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05 リンゴ食べ放題

05 リンゴ食べ放題


 俺の腹部の傷は、スズメが跪いて手をかざしたことで、一瞬にして塞がった。

 というか傷跡も残っておらず、それどころか服の穴も塞がって、血の染みもすっかり消えている。


 まるで、時間を逆戻ししたみたいだった。

 俺は驚嘆の声をあげる。


「これはもしかして、『天の癒し』……?」


「イエス、ご主人様! わたくしの『100大ひみつ』のうちのひとつです!」


 スズメは得意気な表情とともに、エッヘンと胸を反らしている。


「しかし、ナチュラルにご主人様呼びに変わったな」


「イエス! 当然であります!

 ご主人様がわたくしをお捨てにならなかった以上、わたくしの(あるじ)はご主人様に決定しました!

 そしていちど拾ったが最後、途中で捨てたとしても、呪いの人形のように何度でも戻ってまいりますからね!」


 スズメが意気込みを語っている最中、俺の身体がまたしても光りはじめる。


「おっ、またレベルアップか」


 魔法というのは特定の要因でレベルアップする。

 ソレイユの『太陽魔法』は、より太陽を浴びることによりレベルアップするらしい。


 だからハイランダー家は『ハイランド・タワー』を増築し、より太陽に近づこうとしているんだ。


 俺は『浮遊魔法』を得て6年になるが、なにをすればレベルアップするのか、今までずっとわからずにいた。

 それなのに、今日だけで2もレベルアップしてしまうなんて……。


--------------------------------------------------


 翼の愛 ♥♥


  浮遊魔法

   LV03 レイヴン

   LV02 ストライク

   NEW! チョッパー


--------------------------------------------------


 『翼の愛』のハートがふたつに増えている。

 やっぱり俺は、有翼人種に好かれることによりレベルアップするようだ。


 新しく覚えた魔法の効果はというと……。



 チョッパー

  レイヴンに、物体を分離できる性能を追加する



 ……分離? どういうことなんだろうか?


 しかしじっくり考えているヒマはなかった。

 背後にそびえる『ハイランド・タワー』の門の奥から、怒号が聞こえてきたから。


「ソレイユ様からのご命令だ! なんとしてもスズメを捕まえるんだ! スカイは殺してもかまわん!」


 どうやら、早いところここから逃げたほうが良さそうだ。

 俺はあたりを見回し、近くにあった巨大な鉄の山に向かって手をかざす。


「チョッパー! 離れよ!」


 すると鉄の山はメキメキと音をたて、一部が引きちぎれた。

 岩のような大きさの鉄塊が新たにできあがったので、『レイヴン』の魔法で門の前に移動させる。


 それを何度か繰り返し、鉄塊の山で門を空開かないように塞ぐ。

 門の向こうから、困惑の叫びがおこった。


「な、なんだ!? 門が開かない!? どうなってんだ!?」


「門の向こうになにか物が置いてあって、塞がってるみたいだ!」


「かまわん、力ずくで開けるんだ! ぬぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」


 しかし門はびくともしない。

 スズメは極上のショーを観たかのように、両手をパチパチ、翼をパタパタさせて大はしゃぎしている。


「すごいすごい、すごいです! 大勢の兵士さんを、こんな形で足止めするだなんて!

 魔法のすごさもさることながら、こんな使い方を思いつくだなんて、ご主人様は天才すぎます!」


「そんなことより、今のうちに逃げるぞ。塔から離れれば、兵士たちも追ってこないはずだ」


「イエス、かしこまりました! わたくしは、どこまでもついてまいります!

