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魔力暴走

寒い冬が明け、春が過ぎ、ようやく僕は10歳になった。


10歳になったらと、前々から両親と約束していた事がある。

ずっとコツコツと勉強してきて知識が増えると共に、期待と憧れは膨れ上がっていった。

それが、とうとう実現する日がきたのだ。

この日をどんなに待ち侘びたか………。




室内訓練所で、シルビアはうきうきとしながら、早る気持ちを抑えられず、屈伸をしたり、足をバタバタ動かしたりしていた。


室内では、シルビアの他にカルロスと、白いローブを頭からすっぽり被った者が三人いた。

この三人は、魔塔から派遣された魔法使い達だ。魔塔とは、そういった会社名の魔法使い専属の派遣会社のようなものだ。

依頼を受け、その案件に応じた魔法使いを派遣してくれる。料金は魔塔に支払われるので、やっぱり派遣会社だ。


魔法使いが来てるという事は………。

つまり!今日初めて魔法を使うということなのだ!!


シルビアは嬉しくて、屈伸の後、勢いよく上に飛んだ。

そして天井に手を着いてから着地する。


この身体能力も惚れ惚れする〜!


「シルビアはご機嫌だな。そんなに嬉しいかい?」


落ち着きのないシルビアを見ながら、カルロスはクスリと笑った。


「勿論!この日をどれだけ待ったと思ってるんですか!?」


だって魔法だよ。そんな夢みたいなものを使う日が来るなんて今も信じられない。でも今日使っちゃうのだ。

笑みが堪えきれずに、黙っててもニヤけてしまう。


そんなシルビアの前にローブの男が一人立った。


「初めまして、シルビア様。本日開化の儀を務めさせて頂きます責任者のガルーア・ラックと申します」


ガルーアは深々と頭を下げた。


「今日はよろしく頼む」

「かしこまりました。まだ準備が終わりませんので、シルビア様が魔法についてどれだけ学ばれてきたか聞かせて頂いてもよろしいですか?」

「いいよ。ところでガルーアはいくつ?」

「私ですか?28になりますが………」

「成る程ね」


ローブから覗く顔がなかなか整った顔の青年だ。

この世界って、イケメン率高くないか?


「えーと、何から話せばいいかな。魔法の原理かな、私達の体には魔素というものがあって、それをこの世界の火の力、水の力などと結びつけて魔力として使用する。魔素量には、個人差があり少ない人も多い人もおり、多い人程強い魔力を使う事が出来る」

「よく勉強されていますね。いいですよ、続けて下さい」

「魔法は無限に使えるのではなく、体内の魔素が尽きると使えなくなり、休んだり寝る事によって魔素はまた回復する」


これを知った時、ゲームのMPそっくりだと思った。ゲームみたいにMPを回復させる聖水とかもあったりして。


「自分の魔素と相性のいい力というものがあり、それがその人の使える魔法になる。父上は火と風と雷と土属性でしたよね。母上は水と光です」


サウロは火ともう一個あるようだが、それは教えてくれなかった。でもこっそりロウに闇だと聞いてしまった。

闇属性は少なく、歴代の悪人がもっていた事が多いから隠しておきたかったんでしょうとロウは言っていたので、今も知らない振りをしている。

正直、そんな事を気にするタイプだと思ってなかったので意外だった。


「属性以外の力も、使おうと思えば使えるけれど大量の魔素を消費し大した威力も出ないので、ほとんどの人は相性のいい属性を使っていく。違う属性でも水と氷のように関連するような属性ならまだ扱いやすいので、それも使える属性と言える」


シルビアはだよね、と確認するようにガルーアを見た。

ガルーアはニコニコと笑って頷いた。


「そうですね。よく学ばれています」

「早く魔法を使いたかったからね」

「では、今回の開化の儀についてもご存知ですか?」

「勿論。魔素は産まれた時から備わっているけれど、子供の頃は封印されてるような状態で、それを開化の儀による刺激で目覚めさせてあげるんでしょう?」

「素晴らしい、シルビア様には教えてあげる事がありませんね」

「たまに、本人も気づかないうちに魔素が解放されて使ってる子もいるって聞いたことがあるよ」

「そうゆう子もいますね。身体強化系やささいな変化だと気づかず自然と使われてる事もあります。でも、こうして形にするとなると………」


ガルーアが手のひらをかざす。すると、その上に水の渦が巻き起こり、子犬の姿になった。

おおっ、とシルビアは拍手をする。


「こうやって形を作ったり、大きさを調節するのには細かなコントロールを必要とし、訓練が必要となります」

「訓練は得意だから任せといてよ」

「頼もしいですね。魔素が解放されたての子は調節がきかなくて一つの魔法で全ての魔素を使い果たしてしまったりもします。今回は我々がいるので安全ですが、慣れるまでは結界のある部屋で訓練を行なって下さい」


