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03 地獄に咲いた愛

03 地獄に咲いた愛


 俺と少女は、無傷でゴミの山を踏みしめていた。

 俺は信じられない気持ちで、塔を空を見上げる。


 遥か上空には、俺が突き落とされた処刑台が、米粒のようにポツンと見えた。


「あの高さから落ちて、助かるとは……」


 と、見上げていた空が、まるでフタでもされるかのように天井で覆われていく。

 差し込んでいた太陽が遮られ、あたりはあっという間に薄暗くなった。


 塔の各階層には板状になった大地が広がっていて、層のように連なっている。

 『地獄追放』の刑罰のときだけ、一時的に大地がなくなる仕組みになっているんだ。


 その構造のため、塔は下層にいくほど日が差さなくなる。

 大地にはところどころ明かり取りの穴が空いているだが、最下層の地上ともなると、わずかな隙間から薄明かりが差し込むのみ。


 俺は生まれてユニバーに拾われるまでは、この日の当たらない『地獄』で育ってきた。

 ようは生まれ故郷に帰ってきたことになるのだが、今の俺は懐かしむ気持ちがこれっぽっちもない。


「俺の『浮遊魔法』であるレイヴンは、俺の体重以下のものしか浮かせられないはずなのに、なぜ……?」


 俺は謎の力で助かったことのほうが気になっていて、魔法ウインドウを開いてみた。

 『魔法ウインドウ』というのは、現在使える魔法の一覧が確認できる窓のようなものだ。


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 翼の愛 ♥


  浮遊魔法

   LV02 レイヴン

   NEW! ストライク


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 『翼の愛』という、今までに無かった項目が増えている。

 そして万年レベル1だったレイヴンのレベルが上がっており、新しい魔法も増えていた。


 俺はふたつの魔法の効果を確かめてみる。



 レイヴン

  最大で『自分の体重×レベル』の物体を、宙に浮かせることができる


 ストライク

  レイヴンで浮かせたものを、最大で『時速100キロ×レベル』の速さで飛ばすことができる



 俺はすぐに察した。


「……そうか、着地前に俺が見たのは、レベルアップの光だったのか。

 レイヴンのレベルが2にあがったことで、俺は、俺ふたり分の物体を浮かせられるようになったんだ」


 そこで俺は、俺の腕に抱かれている少女に視線を落とす。

 小柄の少女は俺の胸に顔を埋め、寒さに震える小鳥のように身を縮こませていた。


 ふと彼女の背中にある、白い翼が目に入る。


「『翼の愛』って、もしかして……」


 すると、少女はおそるおそる顔を上げ、上目遣いで俺を見た。

 深い海のように澄んだ瞳に俺の顔が映り、俺の胸はドキリと高鳴る。


 飛び降りていたときは気付かなかったが、とんでもない美少女だ。

 天使の輪を戴く艶やかな黒髪に、純白の翼とドレスをまとい、それはさながら天使と見まごうほど。


 俺は動揺を悟られないように尋ねる。


「お前、名前は?」


「い……イエス、スカイ様! スズメと申します!

 わたくしのことはどうか、『俺の嫁』もしくは『マイワイフ』とお呼びください!」


 朝の窓辺にやってきた小鳥のような、可愛らしくも爽やかな声

 しかし発した言葉の内容は、なんだか残念だった。


「どうして俺の名前を知ってるんだ?」


「わたくしは幼い頃から、なんどかハイランダー家に連れて行かれたことがあるのです!

 わたくしは大きくなったら、ソレイユ様の奴隷になるのだと言われていました!」


 それで俺は、魔法大会の優勝賞品が『有翼人の奴隷』だったことを思い出す。


「なるほど、賞品になるのが嫌で逃げてたってわけか」


 スズメは「いいえ!」と前髪を左右に振り乱すほどに、大きく首を左右に振る。


「賞品になるのが嫌なのではなくて、ソレイユ様にお仕えするのが嫌だったのです!

 ソレイユ様の奴隷になるくらいであれば、毒マムシと暮らすほうがまだマシです!」


「ソレイユ、えらい嫌われようだな」


「でもスカイ様は、わたくしがソレイユ様にいじめられているとき、なんども助けてくださいました!

 ですので、わたくしはスカイ様にお仕えしたかったのです! 夢見るほどに!」


「う~ん、ハイランダー家には多くの奴隷がいたし、ソレイユはしょっちゅう誰かをいじめてたから……。

 正直、よく覚えてないな」


「げへへへへへへ……!」


 不意に下卑た笑い声が割り込んできたかと思うと、ゴミの物陰から薄汚れた男たちが次々と飛び出してきた。

 男たちは俺とスズメを取り囲み、品定めするようにジロジロとねめつける。


「『天のお恵み』かと思ったら、追放された尖人(せんじん)だったか!」


 『天のお恵み』というのは、塔から捨てられるゴミのことだ。

 塔で暮らしている者にとってはゴミでも、地獄の住人にとっては宝となる。


「アテが外れちまったが……この兄ちゃん、いい服着てるじゃねぇか!

 追放されたヤツは服ごとミンチになっちまうから、野良犬のエサくらいにしか使い道がねぇってのに!」


「それにこっちの有翼人を見ろよ! すげえいい女だぜ! 売れば相当な金になりそうだ!」


「その前に、俺たちで味見といこうぜぇ!」


「おい兄ちゃん! その女をこっちによこしな!

 痛い目に遭いたくはねぇだろぉ? だったら服をぜんぶ脱いで、とっとと消えちまいな!

 こちとら、男の服をひっぺがす趣味はねぇからなぁ! げひひひひひひ……!」


 舌なめずりをしながら、にじり寄ってくるゴロツキども。

 スズメは俺にギュッとしがみつき、イヤイヤをしていた。


「お願いします、スカイ様! わたくしを捨てないでください!

 どうかわたくしを、スカイ様のおそばに置いてください!」


 俺は天使の輪を撫でた。


「安心しろ、スズメ。こんなヤツらは朝メシ前だ。

 いや、今の俺にとっちゃ、二度寝の最中でも負けないかもな」


「なんだと、テメェっ!」


「女の前だからって、カッコつけやがって!」


「かまわねぇ、ギタギタにしちまえっ!」


 ゴロツキどもは俺に挑みかかってこようとしたが、ビクリとその動きが止まる。

 俺の背後に浮かんでいるモノに、ようやく気付いたようだ。


「なっ、なんだ、アレ!?」


「岩やガラクタが、浮き上がってる!?」


「まっ、まさかこの男、魔法使いか!?」


 気圧されるゴロツキどもに対し、俺はあいている片手をゆっくりと掲げる。


「さっきまでの威勢はどうした? 急に虚勢されたか。

 本当に大事なものを無くしちまう前に、ママの所に帰ったほうがいいんじゃないのか?」


「しゃ……しゃらくせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 蛮勇を振りかざして向かってくるゴロツキたちに、俺はサッと手を振り下ろす。


「ストライクっ……!」


 ……どしゅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!


 俺の背後で浮かんでいた岩やガラクタが、一斉に降り注ぐ。

 彼らの頭ほどもあるカタマリは、彼らの股間にストライクな一撃を叩き込んだ。


「うっ……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ゴロツキどもは悲鳴をあげながら、前のめりに倒れる。

 そのまま、股間を押えて悶絶しはじめた。

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