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01 空気の読めない大番狂わせ

01 空気の読めない大番狂わせ


「お前たちは今日から、我がハイランダー家の人間となった!

 『屑人(くずびと)』ではなく『尖人(せんじん)』となったのじゃ!

 お前たちを地獄から拾ってやった、わらわを神と崇め、ハイランダー家のためにその身を捧げるのじゃ!」


 『地獄』という名のゴミ捨て場で生まれた子供たち。

 彼らに与えられる、唯一のチャンス。


 それは『適正』であった。


 僕は魔法の適正があったたため、ハイランダー家の長であるユニバーに拾われた。

 そして、ゴミ溜めの上にそびえる『ハイランド・タワー』へと移り住む。


 僕は、拾ってくれたユニバーのために一生懸命勉強する。

 この後に開花する魔法の力を、最大限に高めるように努力したんだ。


「スカイよ、お前はみなし子ながらに見所がある!

 それに比べてソレイユときたら、正統なる血族にありながら、なんとふがいない……。

 スカイこそが、我がハイランダー家を背負って立つ者に違いない!」


 僕はユニバーに可愛がられていた。

 しかしそれも、10歳までのことだった。


 10歳の『適正開花の儀式』において、僕に与えられたのは『浮遊魔法』だったんだ。

 その瞬間から、ユニバーの態度は一変する。


「ふん、物を浮かせるだけの魔法とは……。

 やはりゴミ溜めに落ちていたのは、ゴミでしかないということじゃったな。

 それに比べてソレイユは、『太陽魔法』……!

 さすがは正統なる血族! 『天人(てんじん)』を目指す我ら一家に相応しい、素晴らしい魔法じゃ!」


 ユニバーは僕を隅の方へと押しのけながら、子供たちに言う。


「よいか! 生きざまと魔法は表裏一体!

 与えられた魔法に相応しい立ち振る舞いをしてこそ、魔法はさらに磨きがかかるのじゃ!

 光の魔法を与えられた者は、気高く生きよ! 炎の魔法を与えられた者は、熱く生きよ! 氷の魔法を与えられた者は、冷徹に生きよ!」


 僕は、ユニバーにすがった。


「ゆ……ユニバー様! この僕は、どのように生きていけばよいのですか!?」


「ふん、まだそんな所におったのか、お前はもう下働きじゃから、さっさと()ね。

 与えられた浮遊魔法で、荷物運びでもするんじゃな。

 スカイよ、お前はこれから一生、ふわふわと根無し草のように生きるのじゃ!」


 ……それから、6年の月日が流れた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 拡声魔法によって拡大された声が、場内に鳴り渡る。


『さぁ、「ハイランド魔法学園」の生徒会長を決める、魔法大会!

 この塔の指導者を決める戦いと言っても、過言ではないこの大会!

 しかも今回は優勝賞品として、世にも珍しい『有翼人の奴隷』が与えられます!

 賞品のほうは運搬途中でまだ届いておりませんが、届き次第お知らせしたいと思います!』


『それよりも、記念すべき第1戦は、もはや戦う前から勝負が決まっていると言ってもよさそうですね!

 優勝候補ナンバー1のソレイユくんに、かませ犬のスカイくん!

 太陽魔法と浮遊魔法となれば、もはや戦う意味すらもなさそうです!

 見てください、戦力差もすでに圧倒的です!』


 学園の生徒たちだけではく、王族や貴族たちが詰めかけたコロシアム。

 そのだだっ広い戦闘エリアの中央に、俺はいた。


 遠方には、白い鎧に身を包んだ兵士たちを従え、高台から将軍のように俺を見下ろすソレイユがいる。


『ソレイユくんの太陽軍、その総勢はなんと1000名!

 この魔法大会には、援軍や武装の制限はありませんが、1000名もの味方を集めるとは……!


『すごいですね! ソレイユくんのカリスマは、もはや国王クラスといっていいでしょう!

 それに対してスカイくんは、なんと、援軍ゼロ! この大会でも珍しい、ひとりぼっちの参戦です!

 よっぽど友達がいないんでしょうね!

