シルビア・アルビシス公爵令嬢。12歳。

これまで自分のやりたい事ばかりやってきましたが、とうとう貴族としての義務を果たす時がやってきました。



季節は秋に入り始めた頃。

木々が色付き始めた広い庭園では、何卓ものテーブルが置かれその上には豪勢な料理が乗せられていた。

着飾った少年少女が楽しげに歓談しているその横では、使用人達が新しい飲み物を持ってきたり、片付けをしたりと慌ただしく動いていた。


その様子を茂みの陰に隠れながらじっと見ていた。

遅れて来てしまい、完全に出ていくタイミングを失っているのだ。

この体になってから、お茶会に参加した事は1度もない。今回のお茶会だって招待状は届いてたが断っていたのだ。

つまり、誰も僕が来るなんて思ってもみないし、知らない。


シルビアは大きく息をついた。

いつまでもこうしている訳にいかないのは分かってる。


でも、すでに出来上がってしまってるあの場に突入する意気込みが湧いてこないのだ。


ノルマは1時間。ここで時間を潰して、お茶会に参加した事にするのはどうだろか。

でも、母上の事だ。夜会なとで、えっお嬢さん来てなかったようですよ、とでも言われてバレるだろう。

誰にも会わなかったけど、その場にはいましたと屁理屈はこねれるけど、母上を呆れさせるだけだ。

行くしなかいか………。

王族以外にへつらう事ないんだ。集まってるのは10〜15歳までのヒヨッ子どもだし、一応知り合いもいるしな。


シルビアは立ち上がると、ドレスについた葉っぱを払う。

いざ、出陣っ!!



「シルビア・アルビシス公爵令嬢がいらっしゃいました!」


侍従の男が声高らかに宣言してくれた。

その途端、歓談の声は止み、皆の視線がこちらに注がれた。


うえ〜、こっち見んなよ。喋べってろや。


「シルビア!?どうしたの!?」


驚いた顔でこちらにやって来たのはエディスだ。

王室主催のお茶会なので、当然主催者としている。


「母上との約束で短い間だけ出席させてもらおうと思って」


皆の視線が痛い。ひと睨みしてやりたいな。


「珍しいじゃん!」


姿を見つけてルオークまでやって来た。


「ぶははっ!何だその格好!?変なの!似合わね〜!」


指差しながらゲラゲラとルオークは笑った。

自分でも分かってる。だから出たくなかったんだ。


最近ドレスを全く着てなかったので、母上の用意してくれたのを着るしかなかったのだが、これが酷かった。

可愛いのが好きなんだな、ってのは分かる。

色の違うフリルが何層にも重なった、レインボーフリルドレスで、かなりのボリュームで結構重い。髪もほどいてクルクル巻かれて、頭の大きさくらいのレインボーリボンを乗せられた。

