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07 天空の一軒家

07 天空の一軒家


「テリトリー! 我が地となれ!」


 ……ビシュウンッ!


 かざした手から光線のようなものが放たれる。

 このとき、俺は手を地面に向けていたのだが、光線が当たった先に赤いラインのようなものが浮かび上がっていた。


 手を動かすと、それに合せて地面に赤いラインが引かれていく。


「もしかして、これでテリトリーにする範囲を指定するのか?」


 ものは試しと、俺はランドマークと石の家が範囲に収まるように、ぐるりと円を描くように赤いラインを引っ張ってみた。

 ラインの端と端が繋がった途端、赤いラインは魔法陣のような青い光となる。


 ……ズバンッ!


 そして青い線に沿って、地面がパックリと割れた。


「『テリトリー』の魔法の説明だと、スカイランドにした範囲は、浮遊魔法の効果を与えられるんだよな……」


 俺はまさかとは思いつつも、地面に向かって命じた。


「レイヴン! 浮け!」


 すると、我が目を疑うような事態が起る。

 俺の立っている周辺だけが地震のように激しく揺れたかと思うと、


 ……ぐっ……ばあっ!


 大地に根を張った植物を引っこ抜くように、一部の地面が宙に浮かび上がったんだ……!

 その大きさはちょうど、さっき『テリトリー』でラインを引いた範囲だった。


「す……すげえっ!? 本当に、大地を浮かせられるだなんて……!?」


 「ひゃああっ!? 落ち着いてください!」と誰よりも慌てた様子で、石の家からスズメが飛び出してくる。


「でもご安心ください! スズメには防災知識が備わっておりますから!

 地震の場合はこうやって、揺れに合わせて身体を動かせば振動を相殺できます! ゼロカロリー理論です!」


 アワアワしながら変な踊りを踊っているスズメは、違和感に気付く。


「あ……あれ? なんだかまわりの地面が変なような……?

 わあああっ!? 浮いてます!? 浮いてますぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーっ!?」


 とうとう腰を抜かしてしまった彼女は、しばらく信じられない様子でほっぺたをつねっていた。

 頬がビロンと伸びた変顔で俺を見ると、


「ましゃかこれも、ごひゅりんしゃまが……!?」


「ああ、どうやらそうみたいだ」


 スズメが頬から手を離すと、ゴムのようにパチンと戻った。


「どうやらそうみたい、って……!?

