04 天の癒し
04 天の癒し
『き……きまったぁぁぁぁぁ~~~~~っ!
「ハイランド魔法学園」の生徒会長を決める、魔法大会!
その栄えある優勝者は、ソレイユ・ハイランダーくんに決まりましたぁぁぁぁ~~~~~っ!』
『いやあ、包帯に車椅子という大きなハンデを背負いながらの参戦で、一時はどうなることかと思いましたが……。
フタを開けてみたら、連戦連勝! 圧倒的すぎる力を見せつけてくれました!
さすがはソレイユくん! かっこいぃぃぃぃ~~~~っ!』
スカイを処刑したあと、魔法大会は何事もなかったように再開された。
その内容は茶番極まりないものだったが、誰もが疑いもせずにソレイユに最大限の賞賛を送っている。
ユニバーも、予定どおりに事が運んで満足そうだった。
『それでは優勝賞品の授与とまいりましよう!
あ、でも、有翼人の奴隷がまだ到着していないようです!』
優勝の玉座に座っていたソレイユが怒鳴り散らす。
「さんっ!? どういうことだ!? スズメは我の優勝までに、この大会会場に運び込まれる手筈となっていたであろう!?」
すると、賞品配送を仰せつかっていた、奴隷商のシュバクが肩をすくめながらやって来た。
「あの、ソレイユさま。その、非常に申し上げにくいんでシュが……。
運んでいる途中に、奪われてしまったんでシュ……」
「奪われただと!? ウソをつくな!
この塔で我のものを盗む命知らずなど、いるわけがないだろう!」
「そ、それが……スカイのヤツが……!
スカイのヤツが、嫌がるスズメを、無理やりに連れ去っていったのでシュ……!」
シュバクはウソをついた。
正確にはスズメに逃げられたのだが、それがバレてしまうと自分の責任になってしまうと思ったからだ。
「なにぃ!? スカイは処刑されていたのだぞ!?
塔から突き落とされている者が、どうやってスズメをさらうのだ!?」
「えっ? あ、そ、それはその……。
スカイのヤツは落ちながらも、器用に馬車の檻を開けて、スズメを引きずりだしたのでシュ!」
そこに、処刑担当のモーゴンが、肩をいからせやって来る。
「スカイは昔から、他人の足を引っ張るのが得意だったゴン!
俺の処刑も、何度も邪魔されたことがあるゴン!
きっと自分ひとりで死ぬのが嫌で、巻き添えが欲しかったんだゴン!
ヤツらしい、実に醜い最後だゴン!」
間髪入れず、モーゴンの部下である兵士が息を切らして飛び込んできた。
「た、大変です! モーゴン様! スカイは生きているようです!」
「バカなことを言うなゴン。この高さから落ちて助かる人間など、いるわけがないゴン!」
「本当なんです! 魔導監視装置にスカイの姿が映っていたと、報告がありました!」
それまで事の成り行きを見守っていたユニバーが、「なんじゃと!?」と口を挟む。
「魔導監視装置の映像を、コロシアムの水晶板に投影するんじゃ!」
ユニバーがそう命じて数分後、コロシアムの巨大な水晶板に、『地獄』の様子が映し出される。
そこにはたしかに、スカイが立っていた。
スズメを傍らに抱き、周囲にはゴロツキどもが転げ回っている。
観客たちはざわめいた。
「な……なんでだ!? なんで生きてるんだ!?」
「『地獄追放』で生きていた人間なんて、いままでひとりもいなかったのに……!?」
「もしかして、あの有翼人種が飛んだんじゃないのか!?」
しかしその仮説は、シュバクによってすぐに覆された。
「いや、スズメの翼を見るでシュ! スズメの翼は『白』、すなわち穢れの翼なんでシュ!
穢れの翼を持つ有翼人は、空を飛べないんでシュ!
だからスズメは有翼人なのに捨てられ、奴隷落ちしたんでシュ!」
ユニバーが歯噛みをした。
「そんなことは今、どうでもよいわ!
そんなことよりも、有翼人の奴隷を持つことは、尖人が天人になるための、条件のひとつ……!
早くスカイの手から、あの奴隷を取り戻すのじゃ!」
その叫びに呼応するかのように、水晶板の向こうでは新たなる展開が起る。
塔の門が開き、兵士たちがばらばらと飛び出し、スカイを取り囲んでいた。
しかしスカイはゴロツキどもを撃退したときのように、岩とガラクタの嵐を持って兵士たちを瞬殺。
スカイのまわりでのたうち回る者たちが2倍、そして3倍4倍に増えていった。
ソレイユは激昂する。
「惨っ! ぐぬぬぬっ、あんなゴミひとつになにを手こずっておる!」
しかし処刑人モーゴンはわらう。
「ゴフフフフフ……! 落ち着いてください、ソレイユ様!
こんなこともあろうかと、ちゃんと仕掛けをしておいたゴン!
処刑のときに毒を塗ったヤリで、スカイの脇腹を突いておいたゴン!」
「さんっ!? おおっ、シュバクよ! それはまことか!?」
「左様でございますゴン! 毒は地獄では解毒不可能!
しかも、じわじと苦ませて死に至らしめる毒なんだゴン!
もうじき、効いてくる頃なんだゴン!」
「賛っ! ふははははははは! でかしたぞ、シュバクよ!
突き落として一瞬であの世に行かせるより、よほど愉快ではないか!
それではスカイのヤツが死にゆく様を、ここでじっくりと見物させてもらうとしよう!
そうだ! せっかくの余興をより楽しむために、声も聴こえるようにしろ!」
コロシアムの水晶板に、その場に居合わせた者たちすべての視線が集中する。
ユニバー、ソレイユ、シュバク、モーゴンはもちろんのこと、兵士たちや観客までもが固唾を飲んで見守っていた。
すると、水晶板の向こうから鈴音のような声がする。
『あっ、スカイ様!? お腹をどうされたのですか!?』
『ああ、処刑されるときに、ヤリで突かれたんだ』
『ということはこれは、スカイ汁!? 大変です! 天変地異の一大事です!』
『スカイ汁っていうな。まぁ、たいしたことないさ』
「ふははははははは! バカな奴め! 毒が身体に回っているとも知らずに!」
ソレイユが笑うと、観衆からもどっと笑いが起る。
誰もが期待していた。
今にもスカイが、殺虫剤を掛けられたゴキブリのようにひっくり返る姿を。
そして周囲で転げ回っているザコたちなど比べものにならないほどに、もがき苦しむことを。
「さぁ、刮目せよ! 我がハイランダー家に逆らった者の、末路をっ……!」
しかし次の瞬間、スカイの傍らにスズメが跪くと、
……パァァァッ……!
白く清廉な光が、ふたりを包む。
ソレイユは驚愕のあまり玉座から転げ落ち、四つ足でワナワナと見上げていた。
「さ……さんっ!? あ……あれは……!?
一部の有翼人だけが使えるという、『天の癒し』っ!?
な……なぜっ、スズメのような奴隷がっ……!?」