顔にも化粧され、頬にポンポンチークを入れられ、唇はピンクにされた。もはや笑うしかない。


「もういいよ。おかしいだろ、笑ってくれよ」


哀れみの瞳を向けてくるエディスに言った。

笑ってくれればまだ救われる。本日のお笑い担当でいいから、その痛々しいものを見る目は止めてくれ。


「じゃ、ちょっとお菓子でもつまんでくる。エディスは主催者だろ、皆をもてなせ」


応援するようにエディスの肩をポンポンと叩いてから、シルビアはいくつもあるテーブルに向けて歩きだした。

1時間、1時間の辛抱だ。


「あ………、ルオーク、シルビアは慣れてないだろうから付いててやってくれないか?」

「何で俺が?自分でどうにかすんだろ」

「いいから行けって」


エディスにドンと押され、ルオークはジロっとエディスを睨んだがそのまま黙ってシルビアの方へ歩いていった。


すぐにエディスの周りには話をしようと、貴族の令嬢達が集まりだした。


さて、どのテーブルに行くか………。

皆がジロジロと見てくる。知り合いもいないし、目についた適当なとこのテーブルに混ざるか。


「おい、こっち来いよ」


ルオークにぐいっと腕を引っ張られた。


「俺の友達のとこ行こうぜ」

「あ、ありがとう」


ルオークのくせに気がきくじゃん。


だが、やっぱりルオークはルオークだった。


ルオークに連れて行かれたテーブルには歳の近い11,12歳の男の子達5人がいて、どれも社交には全く興味のない遊びたい盛りのお子様達だった。


ルオークに輪をかけてお子様だ。

一応、小さな社交界を味わいに来た身としては、これじゃいけないのは間違いない。


「あのさ、悪いけどちょっと世間の荒波にもまれてくるわ」


そうルオークに声をかけると、シルビアは他のテーブルへと歩きだした。


いつもの調子で僕とか言うと突っ込まれそうなので、ここからはお嬢様モードでいくか。


シルビアは女の子や男の子の混じったテーブルで足を止める。


「ご一緒してよろしいかしら?」


尋ねると、男の子達はどうぞと席をあけたのに対し、そこにいた3人の女の子達は顔を見合わせクスクスと笑った。


「シルビア様、初めまして。素晴らしいドレスですわね」

「可愛いらしいわ〜。お似合いですわよ」

「お茶会の花にふさわしいわ」


似合うわけねーだろ。これって……ディスられてる?


「ありがとうございます。母上の見立てなので伝えておきますわ」


公爵夫人の名が出た事で、彼女らは顔を見合わせた。

流石は母上、だてに社交界の中心やってないね。


それにしてもこいつら、いちいちお互いの顔見て反応伺って、こうゆうの女子特有の嫌いなんだよね。

どこの世界でも女子は女子なんだな。

単体で挑んでこいっつの。


「シルビア様ってよく男の子みたいな格好をして剣を振り回してるって聞いたんですが本当ですの?」

「私達には無理ですわよね〜。私は刺繍が得意ですのよ」

「今度貴族の令嬢達で集まって刺繍をするんですの。でもシルビア様は刺繍なんてお嫌いですわよね」


揃いも揃って何なんだこいつらは。

落ち着け、こっちは生きてきた年数でいえば22歳だ。女の子相手に、小娘相手に喧嘩する訳にはいかないだろう。


「あら、得意なのは刺繍だけですか?私は刺繍も勉学も、剣術も魔法もすべて一流の腕を持ってますの。何でも出来ますのよ、今度競ってみません?」


こっちは前の世界でも、ぞうきんや裾上げやら母親がやるような針仕事は全部やってきてんだ。地道な刺繍も何の抵抗もなし。

だいたい、うちのうるさい母上が黙って剣術をやらせるのも、刺繍やマナー、教養、ダンスと全てにおいてエクセレントとお墨付きだからだ。


「私に1つでも勝てるところがおありかしら?」


負かせるものなら負かしてみろ、小娘ども。


「初めまして、シルビア様」


不意にそう声がかかった。

振り返ると、同じ年頃の少女が立っていた。

淡い緑の髪に、濃い緑の瞳の可愛いけれど、ちょっとキツめの顔の美少女だ。


「………初めまして」


誰?新たな嫌味攻撃の相手っぽいな。単体で挑んでくるとは。


「私はアンネローゼ・ブルービー、侯爵令嬢でございます」

「シルビア・アルビシスよ」


ニッコリ笑ってみせたが、アンネローゼはニコリともせず突き刺すような視線を向けてきた。


なかなか威圧感あるじゃないか。こいつはちょっとやそっとじゃ怯まなそうだ。いいぞ、相手してやろう。


「ご自分で対処されると思ったんですが、あまりにお聞き苦しかったもので」


アンネローゼは、3人の令嬢の方を見た。


「何をもって無礼を働いてるのか分かりませんが、歯向かう相手も見極められないとは実に愚かですわね」


その冷ややかな瞳と顔に、令嬢達はカッと赤くなった。


「無礼なのはどちらかしら?私達はシルビア様が初めての場で不安そうだから話しかけて差し上げたのに、そんな風に言われるなんて心外ですわ」

「はるか格上の相手に対する発言とは思えませんわ。令嬢の方がシルビア様に施せる立場だと?心が幼いのは結構ですが、自分の発言に責任は持てるのですか?もっと立場をわきまえた方がよろしいのでは?」


淡々と、だがはっきりとアンネローゼは言った。


おお!この美少女は援軍だったか!

強気なお嬢様風なのがいいね!


すると、何を思ったのか令嬢の1人がコソッと話しかけてきた。


「アンネローゼ様は侯爵家といっても今や落ち目ですわ。性格も悪くて、他のお茶会でも被害に遭った子が沢山いるんですのよ。何でああゆう言い方しか出来ないのかしら。シルビア様は私達の味方ですわよね」


えっ?この子正気?