 地面を浮かせるだなんて、もはや神の所業じゃないですかぁーーーーっ!?」


「大袈裟だな」


「大袈裟じゃないです! 見てください! 下にいる方たちを!」


 大地はゆっくりと上昇していて、すでに目測で20メートルくらいの高さにあった。

 眼下の地獄の住人たちは、アゴが外れたような顔で、俺たちを見上げている。


「み……見ろ! う……浮いてる! 大地が浮いてるぞ!」


「せ……尖人(せんじん)様の力か!?」


「いくら尖人様でも、大地を浮かせられるわけねぇだろ! ありゃきっと、天人(てんじん)様じゃ!」


「まさか天人様が、こんな所まで来てくださるだなんて! ああっ、ありがたや~!」


 誰もがひれ伏し、俺たちに向かって祈りを捧げはじめた。

 完全に、神様かなにかと勘違いしている。


「イエス! オー・マイ・ゴッド! これからはご主人様ではなく、ご主神様とお呼びいたします!」


 スズメもここぞとばかりに俺を崇めていた。

 まるで心までもを捧げるかのような、心酔しきった表情で。


 どうしたもんかと思っていると、俺の身体が光った。


--------------------------------------------------


 翼の愛 ♥♥♥♥


  浮遊魔法

   LV05 レイヴン

   LV04 ストライク

   LV03 チョッパー


 スカイランドの規模 天空の一軒家

  総人口 2人

  最高度 10メートル


  スカイランド

   LV04 ランドマーク

   LV03 ハウス

   LV02 テリトリー

   NEW! グローアップ


--------------------------------------------------


 今度は『浮遊魔法』と『スカイランド』の同時レベルアップか。

 増えた魔法はこんなだった。



 グローアップ

  スカイランド内の動植物を急速成長させることができる



 今までの魔法に比べるとわかりやすい効果なので、俺は少しホッとする。


「あっ!? あちらをご覧ください、ご主人様!」


 『天空の一軒家』の淵ギリギリで下を覗き込んでいたスズメが、何かを指さしている。

 スズメの隣まで行ってみると、眼下では、ひとりの少女がただならぬ様子で祈っていた。


「お、お願いします! お願いしますだ神様! どうかオラをお助けくだせぇ!

 無念のまま死んでいった、おっ(とう)の願いを叶えてくだせぇ!」


 スズメが俺の足元にすがりつくてくる。


「お願いします、ご主人様! あの子の願いを叶えてあげてください!」


「いや、俺は別に神様じゃないんだが……」


「そんな! ここまでのことをしておいて神様じゃないだなんて!

 降っておきながら積もらない雪とおんなじです! 隠し部屋にありながらカラッポの宝箱とおんなじです!」


「……なんだかよくわからんが……」


 しつこいスズメに根負けして、俺は少女の近くで『天空の一軒家』を降下させる。


 ……ズ、ズゥゥーーーン!


 着陸の振動に少女は腰を抜かし、目をパチクリさせていた。


「ほ、本当に、神様と天使様が、降りてきてくださっただ……!」


 少女はボロボロの麦わら帽子に三つ編みで、赤ら顔という純朴な顔立ち。

 さっそくスズメが親しげに近寄っていく。


「イエス、初めまして! こちらは、神様お悩み相談所です!

 わたくしは神様の助手のスズメと申します!

 こちらは開所の記念品となります、どうぞ!

 それでは、お名前と、ご用件をお聞かせください!」


 少女は、ポカンとした表情でリンゴを受け取りながら、「オラ、コメッコだ……」と名乗る。

 妙に事務的なスズメによって、コメッコは悩みを打ち明けた。


「オラのご先祖様は昔、ここで畑を耕して暮らしていただ。

 黄金色の草や、緑色の草が一面に広がって、それはそれは美しい景色だったそうだ」


 『黄金の草』……稲穂か麦穂のことだろうな。


「でも、おっ父のおっ父、そのまたおっ父の代で、草がぜんぜん育たなくなったそうだ。

 オラのおっ父も、なんとかして畑を作ろうとしてがんばっていただ、でも、ぜんぜん生えてこなくて……」


 その理由はすぐにわかった。

 『ハイランド・タワー』が建設され、空を覆うように天井の大地が作られたおかげで、陽が差さなくなったからだ。


 そしてこの地獄には学校など無いので、日光がないと植物が育たないことを知らない者が大勢いる。

 かくいう俺もユニバーに拾われ、尖人(せんじん)として学校に行くまでは知らなかった。


 コメッコは半泣きで、地面に頭をこすりつけていた。


「神様、お願いだ! どうか神様の力で、草を生やしてほしいだ!

 オラのおっ父はそれができなくて、無念のまま死んでいっただ!」


「……種はあるか?」


 それだけ尋ねると、コメッコは慌てて腰から提げていた麻袋を俺に差し出す。

 中を開いてみると、いろんな種が入っていた。


「生ゴミをあさって、コツコツ集めたものだ!」


 俺は種の中から、とある種だけを選別。

 石の家の隣にある空間に、その種をバッとばら撒いた。


 そして手をかざして、念じる。


「グローアップ! 育て!」


 すると一拍ほどの間を置いた後、


 ……ぐもももももももも……!


 早送りするような勢いで、発芽した芽がするすると伸びていき、あっという間に小さな緑の草むらとなった。


「えっ……ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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