64話 『私の目標』
いつまで私は見ていたのだろうか。
自分でも自覚がないほどに魅了され、時間感覚も忘れるほどに見ていた私は、やがて王冠が砕かれた音によってようやく意識を正常に戻す事が出来た。
『ーー』
しかし、意識を戻すのと同時に息を殺していた代償としての苦しさを感じ、私は呼吸をしてしまった。
戦いが終わり、静まり返っているこの中でだ。
ガシャンガシャンと、歩く音が聞こえ、私の中に残っていた恐怖はもう一度呼び起こされた。
呼吸は荒くなり、自我を保つのが難しくなる。
スケルトンは私を敵だと認識して気が狂うほどの殺気をこちらに向けているのだ。
生きるか死ぬか。
全てはスケルトンの気分次第だ。
もしかしたら私を見てから攻撃しないかもしれない、見逃してくれるかもしれない。
そんな淡い期待と共に私は変態を解いていく。
せめて悪魔ではなく、無害なスライムとして意地汚くも生きようとしているのだ。
あぁ。
迫っている。近付いている。
音が、殺気が。
死神の鎌が私の喉に。
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……はっ!
えっ? えっ?
生きてる!? もしかして私生きてる!
見逃されたの!?
やっぱりスライムになったのが正解か!
いやー、良かったよかった。
恐怖で気絶した時はどうなるものかと思ったけど、案外なんとかなるもんだね。
もう殺気を感じる事もないし、逆に気絶した事で休めたから余裕余裕!
はっはっはっ……はぁ。
怖かったぁ。
本気で怖かったよぉ。
絶対に死んじゃうかと思った。もうやだ。
こんな所居たくない。
最初のオアシスに戻りたい……。
でも、先に進まないと。
私は早くこの迷宮を出て外に行きたいんだから。
私がさっき死にかけた時思ったのはただただ、死に怯えずに暮らしたいという事。
ここが異世界だというのなら、こんな暗い迷宮じゃなくてもっと綺麗な空や世界を見たいという事。
スライムになってから生きることを目標にし、友達も欲しがったけれど、今はとにかく外に出たい。
だから、私は前に進む。
怖くても、さっきみたいなやつが現れても、私は進まないといけない。
ここで振り返って戻ってしまっても、確かに外には出られるだろうけど、それじゃ結局弱いままだ。
力を。
誰にも負けないくらいの力を手にして私は外に出たいのだ。
よしっ! 目標を定めたぞ!
外だ! 外に出る! それも迷宮の奥に行って鍛えてからだ!
うおー!
そうと決まれば早速鍛えないと!
……あ、待てよ?
この先に進んだらまたあのスケルトンと会う可能性が高まるし、ひとまず後ろに下がって蜂を倒そうかな……?
い、いや、ダメダメ!
そんな弱気じゃダメだ!
進もう! 先へと、どんどん先へと!
強敵に挑むこそが鍛えるのに一番の近道のはず!
ん?
アレ? あのスケルトンは倒したオーク達を放置したまま?
って事は、これ全部食べて良いの!?
ラッキー! 丁度お腹空いてたし食べちゃおーっと!
えーっと、たまには変身スキルを使って、面積を増やして食べてみようかな。
うーん、水の中で変態出来る恐竜に変身出来るかわかんないけど、とりあえずやってみよう!
むむむっ。イメージイメージ。
よしよし、良いぞ。最初の頃にイメージしてた虫とかよりは全然マシだ。
むっ!?
変わってる! やっぱり地上だと悪魔にしか変態出来ないから恐竜にもなれるんだ!
って、うわっ!
なんだこれ、凄い自分のことを支えるのが難しい!
やばいやばい、すぐに粘液に戻っちゃうよ!
うー、こうなったら体はともかくとして大きな口を開けることに意識を集中!
いけ私! オークの死体を取り込むんだ!
恐竜の図体に合うくらい、いや、むしろ体が維持できないことを利用して、私は顎が外れてるんじゃないかってくらい大きく口を開けてオークの死体を一気に取り込んだ。
その結果、取り込んでから体が維持できなくなっても、普段より体積の大きいスライムになっているし、酸で溶かす音がうるさいくらいに響いてる。
それに普段こんなに一気に食べないからか、正直吐き出したいという気持ちがやばい。
……けど、オークの死体はまだまだあるのだから、私はこの作業を続けなければならない。
栄養を取って目標を達成する為にも。




