96話 『どうやら私は喋れるみたいです』
意を決して転生前の自分自身を鮮明に思い出し、私は変身スキルを使った。
すると、当然かのように私の姿は変化し、次の瞬間には私は転生前に戻っていた。
川へと映る私は見事に元の私であり、スライムの面影はない。
当然中身はスライムであるからこそ、維持しなければ崩れていくが、先ほどの人間よりは圧倒的に維持しやすかった。
「んー、無事に変身出来たのは良いんだけど、さっきの人間との決定的な違いはなんなんだろう? やっぱりちゃんとイメージ出来るかどうかなのかなぁ?」
あれ?
ん?
えっ? えっ? えっ!?
わ、わ、私今喋った!? 嘘でしょ!?
どういうことなの?
ちょちょ、ちょっと待って。やばい、頭の中がグルグルしてる。
落ち着け私、深呼吸だ。
「スー……はぁ……よしっ! いや、良しじゃねえ!」
なんで声が出るんだよ!
私スライムだぞ!? 声帯ないんだぞ! どうなってるんだよ!
さっきは出なかったじゃん! アレか? これも強くなった影響か?
だったらさっきのはどう説明するんだよ!
……あ、アレか、喋り方とか声とかを殆ど知らないからか?
うーん。
いや、にしてもそもそも喋れることがおかしいと思うんだよね。
いやそりゃ見た目的には人間だから喋るのは普通なんだろうけどさぁ……。
うーむ、ちょっと実験してみるかぁ。
一旦喋れたということを念頭に置きつつ、私はもう一度他の人間や、記憶しているモンスターへと変身スキルを使用して変化した。
しかし、相変わらず他のモンスターでは勿論のこと、人間でも喋ることは出来ない。
つまり、実験結果としては失敗に終わってしまった。
しかし、どっちにしても喋れるというのは私にとって好都合。
例えば元々の私が記憶に深く根付いているから喋れると仮定したとして、驚きはするけど、ガッカリはしない。
むしろ喜びの方が強い。
なにせコミュニケーションが取れるのだ。
他の人間と話したり、あわよくば仲良くなったりすることが出来る。
きっとそれはこの世界で暮らしていくのに必須な条件であり、そもそも私はそれを満たすことが出来ないと思っていた。
だからこそどうして喋れるのか? という疑問は本当はどうでも良いのだ。
「あ、待てよ? 考えてみたら私の言葉って通じるのかな? それに、そもそも私この世界に来て殆ど会話とかしてないからやばいんだけど!」
誰かと話すという難しさ。
それを考えただけで私の鼓動は早くなり、恐怖が芽生えてきた。
が、すぐにそれは消えた。
「いや、よく考えたら別に嫌われたら殺せば良いや」
そう。殺してしまえば良いのだ。
私が嫌いで、何かをしてくるようなら問答無用で殺す。
それをするだけの力は既に持っている。
だから怖がる必要なんてない。
……うん。怖がる必要はないんだ。
でも、そうだね。一応発生練習はしとこうかな。
い、いやだってさ、アレだよアレ。ほら、急に話そうと思っても難しいし、言葉が詰まったらお互いに困るしね。
「あー、あー、あー。よしよし。良いぞ、良い感じだ!」
止まって普通に声を出す分には特に問題はなし。
声が出しづらいとかそういうのも特にないし、前世と遜色なく喋れていると思う。
あとは、動きながら上手く喋れるかどうか。
万が一にもスライムってことがバレれば即刻私は駆除対象で、危険生物。
即ち、集中力を途切れさせたら終わる。
「ーーあっ、やっちゃった」
順調に喋ることが上手くなっていく中で、私は案の定油断してしまった。
なにせ、スキップなんてしてしまったのだ。
ぐぬぬ。
くそー、浮かれてスキップなんてしなければ良かったよー!
……ってか、この川なんかおかしくない?
私が落ちた直後から凄い流れが速くなってきてるんだけど……。
どうなってんのー!?
いやぁぁぁぁ! これじゃあ生まれたての私と同じじゃんかぁぁぁ!!




