10 天空の大家族
10 天空の大家族
ソレイユは生徒会長就任のパーティの主賓であるにも関わらず、会場を早々に抜け出す。
『ハイランド・タワー』内にある、『ハイランド魔法学園』の生徒会長室にある、革張りの椅子に身を沈めていた。
書斎机の上で手を組み、苛立ったように眉根を寄せている。
――この栄えある椅子に座れば、少しは落ち着くかと思ったが……。
心はなおのこと、かき乱されるばかりだ……!
これもなにもかも、スカイのせいだ……!
まさか彼奴に、あのような隠された力があったとは……!
いま、ユニバー様の気持ちは、昔のようにスカイに戻りつつある……!
それを証拠に、ゴミ呼ばわりしていたはずのスカイを、名前で呼ぶようになっている……!
『地獄追放』などではなく、その場で処刑しておけば、こんなことには……!
くそっ! スカイを絶対に、この塔に戻してなるものか!
魔導放送で地獄の者たちに、スカイは悪魔であると知らしめたものの……。
それだけでは、まだまだ手ぬるい!
さらに別の手を打って、ユニバーの配下が捕まえるより早く、スカイを処分せねば……!
ゴミは、ゴミ捨て場で朽ちるべきなのだ……!
ドン、ドン! と乱暴なノックが重厚な扉を揺らす。
ソレイユが「入れ!」と応じると扉がバンと開く。
そこには、部屋に入りきれないほどの大男が立っていた。
「……デブカツか、どうした?」
「ソレイユ様! どうかこの『豪腕のデブカツ』と呼ばれた俺っちに、スカイの野郎をブッ殺させてくれ!
島を浮かせたのは、インチキに決まってる! アイツに、あんな重いものを浮かせる力はねぇカツ!
アイツをお手玉にしてたこの俺っちが、いちばんよく知ってるカツ!
弱っちいクセにデカいツラしてるのが、許せねぇカツ!」
組んだ手の向こうにあるソレイユの顔が、いやらしく歪む。
――そうだ……! 我が校の者たちであれば、我の配下にある……!
将来はそのまま我が家臣になる予定の、手練れの者たちばかり……!
そして配下どもがスカイを殺したとしても、スカイ憎さに勝手に動いたことにすれば……!
ユニバーからの責めを、我だけはかわすことができる……!
「……よし、デブカツ! お前にスカイ討伐を命じよう! 生徒会の兵の使用も許可する!
必ずや、スカイを亡きものとするのだ!
首尾よくいった暁には、お前を右腕としてやろう……!」
――もちろん我が右腕ではなく、ゴミとして捨てられる、傀儡の右腕として、な……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は、鼻息を荒くするコメッコを諭していた。
「……本当にいいのか?
『ハイランド・タワー』からあんな放送があった以上、地獄の住人たちは全員、俺の敵となったも同然だ。
俺といっしょにいると、ただではすまないだろう。最悪、命を落とすことも……」
「そんなのへっちゃらだ!
草も生えない所で無念のまま死んでいくくらいなら、神様の元で、少しでも草を生やして死にたいだ!」
「イエス! よくぞおっしゃいました、コメッコさん! ふたりで草を生やしましょう!」
スズメが焚きつけるせいで、俺の説得はほとんど意味をなさない。
それに、魔法ウインドウを確認してみたら、スカイランドの人口が『3人』になっていた。
「やれやれ、ひもじい思いをするかもしれんが、文句を言うんじゃないぞ」
俺があきらめたように言うと、スズメとコメッコは「やったー!」と抱き合う。
もはや姉妹以上の仲良しっぷりだが、俺には一緒になって喜ぶだけの余裕もない。
なぜならば、これから現れるであろう追っ手を、なんとかする方法を考えねばならないからだ。
俺はなんとでも変装できるが、スズメの翼はあまりにも目立ちすぎる。
それに俺の居場所は、『ハイランド魔法学校』にある監視室にかかれば、1時間も掛からずに割り出すことができるだろう。
ユニバーとソレイユがその気になれば、兵士を遣わすことだってできる。
地獄の住人だけでなく、兵士からも逃れられる場所なんて、あるわけが……。
「いや、ひとつだけあるな」
それは、空。
『スカイランド』であれば、追っ手の手も届かない。
しかしスカイランドは現状、10メートルの高さまでしか上がることができない。
弓矢や魔法の格好の餌食となるだろう。
「せめてもう10メートル上昇することができれば、天井を抜けて、地獄から『第1層』にあがれるんだが……」
『第1層』というのは、地獄の天井の上に広がる地上のことだ。
リンゴを見せびらかす、父っちゃん坊やがいた層でもある。
第1層にあがっても兵士は追ってくるだろうが、地獄の住人たちの脅威は完全に消え去る。
無数ともいえる者たちから狙われなくなるだけで、だいぶ安全になるだろう。
「なんとかして、スカイランドの高度をあと10メートルアップさせるんだ。
おそらくスカイランドをレベルアップさせればいいんだろうが、なにか手っ取り早い方法は……」
その思考は、踏みにじるような足音で中断させられる。
……ズシャッ!