思わず唖然だ。

さっきまで、ディスってたと思ったら、突然仲間扱いみたいになってきた。どうゆう頭してたら、その発想になるんだろう。

でも分かる事が1つある。そんなふざけた事を言えるほど舐められてるって事だ。


「いいえ、私はアンネローゼ様の言ってる事は間違ってないと思いますわ。だってあなた方とても不快ですもの」


シルビアは3人の令嬢を見て微笑んだ。


「誰にものを言ってるのか分かってないようね。後であなた方の名前を教えなさい。アルビシス家を敵に回したらどうなるか見せしめにしてしてさしあげますわ。そうね、お家断絶などいかが?」


その言葉に令嬢様の顔色が青ざめた。


「そ、そんなの出来るわけが………」

「戦いには勝てが公爵家の家訓ですの。私を侮辱するような家門、公爵家にかかれば一溜まりもありませんわ。令嬢がボロを着て路頭にさ迷う姿が楽しみだこと」


なーんて大きく出てみちゃったりして。

やりはしないけど、やろうと思えば公爵家なら出来るから嘘は言っていない。


「ほ、本当にやるんですの?」


驚きながら聞いてきたのはアンネローゼだ。

まあ、出会い頭にちょっと嫌味言われたくらいで、お家断絶なんてやり過ぎだよね。


「そう思ってましたけど、初回ですから見逃してあげますわ。私もお茶会は初めてなので、こんな不快な会話を格下からされるとは思わず、つい思い知らせてやりたくなってしまいましたわ」


あからさまにため息をついてみせ、令嬢達を見た。


「2度目はないですからね。次は完膚なきまでに叩き潰しますので、覚悟があるなら挑んでくださいませ」


ここまで言って絡んできたら馬鹿だろう。本気でやるしかない。

シルビアはすぐにアンネローゼを見た。


「アンネローゼ様、初めて会った私の為に怒って頂きありがとうございます」

「べ、別にシルビア様の為というより、非常識な彼女達が見過ごせなかっただけですわ」


アンネローゼはプイッと横を向いたが、その耳が真っ赤になっていた。


おお、何この子。もしかしてツンデレ属性なの?

愛想ないように見えたのはツンなのか?


「アンネローゼ様ってすごく優しいんですのね」

「なっ…………!」


こちらを見たアンネローゼの顔が真っ赤になった。


か、か、か…………可愛いーーーっ!!!

これが、ツンデレのデレか!くるな、これ!


「アンネローゼ様ってとっても可愛い。ふわふわの髪の毛に、宝石みたいな瞳、お顔も愛らしいわぁ」


これでもかと褒めてみたら、アンネローゼは固く口を閉じ、火でも吹き出しそうなくらい真っ赤赤になった。


褒められ慣れてない感じ?

可っ愛いの〜。構い倒したくなる。


「わ……私、実は前から話に聞いてシルビア様の事知っておりましたの。でも、実際に会ったら聞いてた話しと違うと思ったのですが、やっぱり話しの通りでしたわ」


アンネローゼは火照った頬を包み込むように手で押さえ、恨めしそうにシルビアを見た。


「あらあら、上目遣いで目を潤ませちゃって可愛いこと。めっちゃ可愛い。ところで、どなたから私の事を?」

「ルオーク様からですわ」


意外な名前が出た。あのお子様が僕以外の女の子と交流を持つとは思ってもみなかった。家同士の付き合いがある幼馴染とか?

そんなシルビアの思いを察したのかアンネローゼが口を開く。


「私は10歳の時にルオーク様と婚約致しました。それからは月に1回はお会いしておりますわ」


まさかの言葉にシルビアは固まった。

はい?今何て言った?こ、婚約…………?あのお子様が?結婚が何だかも分かってないような、男友達と遊んでる方が楽しいような坊やが?っていうか……………。


「聞いてないんですけど!!?」


こっちだって月に1〜3回は会ったりするのに、ひと言も聞いてないんですけど。仲いいつもりだったのに、ちょっと酷くない?


