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お見舞い

目覚めたばかりで今更眠気も起きず、本も駄目と言われたのでシルビアはボケッと天井を見ていた。


暇だ。暇すぎる………。

でも、うろついて母上に見つかったら大変だし、ストレッチでもしててサラが入ってきたら報告されちゃうだろうし……。

今日だけは大人しくしてるか。明日の為に。


そうして、無の極地みたいな状態が三時間くらい続いた後、不意に扉がノックされ開いた。


ヒョイと顔を出したのはメイドのサラだ。


「お嬢様、お見舞いに来て下さいましたよ」


コソッと言うと、サラはすぐに顔を引っ込ませた。

誰が?と聞く間もないな。


だが、すぐにエディスとルオークが入ってきた。

その後ろで、サラがニッコニコの笑顔になっている。


「お二方は、お嬢様が眠っていた時も来て下さったんですよ。それでは、私は失礼致します」


ニマニマとしながら、サラは去っていった。

王太子と宰相の息子がお見舞いに来てくれて、女の子男の子のラブ的なのを邪推してるんだろう、あの顔は。

きっと他のメイド仲間と、噂話に盛り上がるに違いない。


「公爵夫人が心配されて、短時間でというからすぐに帰るよ」


エディスはチラリとシルビアを見た。


「よお。その………元気か?」


ルオークもシルビアの顔を伺い見た。

なるほど、この二人僕がショックを受けて落ち込んでると思ってるな。からかってやりたいところだが、本当に心配してくれたんだろうからさすがに申し訳ないな。


「元気だよ。体が動かないとか、腕千切れたとかなら落ち込んでるけど、すっかり元通りだから」


両腕力コブを作るようにグッと曲げて見せる。

だが、二人はその腕に沢山ついた魔封具の腕輪を見て表情を暗くした。


「危篤だって聞いた時は驚いたよ。魔力の暴走だったんだってね。無事に目覚めて良かった」


良かったと語るエディスの表情は沈んでいた。

ルオークも同じような表情で口をつぐんでいる。


「あのさぁ、ショックは受けたけど落ち込んではないよ。こんな力持っちゃってこれからどうしよう、どうやって生きてけばいいんだろ〜とか悩んでると思った?」


シルビアは二人を見ながら面白そうに、ふふっと笑う。


「何の手立てもないなら悩むけど、魔封具で魔素も封じられてるし、訓練すれば使えるようになるんだよ。やるべき事は決まってるのに悩む必要ある?」

「そんな単純な問題かよ」


ルオークがいつになく、真面目な顔だ。


「単純な問題だよ。僕は桁違いの魔素量を持つ、最強の魔法使いになる素質を持った人だったということが今回の全貌であり、今後の課題でもあるだけだ」


最強の魔法使いだって。自分で言ってておかしくなってきた。

シルビアは声を殺してくっくっくと笑う。

二人はそんなシルビアを怪訝そうに見た。


「ふっ……あははっ。だって凄くない?大金持ちのいい家柄に、剣術の腕前もかなりのもので、超越した身体能力に、おまけに最強魔法使い?もう盛りすぎでしょ。どんだけ持ってんのって、シルビア何者?あり得なすぎ」


もう笑うしかない。ゲームの中でもシルビアは最強キャラだったのだろうか。ラスボス?でも、妹に聞いたのはそんな話ではなかったような………。

やっぱり僕の夢だから、僕に都合のいいように出来てるのかな。


「あーおかしっ。ならなってやろうか、最強ってやつに!」


不敵に笑ったシルビアをエディス、ルオークの両名は唖然と見つめた。


「たくましいね、シルビア………」


エディスが言う。


「絶対戸惑ってると思ったのに、もう俺らの方が混乱してるよ。異常に前向きすぎんだろ」


ルオークも真顔で半ば呆れてるようだ。


「僕は前世も含めるとそれなりに経験してきてるから、嘆いたってどうにもならなかったのも知ってる。結局は何もしなければそのままだけど、努力して少しずつでも進んでいけば変わってくんだ。努力は人を裏切らないってよく言ったもんだ。僕の人生はそれだったよ」


