82話 『幻想の生物』
ふむ……ふむふむ。
もしかしなくても私絶体絶命のピンチ?
まさかの下の階層に降りてすぐにピンチとかあり得ないでしょ!
い、いや、でも嫌な予感はしてたよ。
なんか降りてる最中から凄い音が鳴ってるなーって。
でも、でもだよ?
降りた先ですぐに戦いが起きてるなんて思うわけないじゃん!!
私の眼前に広がる光景。
それは地獄絵図だった。
ファンタジーの代名詞のようなドラゴンと、ゴブリンの集団が戦っているのだ。
それも、正直ゴブリンは集団というレベルの話ではない。王冠を付けたゴブリン王を筆頭に、もはや軍隊と言えるほどの数で攻めている。
それに対してドラゴンはというとたったの1匹だ。
上空を飛び回り、私の元まで熱が伝わるほどのマグマのようなブレスを吐きながら応戦している。
しかし、この階層にいるゴブリン達も簡単に殺されることはなく、槍を投擲したり、矢を放って対抗していた。
んー、私の見てる感じだとこれはドラゴンが勝つかなぁ。
ドラゴンの鱗に矢は弾かれてるし、槍が届いてもドラゴンに届くまでに威力が落ちてるからそこまでの傷は与えれてないし……。
っていうか、やっぱり飛んでるのって強いわ。
私も浮遊で飛ぶけど、それとは比較にならないくらい強い。
まず動くスピードが違うし、飛びながら放つブレスが強力すぎる。
十中八九私じゃ勝てそうにないかな。
おっ、私がスライムになって隠れて見物している間に相当な数のゴブリンがやられちゃったみたいだね。
こうなったら私が見つかるのも時間の問題かな。
逃げる準備しなくちゃ!
……むむっ?
あれは……ゴブリンの王様?
あれ? なんで逃げようとしてるの?
オークの王様は最後の一人になっても頑張ってたのに、ゴブリンは逃げちゃうんだ。
ふーん。
ま、どうでも良いけどね。
他のモンスターの事なんて気にしないし。
でもまぁ、ゴブリン王が逃げてる方向で待ち伏せしよーっと。
ゴブリン達の断末魔が響き、ゴブリン王は次々と味方であるゴブリンを囮にして逃げ回っていた。
地上へと降り立ったドラゴンへと無謀にも突撃していくゴブリン達は翼で薙ぎ払われ、鉤爪や尻尾で蹂躙されていく。
けれど、ゴブリンの王は逃げ切ることに成功した。
壊滅したゴブリン達の亡骸をドラゴンが捕食しているからだ。
まるで逃げるものなど追わんとばかり、背中を見せているゴブリン王へと追撃はしていない。
だからこそ、ドラゴンの姿が見えなくなるまでゴブリン王は逃げることが出来た。
だがしかし、ゴブリン王が逃げたその先で私は待っていた。
見つからないように念入りに隠れ、1匹になるその瞬間を待ち、私はゴブリン王の前に姿を現す。
『ガァァァ!』
悪魔の姿になった私へと弱っているゴブリン王は先手必勝とばかりに攻撃を仕掛けてくる。
けれど、今の私にとってゴブリン王の攻撃スピードは遅く感じてしまった。
まぁそれは仕方がない。私の比較対象はスケルトンなのだから。
だけど、それにしたって弱い。
そもそもが弱っているからなのか、危険だと分かりつつも敢えて攻撃を受けてみたものの、殆どダメージはない。
でも、それは拳だからの話。
今まさに腰に差していた剣を使ってくるのはまずい。
あれ? んん?
剣を振るスピードも遅い?
んー、なんだ。そんなに危機感を持つ必要もなかったね。
それじゃ、今度はこっちからいくよ!
ゴブリン王が振るった遅すぎる剣を避けたあと、魔法を発動し、動きを止める。
そして、そのまま私はゴブリン王の胸へと指を当てた。
その直後に私は指先から魔法を放ち、心臓を貫く。
ピンポイントで心臓を貫かれたゴブリン王はゆっくりと地面へと倒れていった。
これこそが私の覚えた新たな魔法。サンダーアローだ。
使い方としては至極簡単で、今やってみせたように、指先から雷の矢を放つだけ。
魔力消費が少ない代わりに、スケルトンの時のような鎧は恐らく貫通できないし、威力もそこまで高くはない。
けど、今回のように弱点を狙って貫通出来るのならばその強さは実感出来る。
それに加えて、何気なく使ったもう一つの魔法、チェーンバインドは地面から黒い鎖を召喚して相手を縛り付ける魔法だ。
拘束力がまだ分からないけれど、弱ったゴブリン王程度ならば簡単に拘束出来るくらいの魔法。
ただし、召喚する鎖の量は相手の大きさに付随する。
それに、召喚した鎖の量が多ければ多いほど当然のように魔力は減っていくし、多用したらすぐに魔力切れを起こしちゃう。
まぁ、これも使い方次第かな。
さてと、魔法を試すことも出来たし、とりあえずご飯タイムといこうか!
後のことは食べた後に考えよう!