「どうしてあんなのと!?まさか惚れてるの!?」


衝撃すぎて思わず地がでた。

アンネローゼはキョトンとしたが、すぐにクスリと笑う。


「家同士の政略的な婚約ですわ。ルオーク様は私の事は何とも思っておりません」

「あ………政略的なやつ………」


だとしてもひと言はあるべきだろう。


「ルオーク様はいつもシルビア様の話ばかりなさいます。本当は……シルビア様と婚約したかったんでしょうね」


アンネローゼは寂しそうに目を伏せた。


「え〜それは絶対ないと思う、誓ってない。ちょっとこっちへ」


シルビアはアンネローゼの手を取ると、引っ張って誰もいない木陰に連れて行った。

ここなら誰にも話を聞かれまい。


「あいつ私の事何て言ってんの?」


もう今更面倒くさいのでアンネローゼの前では地でいく事にした。


「変態、と」

「はい?変態?誰が?えっ、も〜それ冗談だから、悪い冗談」

「他にもいろいろと聞いております。剣術が得意でルオーク様は1回も勝てたことがないと悔しがってたことや、いつも騎士服を着て見た目も男の子のようだとか…………」

「あいつ僕には何にも言ってないくせに、そんないろいろ話してんの?」

「僕っ子だと言っておりましたが、本当でしたのね。ルオーク様から聞くシルビア様は明るくて前向きで、何にでも挑戦されて、勇気があって誠実で………」

「ええっ!そんな事ルオーク言ってんの!?直接言われたことないけど嬉しいんだけど!」

「いえ、ルオーク様の話を聞いていて私がそう思っただけですわ」

「あ、そうなんだ。あいつが言う訳ないよね。いや〜でもアンネちゃんには高評価だなんて嬉しいな」


シルビアはアンネローゼにニコニコと笑いかける。


「アンネちゃん…………」

「僕達友達になれそうじゃない?そんなに良く思ってくれてるなら嫌いではないんでしょう?」

「嫌いでしたわ」

「ええ!?嫌ってんの!?」


その問いには答えず、アンネローゼはプイッと横を向いた。


「………いつもルオーク様はシルビア様の事ばかり。文句を言いながらもとても楽しそうで、信頼し合ってるのだなと思っておりました。私との話はつまらなそうなのに………」

「それは……ほら、あいつお子様だから、女の子との会話に慣れてないだけだから」

「シルビア様には婚約の事言ってなかったのですね。きっと知られたくなかったのですわ」

「え〜と、きっとあれだ、からかわれたくなかったんだよ。あいつ気がきかないし、口は悪いしほんっとお子様だし、あんなのと婚約なんて災難だよね、アンネちゃん」

「ルオーク様はとても純粋なだけですわ」


アンネローゼはキッと睨んできた。

おやおやおや〜。これは、アンネちゃんルオークのことまんざらでもない感じ?むしろ好きじゃない?


シルビアはニマニマと笑いながらアンネローゼに詰め寄る。


「いいねぇ、この甘酸っぱい感じ。アンネちゃん誤解してるようだし、ルオークを呼んできて真相を聞きますか」

「えっ……ちょ、や、止めてください、そんなみっともない真似」

「大丈夫、恥ずかしくないよう上手いこと言うから」


早速歩きだそうとしたシルビアのドレスをアンネローゼがギュッと掴んだ。もの凄い必死な形相だ。


「わ、私ルオーク様より1つ歳上で、お、お姉さんなんですの。そんな嫉妬みたいな、いえ、それよりシルビア様に口を滑らした事を不快に思われるかしら。は、早まらないでください」


アンネローゼはだいぶ混乱しているようだ。


「じゃあ僕と同じ歳なんだね。可愛いな〜アンネちゃん」

「シルビア様は意地悪ですわ」


これまた可愛いらしく涙目で睨んできた。

いや〜こんなキャラが埋もれていたとは。お茶会に出席して良かった。これはもう絶対友達になるしかない。


そんなやる気を出してたところに声がかかった。


「お嬢様方、僕も話に混じってよろしいでしょうか?」


振り返ると、男が1人立っていた。

何だこいつ?これからアンネちゃんと仲良くなるところなのに。


「僕はロウン伯爵の次男のダーウェと申します。14歳です。シルビア嬢は12歳ですよね、丁度いいですね」


は?丁度いいって何が丁度いいんだ?マジか、僕狙いか。


「私の事はご存知ですわよね。王国一の大富豪、公爵家のシルビアですのよ。覚悟をもって接しなさい」


その言葉に思わずダーウェが怯む。だが、彼は踏み込んできた。


「あはは、面白い方なんですねシルビア嬢は。僕はそうゆうはっきりした方好きなんですよ」


おお、意外とタフそうだ。

次男ね。初対面でこれとは、玉の輿狙いなのは間違いない。

ルオークとアンネローゼの婚約もそうだし、貴族の間ではもう婚約合戦が始まっているのか。


「あら、私の本気はこんなものではなくてよ」

「それは楽しみです。シルビア嬢とは気が合いそうだな。是非今度ゆっくりとお話しをする機会を頂きたいのですが……」

「話?何の?」


不意に第三者の声が混じった。

新たに現れたのは、激しく息を切らしたエディスだった。


「大丈夫か?」


エディスが息を切らして苦しそうなのでそう聞いた。

走ってきたのか?もしかして……心配してくれて?


