12 地獄を脱出
12 地獄を脱出
高高度から落下したデブカツが地面に激突した瞬間、渇いた大地が爆発した。
衝撃でひっくり返る兵士たち、コメッコが住んでいた瓦礫の家がどっしゃんと崩れる。
噴煙のようにもうもうとあがっていた土煙が晴れると、そこには汚い大の字を描いたのような、大穴が開いていた。
覗き込むと、穴の底ではうつ伏せのデブカツが埋まっている。
兵士たちは恐れおののく。
「う、ウソだろ……!?」
「『ハイランド魔法学校』きってのデカブツといわれた『豪腕のデブカツ』様が……!」
「まるで毛糸玉みたいに、あっさり持ち上げられるだなんて……!?」
「うわぁぁぁぁっ! バケモンだ! 俺たちでかなう相手じゃねぇ! 逃げろっ!」
「でも、デブカツ様はどうするんだよ!?」
「ほっとけ! 俺たちは今までコイツに、さんざん遊び半分で投げ飛ばされてきたんだ!」
「俺なんか、骨折が治るたびに投げられてた!」
「そう考えると、いい気味なような……」
顔を見合わせあっていた兵士たちは、俺と目が合った途端にハッとなる。
「にっ……逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
大将のはずのデブカツをあっさり見捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
入れ替わりで、俺のまわりにスカイランドの住人たちが集まってくる。
「や……やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「イエス! すごいすごい、すごいですぅぅぅぅーーーーーーっ!」
「一時はどうなるかと思っただ! でもあんなに強そうなのを、簡単にやっつけるだなんて!」
「おやさしいだけでなく、強いだなんて……! スカイ様は最高だぁ!」
俺はみなを引きつれてスカイランドの敷地内に入ると、改めて告げた。
「たいしたことじゃない。そんなことよりも、すぐに出発するぞ。
デブカツがやられたことがわかったら、きっとさらなる刺客が差し向けられるだろうからな」
そして力を溜めるように、両手を地面に向ける。
「レイヴン! 浮け……!」
ゆったりとした浮遊感が、足元から沸き起こった。
その不思議な感覚に「おおっ……!?」と驚嘆の声が生まれる。
「ほ、ホントに地面が浮いてる……!?」
「空を飛ぶって、こんな感じなんだ……!?」
「す……すごいだ! すごすぎるだ! 夢みたいだぁーーーーっ!?」
住人たちは浮島の上で大騒ぎ。
スカイランドの先住民であったスズメは、我が事のように得意気にしている。
「イエス! どうですか、ご主人様の力は!?
これに懲りたら、ご主人様に絶対服従を誓うのです! いいですね!?」
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!」
スズメを中心にして、なんだか妙な連帯感が形成されつつあった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
浮島であるスカイランドの制御は、島の中央にあるランドマークのクリスタルで行なうことができた。
俺がクリスタルに触れると、表面に『魔法ウインドウ』に近いものが出現する。
それは魔導装置の操作パネルのようなデザインで、進む方角、高度、速度を制御できた。
「なんだか面白そうですね! わたくしにもやらせてください!」
とスズメがいじりたがったが、俺以外の人間は操作できないようだった。
「ノーッ、そんなぁ……。せめてスカイランドの御者としてお役に立ちたかったのに……」
「できないものはしょうがないさ。そんなことより、第1層まであがるぞ」
「第1層というと、今わたくしたちがいる、ひとつ上の大地ですよね?
でも、これ以上は上がれないみたいですが……」
スズメは数メートルほど上にある、土の天井を指さす。
「そう。だから今は、上がれる場所を目指して進んでる。ほら、見えてきたぞ」
「あっ、あそこは、リンゴをくださったお坊ちゃんがいた穴ですね!」
「そうだ。この『地獄』のところどころには、ああやって穴が開けられているんだ。
尖人たちが屑人たちを、動物園の動物のように見下ろすためにな。
しかしこれからは、俺たちがヤツらを見下ろすんだ」
「うわぁ、立場大逆転というわけですね! なんだか楽しみです!」
俺は穴の真下まで来ると、ランドマーククリスタルを操作して、スカイランドを垂直上昇させた。
穴の縁のあたりから、金切り声が降ってくる。
「みんな、武器は持ったかップ!? これからスカイ狩りに、地獄に降りるップ!
ソレイユ様の『ソレイユ・アップル』を盗んだ罪を、なんとしても償わせるップ!
でないとこの僕は、パパから勘当されてしまうップ!
生死は問わずとソレイユ様からお墨付きをいただいてるップ! だから遠慮なくブッ殺してやるップ!」
穴の縁で背を向け、武装した農夫たちに向かって檄を飛ばす父っちゃん坊や。
「火矢の準備はできてるップか!? 『地獄』はゴミ溜めだから、きっとよく燃えるップ!
あたりを火の海すれば、スカイもひとたまりもないップ!
屑人がいっしょになって焼け死んでも、気にすることはないップ!
むしろゴミが焼却できたと、ソレイユ様から褒めてもらえるップ!」
整列していた農夫たちは、穴からせりあがってくる浮島を目撃した途端、口をあんぐりさせていた。
「みんな、なにボーッとししてるップ!? 返事はどうしたップ!?」
「く……クアップ坊ちゃん! う、うしろっ……!?」
「うしろ? うしろがどうかしたップ?」
振り返ったクアップ坊ちゃんと、俺の目線の高さがちょうど合って、バッチリ視線がぶつかった。
「よう坊ちゃん、遠足か?」
声をかけたが、クアップからの返事はない。
魂を抜かれたように、真っ白になって立ち尽くしている。
やがて、俺がクアップを見下ろすほどに高度の差がついてようやく、
「うっ……浮いてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
クアップは白豚のような顔を両手で押しつぶしながら絶叫していた。




