第12話 二学期の始まり(2)
「せんぱーい。お久しぶりです!」
その声は久しぶりに聞いた気がする。
「あ、結菜か。どうしたんだ?」
「どうしたも何も、海外旅行の土産話を聞きに来たんですよー」
「だから、海外旅行じゃないっての。れっきとした学会参加」
どいつもこいつも、海外旅行と勘違いしてやがる。
「どっちでもいいじゃないですかー。それで、カナダはどうでした?」
「どうもこうも、ほとんどホテルに籠もってたからなあ」
「そんな、勿体ない!何のためにカナダまで行ってきたんですか?」
「学会のためだっての」
この、ちょっとテンションの高い子は北条結菜。1学年下で、所属してるマイコン部の後輩だ。
「じゃあ、学会の事でもいいですからー」
「結菜は、学会の事わかるのか?」
「いえ、何にも」
頭が痛い。
「とりあえず、これ見て、ほら」
カナダ滞在中に撮った会場の写真を見せる。
「でっかいホールですね。これは?」
「今回参加した学会の会場だよ。発表もここでしてきた」
この子には、写真を見せた方がいいだろうと判断。
「学会って、こんなおっきな会場使うんですね。てっきり……」
「てっきり?」
「狭い教室みたいなところで、すし詰めになってやるのかと」
「一体どんなイメージだ。国内だと、言う通りな事もあるけどな」
俺の所属しているのは、計算機学会の下部組織の、言語研究会だが、国内だとそこまで人数が集まらない事も多く、狭い会場を使うことも多い。
「ふーん。ところで、涼子先輩とはどうなったんですか?ですか?」
ニヤニヤ顔で聞いてくるが、はっきり言ってウザい。
「別になんともなってないって。想像するようなことは、な」
「えー。せっかくのチャンスなのに、進展ナシですか!?」
おおげさに驚いてみせる結菜。
「一応、付き合うところまでは、行ったよ」
「センパイもやるときはやるんですね。見直しましたよ」
「普段の俺はどんな風に見えてるんだ、一体」
「超草食系男子」
なんとも微妙な評価だ。否定しづらいだけに、余計に。
「まあいいけど。そろそろ、ホームルームだろ。しっしっ」
これ以上色々問い詰められる前に追い払いたかった。
「なんで、そんな邪険にするんですかー?」
「いちいち詮索してくるからだ」
「わかりましたよ。今日は部活出ますよね」
「まあ、今はそんな忙しくないからな」
「じゃあ、続きはまた後で!」
そう言って、去って行ってしまった。
「あら?さっき、結菜が居なかった?」
女子同士の話は終わったのか、涼子が振り向いてたずねてくる。
「居たけど、適当に追い払っといた」
「そんな邪険にしなくてもいいのに」
涼子は、少し呆れた様子だ。
「邪険にって程じゃない。おまえだって、俺との事どうこう言われたくないだろ?」
さっきの女子グループを見る限り、涼子に話を聞きたそうだった。
「ま、まあ、そうね」
「だろ?」
「さっきは質問責めで疲れたわよ」
「そっちもか」
「も?……あ、ホームルームだわ」
慌てて前を向く涼子。さて、あいつの方はどんな事を聞かれていたのやら。
そうして、日常……いや、ある意味では今はこっちが非日常かもしれない、の授業が始まったのだった。