シルビアは身を起こし、ベットの上に仁王立ちに立った。


「しかも今回のは嘆くような不幸なんかじゃない!魔法が使えればな〜程度だったのが、まさかの大魔法使いだ!最強なんだから試練なんて当たり前だろう!」


むしろとんでもない幸運じゃないか。

最強なんて………。こんなについてていいんだろうか。

まあ、夢だからこの世界では僕が主人公なのかもな。


「おい、落ち着けよ。嬉しいのは分かったから」


ルオークがなだめるが、シルビアは興奮しながらベットの上をピョンピョン飛び跳ねた。


「まさかの最強〜。あっ、見て見て足にもついてんの」


シルビアは片足を上げ、足についている魔封具を見せた。

その途端、二人がバッと顔を背ける。


「シ、シルビア、見えるから」


エディスの顔はみるみる赤くなった。


「あっ、見えちゃった?どれどれ、今日は可愛いパンツ履いてたかな」


シルビアは足を下ろし、ワンピースのような寝巻きをたくし上げた。


「うわっ、でかパンだ。ごめ〜ん、人生初のチラ見がセクシーパンツじゃなくて」


暖かさ重視のボワんとした、足の付け根のとこがゴムになってるセクシーとはかけ離れたパンツだ。


「も〜お前恥を知れ!」


ルオークも真っ赤だ。

二人共可愛い少年だなぁ。

シルビアはニヤニヤと笑い、ベットに腰掛けた。


「歳上のお姉さんの魅力にドキドキしたな?」


その言葉に、二人は急に真顔になって〝は?〟と声を揃えた。


「おいおい、その反応傷つくなぁ。あと数年したらとんでもない美人になっちゃうの知らないな〜」


シルビアは足を組み、髪をかき上げる。

確か設定では、美人になってたはすだ。


「そのいい女演出みたいのキモいから止めろ」


おえっと、ルオークが吐く真似をする。


「失礼だな。あ〜でも明日から楽しみ〜。最強への一歩だ」


ついつい顔がゆるんでしまう。

極めれば最強になれると結果が分かってるから、もう頑張るしかないでしょう。


「ふっふっふ、君達はいつ開化の儀するんだい?その時には先輩としていろいろ助言してあげよう。後の大魔法使いとしてね」


自分で言って恥ずかし〜。

シルビアはベットの上をピョンピョン飛び回った。

そんなシルビアを呆れたように、苦笑いしながら二人は見ていた。


「僕達がいると休めなそうだね。元気な姿見れて安心したから、そろそろ行くよ」


エディスはシルビアにニコッと笑う。


「もう帰っちゃうの?暇してるんだよ〜、もっといろよ〜」

「お前寝といた方がいいぞ。変なテンションなってるし」


ルオークは寝ろというようにベットを指さした。


「え〜眠くないのに〜」

「また今度ゆっくり話そうよ。お大事にね」


エディスはルオークの袖をくいっと引っ張る。


「じゃあな、頑張れよ」


ルオークもそう言い、二人は引き留められないようにささっと出ていってしまった。


「何だよ、もうちょっといてくれてもいいのに………」


ベットの上に一人で立っていても仕方ないので、ジャンプしてそのまま大の字に寝転がった。


けど、あいつら目覚めてない時も見舞いに来てくれたんだ。

出会った時は、子供の面倒をみるなんて嫌だと思ったけど、こんなに懐かれて嬉しいもんだな。


騎士団にも毎日顔を出してたから、心配してるかも。

明日には、元気な姿見せて安心させてやらないとな。


こんなに皆んなに大切にされ、愛されて、本当に幸せ者だ。





――



「ねぇ、シルビアをどう思う?」


公爵邸の長い真っ直ぐな廊下を歩きながら、エディスは聞いた。