 しかも丸腰で、試合開始前だというのにバナナを食べるとは! やる気もゼロなんでしょうか!?』


 ソレイユが高みから叫んだ。


(さん)っ! スカイよ! そうやって道化を演じて、手加減してもらおうという狙いなのだろう!

 貴様の浅はかで浅ましい考えなど、とっくの昔にお見通しなのだよ! ふははははははは!」


 舞台役者のような芝居がかかった高笑いに、観客席から「キャーッ! ソレイユさまーっ!」と黄色い歓声がおこる。

 俺はバナナの最後のひと口を頬張りながら答えた。


「そういうつもりじゃないんだがなぁ。ずっと雑用させられてたから、昼飯を食うヒマもなくってさ。

 ……ごっそさん、っと」


 皮だけになったバナナを、ポイと背後に投げ捨てる。

 ソレイユは手を高らかに挙げ、周囲の観客たちに向かって喧伝していた。


(さん)っ! みなの者、しかと目に焼きつけておくがいい!

 この我の『太陽魔法』で、愚かなるゴミが焼き尽くされるところを!

 そしてこの我こそが、この学園の生徒会長に相応しいことを!」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 と沸き立つ観客席。

 俺の応援をしてくれる者は、誰ひとりとしていないようだ。


「まあ、慣れっこだけどね、そんなのは」


 俺の独り言をかき消すように、試合開始の角笛が鳴り渡る。

 ソレイユの手下の兵士たちは、身体ほどもある大きな盾を構え、壁のように迫ってきた。


 ……ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!


 彼らが足並みを揃えるたびに、コロシアムが震撼する。

 ソレイユが勝利を確信したように笑った。


「ふははははははは! (さん)! (さん)! (さん)っ! 

 見よ、この光景を! 圧倒的ではないか!

我が軍勢の盾は、いかなる魔法をも遮断する!

 もっとも、スカイの『浮遊魔法』程度が相手なのであれば、過ぎたるものなのだがな!

 だが獅子というのは、1匹のネズミを狩るのにも全力をつくす!

 怖いか、スカイ! さぁ、命乞いをしろ! 我の前に跪け!

 そうすれば、命だけは助けてやらんこともないぞ!」


 しかし俺が無視して耳をほじっていたので、ソレイユはカッとなった。 

 ヤツの全身が、太陽のように輝く。


(さん)っ! 貴様っ! 強がるのもそのへんにしておけ! でないと本当に命を落とすぞ!

 我が力を見くびった者がどうなるか、思い知らせてやるっ!」


 ソレイユは、バッ! と手を天に突き上げ、呪文を詠唱。

 頭上の太陽から光が降り注ぎ、手のひらに集まっていく。


『出たぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ! ソレイユくんの必殺魔法「ソーラー・レイ」!

 ソレイユくんはあの魔法で、ゴミ溜めの愚民どもを一気に焼却し、環境大臣賞を受賞したこともあります!

 これはきっと、スカイくんをゴミ同然に焼き尽くすというメッセージなのでしょう!』


「スカイよ! 我は幼少の頃から、貴様のことが大嫌いだったのだ!

 (さん)っ! 消し飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!」


 ソレイユは片脚を振り上げ、手のひらの光球を押し出すように、大きく一歩前に踏み出そうとする。

 俺はその一瞬を逃さなかった。


「……レイヴンっ! 浮け……!」


 短い詠唱とともに、パチン! と指を鳴らす。


 途端、ソレイユの背後から忍び寄っていた、四つ足の黄色い物体が滑るように動き出す。

 俺の唯一の相棒であるソイツは、ソレイユの足の着地点に先回りしていた。


 足元がお留守だったソレイユは、その物体をまともに踏んづけてしまい、


 ぐにっ! 「さんっ!?」


 ……つるーーーーーーーーんっ!


「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 急転直下の悲鳴とともに、空中に奇麗な円を描きながら転倒。

 無防備な後頭部を、これでもかと堅い床に打ち付けていた。


 ……ごんっ!


 静まり帰った場内に、その音だけが響く。

 しばらくして、一緒になって宙に舞い上がっていた物体が、べちょりとソレイユの顔に落ちる。


 客席は総立ちとなった。


「ばっ……バナナの皮ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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