89話 『バレなきゃ問題ないよね?』
欲しい。力が、全てに勝る偉大な力が。
きっと食べてしまえば罪悪感も芽生えるし、ダンジョンを破壊してしまうかもしれない。
けど、それでも私はどうしても欲しかった。
もう死ぬ思いはしたくないのだ。
恐怖に襲われる事も、誰かに負ける事もなくなるかもしれないという可能性に今の私なら手が届く。
どうすれば良い?
食べてしまおうか?
私は悩み、葛藤する。
自分の中のもう1人の自分と戦いながら、私の考えは未だ纏まらない。
そんな中、魅了スキルによって魅了されているドラゴンは私の側に付き従っていた。
当然、魅了されているからこそ今の私が何をしようともこのドラゴンが敵対する事はない。
ーーそう、敵対する事はないのだ。
んー、どうしよう。
ホントに迷う……。
食べたら凄く強くなれそうだよね?
でも……このドラゴンたちの居場所がなくなっちゃうかもしれないし……。
ん?
あっ!
やばい! 時間が! 魅了スキルが切れちゃう!
もはや考えている時間はない。
既に視界に映る魅了スキルの残り時間は1分を切っていた。
よしっ! 食べよう!
少しだけ。ダンジョンにあまり影響が出ない範囲で!
少し食べただけで変態スキルが上手く作用してくれるかは分からない。
けど試してみる価値はある。
申し訳ないけれど、背に腹は変えられない。
いただきます!
んー、ジャリジャリしてる。
ってか、捕食スキル使って食べてるのに結局全然食べれないってどういう事?
死んでるのに抵抗してるって事はないと思うし、これはダンジョンコアの力なのかなぁ。
ま、どっちでも良いや!
とりあえず食べきったし外に出よーっと!
ふぅ。なんとか間に合った……。
えーっと、魅了の残り時間は……5秒!?
危なっ!
ギリギリじゃん! 残り時間とか表示してくれてホントに良かったぁ。
これがなかったら今頃ドラゴンに食われてたよ。
ってかそれよりもなんていうか凄い力が湧いてくるんだけど、これ大丈夫だよね?
万が一にもドラゴンにステータスとか見られちゃったら私詰む気がするんだけど。
ま、まぁ、大丈夫でしょ!
そんな頻繁に見ないよね!
うんうん。
さーて、罪悪感が凄いけど今は疑われないようにもう一体のドラゴンが帰ってくるのを待ちますか!
うーん。
ダンジョンコアを少なからず食べたから何か起きると思ったけど、地震とか崩れたりはしてなさそう。
っていうことは、罪悪感とかもう感じなくて良いよね。
罪悪感から解放され、ようやく安堵したそのとき、ようやくモンスターを狩りに行っていたドラゴンは私たちの前へと戻ってきた。
『あら、おかえりなさい。見たところ傷はないみたいだけど、大丈夫かしら?』
『うむ。問題ない。数で攻めてくる奴らなぞ一捻りよ』
『それなら良かったわ』
『それで、こちらにも問題はなかったか?』
ドキドキ。
怖いよ。なにその質問。
私の行動ってもしかしてバレてた?
まずいまずいまずい!
逃げないと。
いや、言葉が通じるなら言い訳するべきかな?
どっちにしてもこれはまずい!
お願いだから何もなかったと言ってください!
『えぇ。特に問題はなかったわ』
セーフ!
いやー、心臓が破裂するくらい焦ったわぁ。
もうこんなの体験したくないし、なんとかして話題を変えなければ!