「どうって………どうゆう意味だ?好きって事?」


ルオークが首を傾げる。


「いや、言い方が悪かったよ。前世の記憶を持ってるシルビアについてだ。驚いたよ、さすがにシルビアだって今回の件は堪えてると思ってた」

「ああ、俺も何て声かけようかと迷ってたのにあれには驚いた。死にかけたってのにな」

「僕だったら怖くて落ち込んでたと思う。カラ元気って訳でもなさそうだったし、吹っ切ってもう次を考えてたね」


エディスはふと足を止め、窓の外に見える庭園に目をうつした。


「何かあんの?」

「いや、ここでいつもシルビアが過ごしるんだと思ってさ。この前来た時は、見てる余裕もなかったから」

「ああ、何だかんだ公爵邸に来たのはこの前が初めてだったな。シルビア危篤、本当ビックリだったなあれ」


ルオークも窓の外を見て、すぐに苦笑いした。


「すっげー庭だな。独特っていうか、これシルビアの母親の庭園だろ。芸術とかデザイナーがどうのとか、うちの母親が話してた気がする」

「ある意味自由だよね。これを庭園といっていいものか、一つの芸術の作品と見るべきか………」

「成功してる人が作ればそれも価値になるんだよな。お茶会に呼ばれた母上は公爵夫人は感性が違う、素晴らしい才能とか帰ってからもベタ褒めだよ。これが噂の庭園ねぇ」

「こうゆう自由な環境もシルビアには良かったのかな」


エディスは斬新なカットの木々や、宝石も使われたきらびやかなアーチや彫刻、魔石をあちこちに散りばめライトアップされた庭園を見て小さく笑う。


「初めてシルビアに会った時は、前世の話を聞いて、生まれ変わった母様が記憶を取り戻して会いに来てくれたらいいなと思ったんだ」

「そんなに早く生まれ変わらないだろ」

「そうだよね。何百年も後に生まれ変わるかもしれない。今なら、前世の記憶なんか思いださないで、新しい人生を幸せに生きてほしいって思うよ」


エディスは視線を窓の外からルオークにうつす。


「新しい人生を送る為には、前世の記憶は必要ないと思う。僕は今の生活に満足してるし、思い出したくない。自分だけど、自分でない人の記憶に影響されたくないな。このままでいい」


そう言ったエディスをルオークはじっと見た。


「うん。そうだな、俺も同じ事思ってた。最初はそりゃあ、こんな面白い事が起きるんだって楽しかったけどさ。自分に置き換えてみたら、嫌だった」

「ルオークも考えてたんだ」

「身近にいれば可能性も考えるだろ。前世がいい人生ならまだいいけど、貧乏で生活苦しくてろくでもない人生で、最後は殺されるとか悲惨すぎたら、子供の俺なんて別の人生と割り切れずにきっと影響されちゃうんだろうな〜とか想像したりさ」

「あはは、それは嫌だね」

「だろ?貴族なんて一握りだし、前世は平民の可能性が高い。今を生きてるんだし、前の記憶なんて必要ないよな」

「皆んなが前世の記憶を取り戻してたら、この世界は大混乱だよ。シルビアの事がなかったら前世なんて考えてもみなかった」

「だよな〜。あいつは不具合があって思いだしたんだろうけど、突然そうなる可能性あると思うと怖いよな」

「シルビア……かなり影響してるよね」


エディスの言葉にルオークは黙った。


「どう見たって女の子なのに、女の子としての人生を送るしかないのに、男だった影響もでてると思う」

「出まくりだろ。剣術だって俺より強いんだぞ、あいつ。前に一緒に訓練したんだけど、シルビアいつまでもやってて俺が先にへばったら、情けないな〜とか言っちゃって、あ〜腹立つー!」

