93話 『念願の……!』
熊と戦った場所から引き返して上を目指して進み、そろそろ外に出られるという状況から私はより一層興奮しながら進んでいた。
と言っても、はぁはぁしてる訳とかではなく、単純にいつも以上に全力で駆け上がっているのだ。
もはや日本の車とか目じゃないくらいのスピードで、蹴れば地面は抉れている。
けれど、私は体をコントロール出来てるし、私からしてみれば普通の速度だから問題はない。
ただ、曲がり角や狭い通路、そういったところだけ体がなまじ大きいせいか少し難しい。
そんな風に自分のスピードと向き合いつつ、改善点を探している時、私は久しぶりに誰かの足音と話す声を聞いた。
モンスターばかりと戦ってきたからか、明らかに人間がいるというだけで私のテンションが上がってしまった。
それも、接触しようとする程に。
すいませーん!
外ってどっから行けば良いですかー!
『う、うわぁぁぁ!』
『なんなんだこのモンスターは!』
『殺される! 逃げろー!』
あれ?
あ、そっか。ドラゴンたちと違って会話出来ないんだった。
あはは。私ってばおっちょこちょい。てへっ。
って、そんなこと言ってる場合じゃねえ!
外だよ! 外に行きたいんだ私は!
連れてけ! 殺さないでやるからそのまま逃げ続けろ!
私を導け!
叫び声を上げ、泣きながら走る数人の人間を追いかける私。
人間にとって一歩間違えば即刻殺されてしまうかもしれないという恐怖。
だが安心してほしい。
私はそう簡単に殺さない。
なにより、私にとってこいつらは必要な人材だからね。
幾ら走るのが遅くてイラついても、段々声が煩くなってきても大丈夫。
……うん、大丈夫。
……ふぅ。
やっちまった。
やべえよ。私って元人間なのになんの躊躇もなくただイラついただけで1人蹴飛ばしちゃったよ……。
なんか視界の端でピクピクしてるし、もう殺しちゃったも同然だよこれ。
遂に異世界で私も殺人かぁ。
けど罪悪感とかそういうのは特になし!
んー、やっぱり私はモンスターですわ! だって今私が考えてるの道案内に関してだけだもん!
ま、でもさすがにイラついただけで殺すのはやりすぎたかもね。
だって、1人殺した事で走るのをやめてこっちを見てくるんだもん。
これじゃ道案内させられないよー!
どうしたら良いんだ。
誰か教えてくれ!
……はい。結局自分で考えました。
恐らく蹴飛ばしたら死んじゃうし、どうやったらもっと簡単に道案内させれるかな? と考えた訳です。
そんな中で閃いた案が、威圧スキル。
けど、これはすぐに却下! なぜなら、威圧スキルを使ったら多分その場にへたり込んで動けなくなっちゃうと思うからです!
そして次が妙案! 回復魔法!
丁度回復魔法の性能も試してみたかったし、さっきイラついて蹴飛ばした人にも使ってみて、敵意がない事をアピールすれば安全なはず!
さぁ、実践開始!
皆元気になるけど、余計に怖がられ、私がショックを受けて下を向いていると、走り去る音が聞こえる。
これはラッキー。
私に隙があると思ったんだろうか。
残念! 私の耳と目はめちゃくちゃ良いので、逃げても無駄です!
追いかけます! むしろ道案内ありがとうございます!
お、おおっ!
人間に追いつかないようにこっそり追いかけてるけど、これはもしかしなくても外の匂いでは!?
それに、なにやらめちゃくちゃ明るい光が見える!
うおー!
やったぁぁぁぁあ!
外だぁぁぁぁ!
こうして外に出た私は、自分の姿を見て逃げ出す人間たちを他所に、ただただ太陽の光を浴びながら走り回ることにした。




