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魔力暴走②

日が沈みかけ、辺りを夕焼けが赤く染める。


それをジャングルジムの上でいつも見ていた。

何をすることもなく、ただぼーっといつまでも。


公園で遊んでいた子達がちらほらと帰りはじめていく。


「お兄ちゃん、お腹空いたよ」


下から声がかかった。

視線を下にうつすと、妹の奈緒が立っている。


「ねぇ、帰ろうよ〜」

「ブランコで遊んでろよ」


冷たく言い放ち、またぼんやりと空を眺めた。


帰ったって誰もいない。食事だって用意されてない。

鍵を開けて、真っ暗な部屋の電気をつけて、それからコンビニで買ったおにぎりを食べるだけだ。


奈緒は帰っていく母親と子供をくいいるようにじっと見ていた。

うちには母親がいない。病気で死んでしまった。

そんなに見てたって、羨んだってどうにもならない。


「ジロジロ見てんじゃねーよ。ほら、帰るぞ」


俺はジャングルジムから飛び降りた。


「うん」


奈緒はタタッと走って、ベンチに置いてあったランドセルを取ってくる。交通安全の黄色のカバーがついた一年生のランドセル。

亡くなる前に母親が奈緒の為に用意してくれたものだ。

でも、それを使う姿を見ることもなく逝ってしまった。


「コンビニ寄ってくぞ」


自分のランドセルも背負い、奈緒の手を引いて歩きだす。


帰りたくなかった。待つ人もいない、ゴミや洗濯物もたまり、荒れ果てたあの暗い暗い部屋へ。



――


薄らと開いた瞳に、見慣れた天井がうつった。


久しぶりに元の世界での昔の夢を見た。

夢の中で、夢をみるなんてな。変なの。


…………ってか、生きてる!?

ガバッと身を起こした。

見慣れているはず、ここはシルビアの寝室だ。


「お嬢様っ………!?」


ドサッと物が落ちる音がした。

メイドのサラが、本を落として驚愕の顔でこちらを見ていた。


「目覚められたんですね!だ、旦那様を呼んできます!」


サラは慌てた様子で、テーブルにガンとぶつかりながら走って行ってしまった。声をかける隙もなかった。


シルビアはペタペタと自分の頬を触る。

うん、感覚はあるな。生きてる。

けど、これ何だ?


両腕に丸いブレスレットみたいなのが大量につけられていた。

ん?首にも何かついてるな。


あれからどうなったんだ?