「ルオークに任せてたのに友達と遊んでるし、シルビアは姿が見えないし………」


エディスはうなだれてハアハアと肩で息をした後、呼吸を整え顔を上げるとダーウェをキッと睨んだ。


「誰?シルビアは僕の友人なんだけど分かってるの?」

「これは王太子殿下。ロウン伯爵が次男、ダーウェ・ロウンでございます。勿論、殿下とシルビア嬢の親交が厚い事存じておりますよ。何も企みなどありません、純粋にシルビア嬢とお話しがしたいと思ったまでです」

「話しって………何で?初めて会ってこんな残念な姿なのに近づきたい目的は?公爵家に近づきたいんじゃないの?」


おいエディス、残念ってのは何だ!?それがお前の本音か!


そういえばアンネローゼがずっと静かなので、そちらをチラ見すると、どこから取り出したのかふわふわのファーがついた扇子を顔の前で広げて気配を消していた。


うわっ、これが貴族の嗜みか!参考になります!


「酷い言われようですね。シルビア嬢はとても美しい方ですよ。僕がシルビア嬢と話すのまで殿下に許可を頂かなくてはいけないのですか?」

「シルビアが望んでるのならいいけど、君と話したいとは思ってないと思うよ」


勝手に代弁しておいて、そうだよねというようにエディスは見てきた。

ついでに、ダーウェまでどうなんですか?という表情で見てきた。


政略的なのもあるけれど、シルビアさん人気じゃないの。

でも、やっぱり心配してくれる友人の気持ちが嬉しい。


「私は今日皆の反応を見る為、あえてふざけた格好で参りましたの。美しいだなんて分かってますけど、今言われると嘘臭すぎてあなたの事を疑ってしまいますわ」


なんて言ってみたりして。そうゆう設定にしとこう。


その時、賑わっていたお茶会が突如ざわつき始めた。


何だ?この反応は……誰か来たっぽい?大物?


なんて考えてる間もなく、その大物は迷わずこの隅の木陰に向かってきた。


「父様!?」


エディスが驚いた声を出す。

ハッとし、ダーウェも、アンネローゼもすぐに頭を下げた。シルビアも慌てて頭を下げる。

何だっけ、どんな挨拶するんだっけ?ひえ〜突然来るなよ〜。


「堅苦しくしないでくれ、息子のお茶会の邪魔をしに来た訳じゃないんだ。カルロスの娘が来たというから会いに来ただけだ」


その朗らかな優しい声にシルビアはちょっとだけ顔を上げた。

すると、ニッコリと微笑んだ国王と目が合った。


「あ、あの公爵家カルロスの娘、シルビア・アルビシスでございます。国王陛下にお目にかかれて光栄でございます」


ドレスの裾を摘み会釈をし、ひきつり笑いをうかべてみた。

こんなんだっけ?突然だから、心の準備不足だよ。


「改まらないでくれ。国王ではなく、ただの男として友人の娘に会いにきただけなんだから」


優しい顔してるな。エディスに似てる。

いい男だけど、将来エディスの方がもっとキラキラになるのを知っている。勿論国王だって本当美男子だ。


「でもカルロスやエディスから聞いてたのとちょっと違うな。前にチラッと庭園で見かけた時は、活発そうな姿をしていたと思ったけど」


国王は観察するように、じっとシルビアを見つめた。


「これはお茶会用の仮の姿でございます」


父上やエディスから何を聞かされてるやら。

それにしても変だな。これまでだって王宮に何度も交流会で来てたのに、何でその時でなく今会いに来たんだ?


