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第42話 文化祭前日

「おーい、暗幕足りないんだけどー」

「一階の倉庫に在庫あるから取りに行ってー」

「了解ー」


 気が付けば、あっという間に文化祭まであと一日。

 マイコン部でも展示のための準備中だ。


 力仕事は主に男子部員がやってくれている。

 私はといえば小説の最終仕上げだ。

 

涼子(りょうこ)先輩も精が出ますねー」


 パソコンのモニターに向かって、添削や文言の調整を行っていると横合いから声をかけてきた女子。後輩の北条結菜(ほうじょうゆな)だ。


「結菜はもう担当分の作業終わったの?」

「といっても先輩たち以外は作ったゲームとか展示するくらいですから」

「それもそうね」


 今年は私や善彦(よしひこ)が研究関係の寸劇をやるために暗幕やプロジェクターの準備など多少大がかりだ。


 ただ、例年は部員それぞれが作ったゲームやWebページ、パソコンに関連すぐ技術紹介をするだけなのでさほど準備は必要じゃない。


「結菜も意外ね。入学した時はプログラミングもあんまりできなかったのに……」


 彼女が今回展示するゲームは古典的なパズルゲームであるテトリスもどきだ。

 元々、テトリス自体は自作ゲームとしてはさほど作るのは難しくない。

 にしても、最初の結菜のプログラミングスキルは素人同然だったのに。


「さすがに先輩たちみたいな凄い人がいるから、少しは頑張ってみようかと……」


 少し照れたような後輩の表情はちょっぴり意外。

 最近までマイコン部に来ても適当に遊んでるような子だったのに。


「もし、これからもプログラミングやってみるなら教えてあげるけど?」

「なんだか少し恐れ多いですけど、よろしくお願いします」

「意外ね。そこまで評価されてたなんて」


 明るい子だけど、私たちに関しては色恋でしか興味がないとばかりに思っていた。


「なんだかんだ言って先輩たち、超高校生級じゃないですか。少しはコンプレックスあるんですよ」

「じゃあ、今度から一緒に頑張りましょう?」

「研究は無理ですけど、プログラミングのことはもう少しやってみたいです!」

「じゃあ約束ね」

「はい!ではまた後で」


 そう言って結菜はどこかに行ってしまった。


(ちょっと意外だったけど、悪くない気分ね)


 そんなことを考えながら小説の締めの一言を足す。


『俺たちの研究生活はこれからだ!(完)』


 さすがに不真面目過ぎるかも。

 

「いくらなんでもそのネタはどうなんだ」

「ちょっと。いきなり覗き込まないでよ!」

「別に草稿はチェックしたんだし、いいだろ」


 モニターを覗き込んで来たのは織田善彦(おだよしひこ)

 幼い頃からの友達で恋人で、研究のパートナーでもある。


「にしても、小説書いてるところ見られるのは恥ずかしいのよ」

「そういうもんかね。で、なんでそんなネタっぽい文を……」


 よくわからないとばかりに首をひねる善彦。


「ちょっと今の締め方だとイマイチに感じたのよね」


 研究をテーマにした短編ラブコメ小説。

 今回私が文化祭で展示するのはそんな代物だ。

 主人公の男の子とヒロインの女の子は幼馴染で家族のような仲。

 つかず離れずの距離で育った二人。

 二人は紆余曲折あって、研究者という道を目指すことになる。


 しかし、研究発表前日に二人は大喧嘩をしてしまう。

 その日の夜に家を飛び出したヒロインを主人公が追いかける。

 そして、思い出の公園でお互いに「ごめん」と謝って仲直り。

 当日の研究発表が小説の山場でヒロインが緊張しながらも初めての発表をこなす。

 何度もミスをするのだけど、そのたびに主人公から無言の声援が飛んでくる。

 そんな主人公に支えられて無事に質疑応答を終えたヒロイン。

 そして、二人は研究者として最初のステップを進む。

 ちょっとマニアックなラブコメ。


 ただ、短編なのでうまい締めが欲しかった。


 最初は、


「これからもアイツと一緒に研究の道を進めますように―そう祈った俺だった」


 そんな一文で締めたのだけど、どうにもしっくり来ない。

 だからギャグっぽい締めを入れてみたのだけど。


「そんな打ち切り小説みたいな終わり方はないだろ」

「文化祭の発表なんだから、クスっと笑えるくらいがよくない?」


 私なりにまじめに書いた小説だけど、ちょっとユーモアが足りない。

 せめて締めくらいクスっと笑えるものにしたかったのだけど―


「最後だけお笑いになっても仕方ないだろ。もっとラブコメっぽいのはどうだ?」

「何か案があるなら聞くけど」

「発表が終わった後のホテルで、二人っきりでキスをするシーン入れるとか」


 善彦の案を聞いて自然と渋い顔になっていた。

 初めての国際会議で告白されたことを思い出したせいだ。


「イチャイチャ系のラブコメだとありかもしれないけど……」


 少しの間、迷って、


国際会議(こくさいかいぎ)で告白してくれたとき、キスくらいしたかった?」


 気が付いたらそんなことを言ってしまっていた。

 私は何言ってるんだろう。

 今更、数か月前のことを思い出して気にしてしまうなんて。

 少し顔が熱い。


「あ、いやまあ。強いて言えば、多少は?」


 彼も思い出したのか少し照れ臭そうだ。


「やっぱり。あの時、なんか言いたそうだったし」


 別に私もキスまでなら別に良かったのに。


「キスしたいなーって思うくらいはいいだろ」

「あの時、キスまでなら別にOKだったのだけど」

「それは気づかなかったぞ」

「私も緊張してたから無理ないけどね」

「一世一代の舞台の後だしなあ」


 まだ一年も経ってないのに随分と懐かしい。

 開き直ってキスシーンくらい入れてもいいかもしれない。


「よし。善彦の案採用。キスシーン入れましょ」

「俺から提案しといてなんだけど、いいのか?」

「そっちの方がラブコメとしても盛り上がるでしょ?」


 そういうムードのあるシーンを挿入するのもいい。


「じゃ、最終稿楽しみにしてる。今夜には書きあがってるだろ?」

「そうね。あともうちょっとで出来そうだし」

「俺の方も準備に戻るわ。頑張れよ」

「うん。善彦もね。それと……大好きよ」


 周囲を見回して小声で彼の耳元に囁く。


「ちょ、なんだよいきなり。照れるだろ」

「文化祭前日だし、これくらいしてもいいでしょ」

「じゃあ、俺も終わった後にはお返し用意しとくから」

「別にそんなのいいのに」


 ちょっと文化祭全日のムードにあてられたのかもしれない。

 善彦の顔も少し赤かったし、私もたぶん。

 あ。小説の最後。あとがきにちょっとしたことを書こう。


 研究に一途で、時には倒れるくらいまで熱中して。

 私をいつも好きでいてくれて。

 一緒に育った大好きな男の子に向けて感謝の言葉を。


(善彦が見たらどう思うかしら)


 小説のあとがきを書きながら、そのときの様子を想像してしまった。

終章は文化祭当日のお話で、あと数話で終わる予定です。

何度か連載が中断してしまいましたが最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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