ガルーアは部屋の四隅に置かれたクリスタルのような石を指差した。


「公爵閣下が大きな結界石をご購入してくださいましたので、この部屋が結界部屋として使えます。明日からでも訓練できますよ」


ガルーアはお買い上げの礼のようにカルロスにペコっとお辞儀をしてから、シルビアを見る。


「私もしばらくの間シルビア様の訓練につきあいますので、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく」


一体どれくらいの報酬が支払われることやら。

ガルーアの胸元につけられたバッチが、一級魔法使いの上の特級魔法使いなことから、魔塔も力を入れてることが分かる。

まあ、うちの財力を持ってすれば、微々たるものだけど。


「準備が終わったようです。シルビア様こちらへどうぞ」


ガルーアは部屋の中央に置かれた敷布の隣に行き、その上に立つようにと手で示した。

敷布には魔法陣みたいなものが真っ赤なもので書かれてある。

その回りには、色とりどりの魔石が沢山、円を描くように置かれてあった。


「これってまさか血で描いてたりして。魔石もこんなに種類あるんだね」

「よく分かりましたね、血ですよ。魔石もありとあらゆるものが儀式には必要なので」

「あ……やっぱ血なんだ」


描きたてっぽいし、この上立つの嫌だなぁ。

でも仕方ない。魔法の為だ。


シルビアはスタスタと歩き、敷布の真ん中に立った。

そして、これでいいのか?とガルーアを見る。


「はい。では早速初めましょうか。シルビア様、ゆっくり深呼吸をしてください。すぐ終わりますから大丈夫ですよ」


ガルーアは安心させるように優しく微笑んだ。


いよいよだ、ドキドキする。

シルビアは緊張をほぐそうと、何度も深呼吸をした。


「シルビア様の体に微力な魔石の力を働きかけます」


ガルーアは膝をつき、魔法陣に手をかざす。

すると、それに反応するように魔法陣が光りだした。それに伴い、魔石もわすがな反応をみせる。


この血って、ガルーアの血なのかな?


いよいよ僕も魔法使いデビューか………。

どんな感じなんだろう、体から力が溢れてくる感じなのかな。

全然分からないけど、目を閉じて瞑想でもしてみるか。


シルビアは瞳を閉じた。


何も感じないけど、少し変な感じもした。

何だろう。地震がくる前のような。ゴゴゴと音がする訳ではないが、何かが迫りくるような気がする。

深く息をしてみよう。深く深く…………、自分に集中して。


すぐ近くに何かが迫ってくるような圧迫感がした。巨大な雪崩れの前に立たされたような…………。


ドンッ!!!

本当に雪崩れに巻き込まれたかのような衝撃が走った。

体は動いていない。元のまま立っている。


ポタポタと鼻から熱いものが溢れ落ちた。

下に赤い染みができる。

鼻血………?止まらない………。

そのまま体はグラリと倒れた。


「シルビア!!?」


カルロスの声がした。

でもそちらを見る事も出来ない。

ゴホゴホと咳が込み上げ、その勢いで喉から熱いものが飛びだした。飛び散った血が敷布を真っ赤に染める。


次の瞬間、大きな音を立て結界石が砕けた。


カルロスの手がシルビアに届く前に、切り裂くような激しい風が部屋中を襲った。

壁も天井もビキビキと音を立て、大きな亀裂が入っていく。

地響きのような大きな音と共に、激しく床が揺れ、裂けて地面が突出した。


「崩れる!!」


ガルーアが手を上に突き出した。

球体のようなものが周囲を包みこむ。


そのすぐ後に、爆音と共に建物が倒壊した。


「あああああー!!!」


体が引き裂かれるような痛みにシルビアは叫びを上げる。

だが、声は途中で途切れ口いっぱいになった血が溢れた。

痛さを通り越したのか、体の感覚がなくなった。

ゴフッと吐血したが、肺がつぶれたのか詰まったのか息が吸えなくなった。


「シルビア!?シルビア!!」


真っ赤に染まった視界に、焦ったような、泣きそうな顔のカルロスがうつる。


苦しい………息が出来ない………。父上、助けて………。


それが僕の最後の記憶だった。

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