「お茶会用ねぇ………。初めて来たのは何かあるのかい?」

「あ、はい。母上の事業に関わらせてもらう為に、お茶会に出席する条件をつけられまして」


最初こそビビったが、優しい瞳で見つめられ緊張も解けてきた。


「ははは、そうか。この間はカルロスと貿易船に乗って他国へ行ったんだって?商団についても学んできてるとか。マリアン夫人の事業というと、宝石関連かな?」

「いえ、宝石ではなく魔石として売りにだせないような小さなクズとしてたものを活用して、記念日ジュエリーを作ろうかと企画を出しまして………詳しくはまだ秘密ですが」

「魔鉱石の鉱山と宝石の鉱山を持つ公爵家ならではだな。形になるのを楽しみにしてるよ」

「ありがとうございます」


ニコニコと笑いながら国王は次にエディスを見た。


「シルビア嬢は凄い才能の持ち主だな。勉学にも優れ、意欲に溢れ学ぶ事に貪欲だ。剣術の腕前もカルロスお墨付きだし、魔塔主を越える魔素量もコントロールしてきてるんだって?素晴らしいな」


なんとべた褒めだ。皆の前で国王に褒められるなんて事実だけど照れてしまう。


「そうですね、シルビアは凄いです」


エディスも頷いた。

も〜何さ、シルビアを褒める会なわけ?照れちゃうよ。


「こんなお嬢様なら、是非うちに嫁いできてもらいたいな」


国王は笑顔でシルビアを見る。


「うちの息子はどうだい、シルビア嬢?」


えっ………?何だって………?


国王の言葉に周りが大きくざわついた。


「と、父様!?何を言われるんですか!?」


エディスは顔を赤くしながら、国王に詰め寄り服を掴んだ。


「シルビア嬢がいいなと思ったまでさ」


国王は茫然としているシルビアを見て、クスリと笑った。


「まだ早かったかな。でもシルビア嬢もいつかは誰かと婚約するだろう?ゆっくりでいいから今後について考えといてくれ」


考えといてくれって言われたって…………。

まだ12歳なんですけど。全然先の話と思ってるんですけど。

でも、王様にまだ考えたくありませーんなんて言えない。


「分かりました」


とりあえず、頷いておいた。


「シルビア嬢のような娘ができたらとても嬉しいよ。君は誰にも媚びず、へつらわなくたっていい。誰にも何も言わせない力を持ってるだろう?似合わないドレスなんか着ないでやりたいようにやればいいんだ。何かあれば私も力になる」

「は、はい………。ありがとうございます………」


この外堀から固めてく感じ………。国王のお墨付きまでもらった形になってしまった。


「では、折角のお茶会を邪魔するのも何だからこれくらいで退散するよ。皆んな楽しんでいってくれ」


国王は周りへと声をかけ、最後にシルビアにニッコリと笑いかけると来た道へ戻って行った。


どうやら国王は僕とエディスを婚約させたいらしいな。

こんな公衆の面前で、絶対わざとだ。

優しそうな顔と雰囲気に騙された。あれは相当な腹黒だ。


「あの〜僕はこれで失礼します」


声をかけ、ダーウェがすごすごと去っていった。

国王のあの発言を聞いた後で、もうちょっかいはかけれないだろう。


「シルビア、父様が変な事言ってごめん!」


焦った顔でエディスが言ってくる。

いや、変な事ではない。アルビシス公爵家が最大勢力であることを考えれば当然の選択だろう。

エディスはまだ幼いし、僕のことを友人と思ってるから結婚なんて考えてもみないんだろうな。でも、いつまでもこのままじゃいられない、もう動きだしてしまった。


「いいよいいよ、僕みたいな才能溢れる子を嫁にって親心でしょ。まあ、まだ子供だし当分は誰とも婚約なんてしないけどさ」


その言葉にエディスはホッとした顔をした。


「なんか変な空気なっちゃったし、ノルマも達成したからそろそろ帰るよ。皆んなをもてなしてやりな」


それからシルビアはアンネローゼを見る。


「アンネちゃん、今度公爵邸に招待するから一緒にお茶でもしようよ。話せなかった事いっぱいあるしね」

「わ、分かりましたわ」


アンネローゼはニコッと笑った。

シルビアはエディスとアンネローゼに手を振ると、颯爽と歩き出す。



初めてのお茶会で楽しい気分になったのに、今は憂鬱だ。

急に現実を突きつけられた感じだ。


政略結婚ねぇ…………。

僕は公爵家の力を手放したくはないんだけど。

ずっと独身でいて、公爵家に君臨したいんだけど。それかお飾りの婿養子でもとるか。

その為に今父上や母上の仕事も勉強中なのに。


はあ、今後知らないところで陰謀とか荒れた事にならなければいいけど…………。


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