「黙ってたらそれなりに可愛いのにね」


そう言ったエディスをルオークは驚愕の表情で見た。


「可愛くねーだろ。まぁ、整ってはいるとは思うけど、可愛い顔ではない。なんていうか………男前?」

「女の子に失礼だな」

「そもそも俺の中であいつは女の子じゃない。男でもない、もうシルビア枠として独立してんだよ」

「何それ?酷いな、シルビアだって女の子なんだよ」

「女じゃない!あ、あいつ、その訓練の時、育った?ってお、俺の股間を掴んできたんだぞ!」


ルオークはカアッと顔を赤くした。


「それは酷いね………。僕はまだされた事ないや」

「差別だ!エディスが王太子だからやらなかったんだ!」

「そうゆうとこも含めて、今後僕らが気をつけてあげようよ」

「は?何で?」


ルオークはキョトンとする。


「僕は今まで前世に影響されたシルビアの生きかたも、考え方もそれでいいと思ってきた。僕には真似出来ないけど、自由に自分を貫く姿はかっこよかったし、やり方はあれだけど人を思いやれる考え方は好ましかった」

「ただのやりたい放題の自由人だろ、あいつは」

「でも、今回の達観したあの考え方。シルビアはまだ10歳の女の子なんだよ。前世の記憶分僕らより経験は積んでるだろうけど、その考えのまま突っ走りすぎないよう、事情を知ってる僕らがその都度たしなめたり言ってあげた方がいいと思うんだ」

「はぁ?言ったってあいつが素直に受けいれるわけないだろ」

「けど、言わないよりは無駄でもいいから伝えないと!少しは影響受けたり考えてくれるかもしれないだろ!」


熱く語ったエディスをしらっと冷たい目でルオークは見た。


「……俺はな、チンチン握られた時点であいつの事は諦めた。あいつは男だった前世の記憶を持つ、女でもないシルビアという生き物だ。永遠のシルビア枠なんだよ」

「だから、そうゆう事女の子がしちゃ恥ずかしいんだよってこととかもさ……」

「無理!俺は分かる、あいつは変わらない!これからもシルビア枠として生きてくんだ!」

「もう、何だよ、勝手に枠組みして。偏見だぞ」

「偏見もあるか!あいつのこれまでの行動で枠組みされたんだよ!今回も勝手に乗り越えてて驚いたけど、ああやっぱりあいつはシルビア枠だなって納得もしたんだ!」

「でもさ、僕らが出会って前世の事も知って今もこうして友人として関わってるのは運命だと思うんだ。力になってあげたいよ、僕は」

「はっ、運命って乙女かよ。だいたい、俺にシルビアの事口滑らしたのエディスだろ。エディスさえ黙ってれば俺知らないままだったし〜。力になりたいなら勝手にやってくれ」

「冷たいなぁ」


エディスは、ルオークの脇腹をツンツンとつつく。


「やめろって。あいつは変わらないって言ってるのにエディスがうだうだ言ってるからだろ。無駄な努力はしたくない」


ルオークはエディスと距離をとり、フンと腕を組んだ。


「………分かったよ。僕一人で頑張ってみる」

「おーそうしてくれ。まっ無駄だと思うけど」

「シルビアは前世を思い出さなかったら、今頃どうなってたんだろう」

「さあな。俺にとってはどうでもいい存在?何となく覚えてるのは酷かった事くらいだ。エディスにすっごい絡んでたよな」

「あはは………他の子と喋っちゃ駄目とか、邪魔してきたりね」

「あの調子なら、今頃婚約でもさせられてたんじゃねーの?」

「家柄的には申し分ないしね、一番可能性が高い。でもあの時のシルビアと生涯を共にするのは………考えさせられるね」


エディスは考えて、苦笑いした。


「可能性の話したところで何か変わる訳じゃねーだろ。俺達は今を生きてんだから。シルビアはずっとあのままだよ。何?前のシルビアが良かったって話か?」

「ち、違うよ!今のシルビアでいいよ!」

「俺もそう思う。今のあいつは俺の友達だ。勝手で自由で、ちゃんと自分をもってて、いい奴で、変態、それでいいだろ」

「変態って………」

「ド変態だ。あいつはもうあれで完成形なの。そう思ってエディスも諦めろ。ほら、行こうぜ」


ルオークはエディスを置いて小走りで走り出した。


「あっ待ってよ!」


エディスも慌てて後を追いかける。


日も暮れはじめ、辺りは赤い夕焼けで染められていた。

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