 あの、迷子にならないように、手を繋いでもよろしいでしょうか!?」


 俺が「好きにしろ」と言うと、スズメは俺の手を両手で握りしめる。

 そして幼子のように「えへへ……」と照れ笑いした。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 『ハイランド・タワー』の周辺は、塔から出たゴミが海原のように広がっていた。

 俺たちはゴミの山をぬって、姿をくらますようにひたすら歩く。


 しばらく進んだところで、空にぽっかりと穴が開いている場所に出た。

 差し込む光の下には、この『地獄』の住人である『屑人(くずびと)』たちが集まっている。


 彼らは、蜘蛛の糸が垂れてくるのを待つ亡者のように、天に向かって祈っていた。


 上空の穴の縁には、リンゴの木がぐるりと植えてある。

 身なりのいい父っちゃん坊やが、見せびらかすようにリンゴをかじっていた。


「ああ、おいしいップ! おいしいップぅ!

 下界のゴミどもを見下ろしながら、食べるリンゴは最高ップなぁ!

 ほら、欲しいップかお前たち! ならもっと僕を崇めるップ!」


 『地獄』では陽が差さないので、ほとんどの植物が育たない。

 そのため地獄の住人たちが穀物や果物を口にするためには、塔から出た生ゴミを漁るか、上層の尖人(せんじん)たちに恵んでもらうほかない。


 尖人たちはそれをいいことに、ああやって見せびらかしながら食べるんだ。


 父っちゃん坊やは芯だけになったリンゴを、ポイと投げ捨てる。

 奪い合いを始める亡者たちを眺めながら、腹を抱えて笑っていた。


「ウプププププププ! いいぞ、もっとやれップ! リンゴの芯ひとつで殺し合うップ!」


 父っちゃん坊やはふと、俺たちの存在に気付く。

 俺には目もくれておらず、スズメに釘付け。


「かっ、かわいいップ……! まるで、天使みたいップ……! あんなかわいい子が、屑人にいるップなんて……!

 そ、そこの子、こっちへ来るップ! そして僕に跪くップ! そしたら特別に、芯じゃないリンゴをあげるップ!」


 スズメのお腹はきゅうと鳴っていた。

 きっと空腹なのだろうが、彼女はキッパリと言い放つ。


「ノーッ! あなた様に跪くことはできません! たとえ、禁断の果実を頂けるとしても!

 なぜならば、スズメが跪くのはこの世でただひとり、ご主人様だけだからですっ!」


 スズメは言うが早いが「ははーっ!」と俺にひれ伏す。

 父っちゃん坊やは地団駄を踏んでいた。


「ぷぅーっ! 僕は神様ップ! それなのに、そんなゴミみたいな男に跪くップとは!

 ならそこで、指を咥えて見ているがいいップ! あーうまい! リンゴはうまいップ!」


 ことさら見せびらかすように、リンゴを食べ始める父っちゃん坊や。

 スズメは「ぐぬぬ……!」となっていた。


 「食べたいか?」と俺が尋ねると、スズメは口の端からひとすじの雫をタラリと垂らす。

 ようはただのヨダレなのだが、スズメにかかると雪解け水のように美しかった。


「イエス! ……い、いえ、ノーです!

 ご主人様以外の方に媚びを売るくらいなら、わたくしは飢え死にを選びます!」


 真珠のような雫をアゴの下からポタポタ垂らしながら、歯を食いしばるスズメ。


「そのガマン強さに免じて、リンゴ食べ放題といくか」


 「えっ?」となるスズメをよそに、俺は天に向かって手をかざす。


「チョッパー! 離れよ!」


 すると父っちゃん坊やのまわりにあったリンゴの木々が、突風に吹かれたようにざわめきだす。

 次の瞬間、


 ……ブチブチブチィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!


 枝からもぎ取られたリンゴたちが、熱帯魚の群れのように宙を舞う。


「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 いくつもの絶叫が響くなか、リンゴの群れは俺の足元まで飛んできて、ゴロゴロと積み上がる。

 俺は、山の向こうで唖然としている亡者たちに手招きした。


「ちょっと、採りすぎちまった。俺たちふたりじゃ食べきれないから、お前たちもどうだ?」

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