63話 『圧倒的なまでの個体』
えっと、もしかしてあの魔法で死んじゃったのかな?
だとしたら嬉しいけど、それはそれで困るような……。
オーク達の軍勢は厄介だし、けどあのまま戦われてもこうして見ていることしか出来ないしーー
『ブハハハハッ! キサマホネデハナイカ!』
えっ? 骨?
あのフルプレートが? 人間じゃなかったの!?
どれどれ〜。
うわっ! ホントじゃん!
魔法によって生じた土煙が晴れ、そこから姿を現したのは未だ健在のスケルトンだった。
鎧は相も変わらず傷一つ付いていないが、驚くべきはその顔だ。
今まで兜をかぶっていたからこそ、てっきり強い冒険者なのだと思っていたけど、それは私の勘違いだった。
その姿は紛れもなく骨であり、肉はない。
ゲームやアニメ、そういった物によく出てくるスケルトンだったのだ。
だが、良くある雑魚敵としてのスケルトンではない。目の中からは殺意の籠もった青い光が浮かび上がっており、姿を晒しても尚、手に持つ両刃剣と自らの体を覆い隠す程の大盾を離していない。
『キサマ、マダタタカウトイウノカ。イイダロウ、ホネスラノコサズコロシテヤル! モウイチドマホウダ!』
オークの行動は間違ってはいないが、私からしてみても愚策だと思う。
そもそもとして、同じ攻撃が格上である相手に通用するはずがないのだ。
それも、さっきは偶然相手の隙を突いたからこそ成功した攻撃。
既に構えている相手には通用する確率は低い。
なのにも関わらず、焼け死んだオークを踏みにじりながら優雅に歩いているスケルトンへと、オークの王はもう一度足止めする為にオークを放ったのだ。
『グ、キサマハナンナノダ! オカシイダロ!』
口汚く叫び、唾を撒き散らしているオークの王。
けれど、その言葉にスケルトンは耳を貸していない。いや、私が見るに、聴こえているが無視しているのだ。
そしてスケルトンは歩くのをやめ、走り出した。
目の光が宙に残るほどの速さで動き、瞬く間に魔法を放とうとしているオーク達を蹂躙したのだ。
有り得ない。
幾ら個の強さが圧倒的だとしても、数には負けるのが自然の道理だ。
私もそれは分かっている。
確かに、私は個で見てみれば相当強い……と思いたい。
まぁ悪魔の力だけども。
っとまぁ、それは置いといて。
仮に私がさっきの蜂と戦ったとしても恐らく、いや、奇跡でも起きない限り殺されてしまう。
けれども、それが普通なのだ。
数は力。
それは紛れもない事実。
しかし、あのスケルトンを見れば嫌でも理解してしまう。
圧倒的すぎる個は群よりも強いのだということを。
やばい。
震えが止まらない。
怖い、怖すぎる。無理だよ、あんなの戦うべき相手じゃない。
上の階層にも居たけど、あいつもこの階層に存在しちゃいけない生物だよ。
ダメなんだ。早く動かないと。
分かっているのに、私は見ることをやめられない。
体が震え、音を出さないように息も殺し、動けないのにも関わらず、私はスケルトンの戦いに魅了されてしまっているのだ。
スケルトンであるにも関わらず、両刃剣を軽々と扱い、寄ってくるオークは美しいと言えるほどの太刀筋で両断していく。
囲まれて放たれた槍は身を屈めながら構えた槍で弾き、逆にオークの態勢を崩していく。
同じように、降り注ぐ魔法も躱していき、やがて残るはオークの王とそれを守るようにして立つ二体のオークだけになった。
うわっ。
ぐちゃぐちゃで気持ち悪い……。
戦いの最中で巻き込まれたオークは死に絶え、死んだオークは踏まれてぐちゃぐちゃになり、そしてその上から更に死体が積み重なっている。
そんな光景は広場中に広がっており、スケルトンの強さはこれを見るだけで嫌でも理解出来る。
そんな無残な光景が広がっているにも関わらず、私は目を逸らす事ができずにスケルトンとオークの王を見ていた。
そうして、オークの王の長い長い命乞いが終わると同時に、王冠は空を飛び、オークの首は綺麗に撥ねられた。
残された王冠は宙を舞い、やがてスケルトンの前に落ち、甲高い音を立てながら木っ端微塵に砕かれるのだった。
こうして、オークの軍勢VSたった一体のスケルトンの戦いは私の脳裏に焼き付けられながら、幕を閉じた。




