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研究者な俺と幼馴染が紡ぐイチャイチャ研究生活  作者: 久野真一
第2章 高校生研究者としての日常
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第16話 研究への想い

 二学期の初日。家に帰ってきてから、お袋が作ってくれた夕食を食べて、自室に戻った俺は、少し考え事をしていた。


 様子が少し変だった、幼馴染にして恋人である涼子(りょうこ)はあんまり心配していない。妙なところで繊細なのは昔からだし。


 考えていたのは、研究の事。正式な論文……PDF版も正式なのだけど、国際学会で配られた予稿集(よこうしゅう)。その、10ページ目から20ページ目にかけて、


Hyper Context Free Grammars: New Foundation of Parsing

Yoshihiko Oda, Ryoko Tokugawa


 と、俺達の論文が掲載されていた。ちなみに、国際学会の論文は、論文誌と違い、ページ数制限がある事が多い。発表を聴きながら読むのが前提なので長過ぎると困る、というのと、査読者の手間の問題があるのだ。


 最優秀論文賞という評価はもちろん、お世辞じゃないだろう。しかし、読み返すにつれて、どうにもまだまだ改善できる余地があるのではないかと思ってしまう。


 書いたときは素晴らしく思えていたものが、時間が経つと途端にくだらないものに思えてくる経験はよくあった。増原(ますはら)先生に聞いてみると、「よくあることだよ」と言っていたので、誰しもがぶつかる壁なんだろう。


 それにしても、帰国後、関連研究をさらに漁っていると、俺達が提案した超文脈自由文法ちょうぶんみゃくじゆうぶんぽうよりもよほど有望なのではないかという論文がいくつも見つかった。たとえば、解析表現文法かいせきひょうげんぶんぽうに拡張を加えるアプローチは、全く新しい形式文法を作り出そうとする俺のアプローチより手堅いように思える。


 それに、まだ理論だけで実装がほぼないのも問題だ。文脈自由文法でも解析表現文法でも、それをソフトウェアとして実現したものは大量に出ているが、俺たちのはまだ理論だけだ。そうすると、OSSオープンソースソフトウェアとして、超文脈自由文法の処理系を実装して公開した方がいいいのではないかとも思える。


 涼子(りょうこ)に連絡して、相談してみようかと思ったが、止めた。研究の世界は相談するだけでどうにかなるものではない。もう少し、自分の頭で突き詰めて考えないと。


 そんな風に悶々と夜中に一人で考えていたが、休憩にとお茶を飲んでいる時に、脳裏に浮かんだ閃きがあった。これなら、考えている問題点も―なんて思ってしまうが、大抵の場合は、その閃きにも穴がありまくるのが常だ。


 ともあれ、アイデアは水物だ。失敗したアイデアにいつまでもしがみついていても仕方がないが、今晩中にもう少し突き詰めて、それで明日涼子に意見を聞いてみよう。


 研究をするようになってから、こんな風にして、突如として思いついたアイデアを猛然と書き始めることがしばしばある。「朝起きて、「さあ、これから研究しよう」というようじゃ、まだまだだよ。朝起きたら、研究している状態じゃないと」と言った偉い先生が居たけど、その境地に至らなければいけないのだろう。


 本当に因果な道を選んだものだと思うけど、こうして、一人で問題と対面している時間は楽しくもある。問題と自分だけがあるような感覚。それに、文法を作るというのは、言語を作るのにも似た、自分が世界を作り出すような楽しさがある。


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ本当に研究を小説に置き換えても通りそうだ。 まあ、実装でも似たような感じはあるんですけど。
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