もうどこも痛くないけど…………。死んだかと思ったのに。

前の世界での車に轢かれた痛みは覚えてないのに、今回の痛みはやけにリアルだった。

全身が引きちぎられたような激痛だった。すぐに痛みを感じなくなったから良かったけど、あんなのがずっと続いたら気が狂いそうだ。


「あー……」


声も出せる。最後は本当に苦しかったな。


ぼんやりしてたところに、大きな音で扉が開いたのでシルビアはビクッと飛び上がりそうになった。


「あ………父上」


そこには激しく息を切らしているカルロスがいた。


「シルビアッ!!」


カルロスは駆け寄ってくると、シルビアをギュッと抱きしめた。

その腕は苦しいくらい強かったが、シルビアは何も言わずそっと手をまわした。


目……真っ赤だった。人知れず、泣いたりしてたのかな。

まぁ、最後があんな姿じゃ心配するよな。


そうしてるうちに、今度はマリアンが乱暴に扉を開けて部屋に飛び込んできた。


そして、僕を見てホッとしたような気がゆるんだ顔をした後、グッときつく唇を噛んだ。その瞳からは次から次にボロボロと涙が溢れ落ちる。


「母上……………」

「もう!!シルビアちゃんは何回死にかけるのよ!?どれだけ心配したと思ってるの!?もお〜……!!」


それだけ言うと、マリアンは顔を手で覆って泣き出した。

すぐにカルロスが、そんなマリアンを抱きしめる。

マリアンはカルロスの胸で、子供のように泣きじゃくった。


こんなに心配をかけてしまって、もはや言葉もありません。

僕はただただ二人を見つめた。


シルビアの両親というだけだった。

僕の本当の家族は別にいる。仮初の家族だと思ってた。

でも、彼らにとってはシルビアは本当の娘で、向けられる愛情はとても深く本物で…………。

こんなに毎日一緒にいればそりゃ情だって湧くだろう。

本物の家族だって思っちゃうだろ。


昔の夢なんか見たせいだ。もう子供でもないのに。

嬉しい。彼らが心を痛めるほど思ってくれるのが嬉しい。

こんなにも愛されてることが嬉しい。


「マリアン、ほら………」


カルロスがシルビアを優しい顔で見る。

そのカルロスの顔が涙で滲んでぼやけた。次から次に涙が溢れてくる。

そんなシルビアをマリアンはギュッと抱きしめ、そのまま大泣きし始めた。


死ななくて良かった。生きていられて良かった。

こんなに幸せな夢なら、もうずっと夢でもいいかもしれない。



マリアンも僕も落ち着いた後、カルロスはあの後の状況を説明してくれた。


僕は肺も潰れ、内臓も破裂しすぐにでも死ぬ状態だったらしい。

だが、あの三人の魔法使いのうち一人が光属性の治療魔法を使えたので救助されるまでの間、ずっと魔法を使い続けてくれていたそうだ。


救助は、建物の倒壊の音で駆けつけた騎士団が総出で瓦礫をどけたり素早い対応がとられ救出までそう時間はかからなかったという。

僕は損傷が激しかったので、一人の魔法使いの力では完治できなかったが、駆けつけた従医ロエンと、治癒魔法の使えるマリアンによってその場で治療されたそうだ。

マリアンは半狂乱になって、制止も無視してぶっ倒れるまで魔法を使っていたという。


ガルーアの防御魔法で、倒壊した建物の下敷きにはならずに済んだが、救助の間ずっと使っていたのでこちらも魔法切れで救助が終わると動けなくなってしまったそうだ。


僕はあの日から四日間眠り続けていたという。


ようやく魔法が使えると楽しみにしてたのに、まさかこんな事になるとは………………。



「魔力暴走?」


今回の原因は魔力の暴走によるものらしい。

ん?その為に結界石置いたんじゃないのか?


「普通は結界もあれば大事にはならないらしい。でも、シルビアは桁違いの魔素量を持っているみたいなんだ」


カルロスは神妙な顔でシルビアを見る。


「大量に放出された魔素が、一気に様々な力と結びつき激しい暴走となったそうだ。これだけの魔素量をコントロールするのは特級の魔法使いでも難しいらしい」

「そうなんですね………」

「腕についてる腕輪は体内の魔素を封じてくれる。その……場合によっては、一生それを全部つけていかなきゃいけないんだ」

「えっ、これをですか?」


両腕にぎっしり、あと首にとすごい量だ。

そんなシルビアの反応にすかさずマリアンが釘をさした。


「絶対に外したら駄目よ!外したらコントロール出来ないんだからまた、同じ事が起こるわよ!」

「外しません。もう恐怖ですよ、あんなのは」


間違いなく死んだかと思った。もうあんな思いはしたくない。


「こっちだって生きた心地しなかったわよ。シルビアちゃん服も血だらけで、目も鼻も口からも血を流してるし、死んでるかと思ったわ。絶望したわよ。もうあんな思い二度としたくないわ」

「ごめんなさい……」

「こんな事が起こるなんて誰にも分からなかったし、シルビアちゃんのせいでもないわ。だだちょっと、開化の儀をするのは早かったんじゃないかと思うけど」


マリアンは額を押さえ、ハァと息をついた。

僕も今ならそう思うが、結果論だ。

あの時は、ただ魔法を使えることに希望を抱いていた。延期なんて選択肢はなかった。


そんな中、扉をノックする音がした。

カルロスが返事をすると、扉が開き顔を覗かせたのは特級魔法使いのガルーア・ラックだった。


「シルビア様、お目覚めになられたんですね。良かった」


ガルーアは身を起こしているシルビアを見てホッとした顔をした。


「いろいろ面倒をかけたな」

「とんでもない。不測の事態とはいえ、シルビア様をお守り出来なかった事は不甲斐ないばかりです」

「でも、みんなの事は守ってくれた。それでいいよ。それよりこれからの話を聞きたい」


幸い命も無事だったし、起こってしまった事はもうどうしようもない。重要なのはこれからどうすべきだ。


「魔塔からも人が派遣されて、今回の事を調査しました。あの大きな結界石を四つも割るような桁違いの魔力は今の魔塔主にも匹敵します」

「コントロール出来るようになれば、魔塔主にもなれるって?」

「魔塔主の魔力はこれまでの結果の魔力です。開化の儀では魔素を目覚めさせるだけで、魔力を高めていくのはこれからの段階でした。今回はシルビア様が意識を手放し儀式は途中で止まりました。つまり、魔素はまだ全て解放されていないんです」

