94話 『ヒャッハー! 自由だー!』
外を走り回り、モンスターとして転生してから初めての外という事もあって、私は周囲の視線を忘れていた。
そう、私は見られていたのだ。
それも、物凄く怯えた目で。
『おい、アレってモンスターだろ? 誰か冒険者呼んでこいよ』
『そうよ! 迷宮から出たモンスターなんて危険すぎるわ!』
『俺が呼んでくるから逃げないように見張っててくれ!』
あちゃー。
そういう展開になっちゃうかぁ。
ま、そりゃそうだよね。迷宮からモンスターが出てきた時点でおかしいし、そもそも私より先に逃げ出してくる人間が居たんだもんね。
こうなっちゃうかも必然かな?
けど、私にとって問題じゃない!
冒険者を呼ぶ? それなら私は全力で逃げるよ!
正直冒険者を呼ばれた所で負ける気はしないけど、無駄に噂になったり、面倒な事になったら嫌だしね。
それじゃ、逃げさせてもらいまーす!
『お、おい! 何処か行こうとしてるぞ!』
『追いかけろ! 絶対に逃すな!』
『無理だ! 速すぎる!』
ふっふっふ。
後ろからなにやら声が聞こえてくるけど、気にしなーい!
どうせ私の速度に追いつけないでしょ!
だって全力疾走してるもん。逆に追いつける人間が居たら多分そいつは化け物だよ化け物!
ふぅ。
ここまで来れば安全かな?
後ろから人間の声はしない。周囲を見渡しても誰もいない。
よし! スライムに戻ろう!
私が辿り着いた場所は広い草原だった。
もしかしたらこの草原自体にはモンスターやら誰かしらが居るかもしれないが、目に見えないのなら気にする事はない。
変態姿からスライムに戻るのを見られる訳にはいかないが、これ以上麒麟の姿ではなにかとめんどくさい。
というか、いい加減スライムになって少しくらいのんびりしたい。
……ふぃー。
やっぱりスライムの方が落ち着くなぁ。
視界も低いから人間に見つかりにくい、外の世界は基本スライムかな?
うーん、でも万が一にも強いモンスターとか居たら負けちゃうかもしれないし、常時変態状態のが良かったり?
……よし!
考えるのやめ!
今は外を楽しもう! せっかくの迷宮以外の世界で空は青いし、草原は綺麗だし、走り回ろう!
いやっほー! 最高だー!
って動くの遅ーい!
ぐぬぬ。私はスライムのままで楽しみたいのにこうも上手くいかないとは……。
はぁ。なんか面白い事ないかな?
ーーはっ! あれはモンスター!?
もしかしなくてもモンスターだよね!?
おおっ!
外の世界に来てはじめてのモンスターだ!
戦おう! どのくらいの強さなのか気になるぞ!
草原を優雅に歩き、時折辺りを見渡しているのは数匹の狼のようなモンスター。
迷宮にも似たようなモンスターは居たものの、毛並みは綺麗であり、獰猛さは感じられない。
きっと育った環境が違うからこその違いだろう。
が、しかし何故か逃げられてしまった。
私が少し近付き、私の存在をモンスターが認知した瞬間に踵を返すように逃げてしまったのだ。
あ、ちょ、えー……。
どうして逃げちゃうの? 私安全だよ?
ほーら、怖くないスライムだよ?
……ちっ。
無駄だったか。
っていうかなんで逃げるんだろ?
迷宮だったら私がスライムってなると問答無用で襲いかかってきたのに、こっちだと違うのかなぁ。
もしくはたまたまあのモンスターたちが警戒心が強くて一旦逃げただけとか?
まぁいっか。
どうせモンスターとはまだ出会えるでしょ!