俺はいまコメッコの家にいたのだが、周囲に人の気配を感じた。
それもひとりではなく、大勢。
なおもキャアキャアと喜びあっているスズメとコメッコを残し、俺は家の外に出る。
調理に使っていた錆びた包丁を、武器がわりに握り締めて。
外には、錆びた鉄ヤリを構えた者たちがいる。
大勢で家を取り囲み、じりじりと包囲網を狭めていた。
彼らの顔には、見覚えがある。
父っちゃん坊やから奪ったリンゴを、分け与えた者たちだった。
俺は肩をすくめる。
「やれやれ、恩が仇になっちまったか」
……ジャキン! と一斉に切っ先が突きつけられた。
「答えろ! お前は悪魔なのか!?」
「おいおい、お前は自分の受けた恩よりも、あんな放送を信じるのか?」
ちょっとスズメのセリフをパクってみた。
しかし、切っ先はさらに迫ってくる。
「ソレイユ様のおっしゃることに、間違いはない!
それよりも、聞かれたことに答えろ! お前は悪魔なのか!?」
「その調子じゃ、言っても信じてもらえなさそうだが……。
俺は悪魔なんかじゃない。お前たちと同じ、ただの人間だ」
「ウソつけ! ただの人間が、島を浮かせられるわけがないだろう!」
彼らの目は充血している。
突きつけたヤリが、プルプルと震えていた。
俺はいよいよかと思い、覚悟を決める。
いざとなったら『浮遊魔法』で彼らのヤリを奪い、その勢いのまま突き立てる。
「罪のない人を傷付けるのは、気が進まないんだがなぁ……」
すると、彼らの手からぽろりとヤリがこぼれ、
……カランカラーーーーーンッ!
と地面を転がる。
次の瞬間、彼らは俺の視界から消え去る勢いで、土下座していた。
「かっ……かみさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「これだけの人数に囲まれてもなお、落ち着いてるだなんて……!
やっぱり、あんたは神さまだ!」
「実をいうと、俺たちはあんたを守るために、ここに来たんだ!」
「あなたがくれたリンゴのおかげで、僕たちはどれだけ救われたことか!」
「うちの寝たきりのばあちゃんは、ずっと病気に苦しんでただ!
でもリンゴを食べたとたん、これまで見たこともない笑顔で、安らかに……!」
「私たちはソレイユ様よりも、あなたを信じるわ!
だってソレイユ様は、私たちのことをゴミとしか思ってない!
でもあなたは私たちのことを、同じ人間として扱ってくれて、同じものを分け与えてくれた……!」
「お願いします! どうか、俺たちを連れてってくれ! かみさまっ! かみさまーっ!」
「……かみさまっ! かみさまっ! かみさまっ かみさまっ!」
沸き起こる『神様コール』。
いつの間にか外に出てきていたスズメとコメッコが、一緒になって手拍子している。
そして俺は、光に包まれた。
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翼の愛 ♥♥♥♥♥
浮遊魔法
LV06 レイヴン
LV05 ストライク
LV04 チョッパー
スカイランドの規模 天空の大家族
総人口 13人
最高度 20メートル
スカイランド
LV05 ランドマーク
LV04 ハウス
LV03 テリトリー
LV02 グローアップ
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