「えっ?何?まだ危険ってこと?」

「そうです………シルビア様の魔素は底が知れない。その魔封具を外したら、今度は跡形も残らず体が弾け飛ぶかもしれませんよ」

「うっ…………」


怖いこと言うな。

でも、その手前まで体験したから、現実に起こりそうだ。


「目覚めかけたシルビア様の現状で、魔塔主と同じ。でも主が長年かけてその領域に達したのに対し、シルビア様は一瞬で達してしまった。圧倒的な経験の不足があります」

「経験を積めば、この魔封具も取れて魔塔主並の魔法も使いたい放題ということか?」

「……そうですね。前向きなのは結構ですが、そう簡単な事ではありませんよ」

「分かってる。簡単に大魔法使いになれるなんて思ってないよ。日々の絶え間ない努力の結果そうなれるかもって事でしょ」

「そ、そうです」


ガルーアはコクコクと頷いた。


「シルビア様は全く悲観してないんですね。目覚められたと聞いて、取り乱されてると思ってなじられる覚悟もしてきたんですが………。どうしようとか、不安はないのですか?」


ガルーアは不思議そうに聞いてきた。

そんなの不安がないわけじゃない。


「不安はあるよ。でも、まだ嘆くだけのことも何もしてない。やれるだけの事をやって、駄目ならそれは落ち込むだろうけど、今じゃない」

「物凄く前向きですね。あんな事があった後に、こんなふうに切り替えられるなんて私はシルビア様の事見くびっていました。申し訳ありません。あなたはとても強い人だ」


その言葉に、ため息をついたのはマリアンだった。

何でそこでため息をついたんだ?

まだ何もしてないぞ。


「そうなのよ、それが厄介なのよ。シルビアちゃんは剣術だって、毎日、雪の日だって欠かさず手と鼻真っ赤にして頑張っちゃうような子なのよ。せめて室内でやればいいのに、寒さに体を慣らしたいとか、もう何?子供がどうしてそこまで自分を追い込むの?ってくらいやり込むから心配なのよ」

「俺はシルビアのそうゆう真っ直ぐなとこいいと思うぞ」


そう言ったカルロスを、あなたは黙っててと言わんばかりの顔でマリアンは睨んだ。


「シルビアちゃんはやるわよ。毎日毎日きっとコツコツ鍛錬に励むんだわ。弱音もはかずに当たり前のようにやるのよ」


マリアンはじっとシルビアを見る。


「でもね、勝手に腕輪を外したら駄目よ。一個ずつ、外す時には魔塔主を呼ぶわ。もうあんな思いはたくさんよ。母様を悲しませないでちょうだい」

「約束します。もう悲しませるような真似はしません」

「シルビアちゃん………、信じるわよ」


マリアンはまたギュッと抱きしめてきた。

柔らかく暖かいその腕に包まれ、心地よくてシルビアは瞳を閉じた。


こんなに思ってくれている両親を悲しませたくはない。

なんてこの世界は幸せなんだろう………。


「随分信頼されてるんですね。シルビア様ならやり遂げると」


そんな二人を見ながら、ガルーアはカルロスに言った。


「シルビアを見てるとそう思わせてくれる。諦めずにひたすらに努力をし、それを形にしている子だ」

「それは鍛えがいがありそうですね。私も楽しみです」


ふふっとガルーアが笑う。


おおっ、父上や母上の信頼厚いな。ガルーアも期待してくれてるようだし、これは頑張るしかない。


「よし、今からやりましょう!」


張り切って言ったシルビアを、マリアンは腕を離し驚愕の顔で見た。


「母上、期待していてください!やりますよ!」

「………シルビアちゃん。あなた少し前に目覚めたばかりなのよ」

「四日も寝込んでたんですよね?筋力落ちてないか心配です。知ってます?寝たきりだとガクッと落ちるんですよね〜。取り戻すのに一月はかかるかな」


シルビアはベットの上に立つと、勢いよく上に飛んで天井にタッチした。

ん〜、動けるけど鈍った気がする。


そして、着地すると同時にマリアンに肩を掴まれそのままベットに押し倒された。


「シルビアちゃん、悲しませないんじゃなかった?」

「え?な、何かしました?」

「目覚めたばかりって言ったわよねぇ」

「で、でももう元気です。安心してください」

「そうゆう事言ってるんじゃないの!!今日一日ベットで過ごすこと!!いいわね!?」


マリアンの圧と、肩に食い込む手が痛い。こ、怖っ!!


「は、はい!了解です!」


ここは素直に従っとこ。

逆らうと明日から訓練もさせてもらえなそうだし。



それからすぐに、シルビアを安静にさせるようにとマリアンが二人を連れて部屋から出ていってしまった。


死にかけはしたが、今はすっかり元気なのに何もせずベットで寝てるだけなんて…………。

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