62話 『個体VS軍勢』
さーてさてと、ほんの少しの休憩のつもりがなんだかんだ動きたくなくて結構な時間が経っちゃった訳だが、どうもさっきからこの先の場所で戦ってるような音が聞こえるんだよねぇ……。
うーん。
どっちにしろ後ろに下がったらまた蜂さんと出会う可能性がある訳だから進まないといけないし、まぁモンスターが居たら居たで食べちゃえば問題ないしね!
ーーっ!?
待って待って。
あ、これはヤバい。
進んだらダメだ。死ぬ未来が見える。こんなの有り得ない。
ってか、なにこれ。今までにこんな事なかったのに。
もしかして、いや絶対にこれはあいつだ。
さっきまで私が休んでた通路から少し進んだ先にある広場で単身で戦っているフルプレートの男。
そいつの殺気だ。
そもそもとして、私を追いかけてきた蜂がいつの間にか消えていた事が不自然だった。
私を獲物と定めたのなら、集団で蜂はいつまでも追いかけてくるはずだ。
蜂の習性とかは分からないけど、長い間逃げ回っても追いかけてきたところを考えるにそれは間違いない。
だけど、一つ例外があるとすれば自分達が勝てない、死ぬと分かった相手が居ることだ。
女王蜂を守る為には死ぬわけにはいかない。だとすれば、蜂達が私より先にこの殺気を感知して逃げても不思議ではない。
いや、むしろ今まで私が気付かなかったのが不自然なのだ。
考えようによってはこれは致命的な欠点だ。もしも、本当に気配を感知するのが遅いというのなら、それはまずい。
スライムの時にはある程度分かった筈だが、よく良く思い返せば悪魔になってから奇襲される事が多かった。
マグマの時もそうだ。油断していたのも否めないけれど、それはそれとしても気付くのに遅れた。
今こうして分かったのは良いけれど、どっちにしても危険である事には変わりはない。
逃げるか、戦うか。
モンスターである私にある選択肢は少ない。
今尚偶然にも見る限りではオークの軍勢が戦ってくれているが、共闘は出来ないだろう。
だとしたら、本当に気が紛れている内に逃げるくらいしかないのだ。
戦うのは命を捨てるのと同じ。
つまり、私にある選択肢は最初から一つしか残されていない。
すー、はー……。
ふぅ。
深呼吸もしたし、いざとなったら浮遊で逃げる準備も出来てる。
よし、走れ私!
ん?
あれ?
どうして?
どうして私の足は動かないの?
違う。
私の足が震えてるから動けないんだ。
本能的に負けを悟って進むことを拒んでいる。今しかチャンスがないのに、ただ私は動けずに戦いを見ていることしかできない。
『オマエタチ、ハヤクコロセェェェエエ!』
一際大きく、醜い顔をしながらも、その頭頂部に乗っているのは派手な王冠。
即ち、叫びながら命令を出しているこいつこそがオークの王である。
しかし、息巻いて叫んでいたとしても声が震え、汗は流れ落ちている。
怖いのだ。圧倒的なまでの数で挑んでいるにも関わらず、オークの王は未だ傷一つなく同胞を狩っているモンスターに怯えている。
『マホウダ! マホウヲハナテ!』
『ーー!』
槍を持ち、斧を持ち、剣を持ったただのオーク達が束になったとしてもフルプレートの男を殺す事はできない。
むしろ、オーク達を犬死にさせているだけだ。
オークの背丈程の両刃剣を軽々と持ち上げ、それを視認出来ないほどの速度で振るい、オークを両断していく。
断末魔が鳴り響き、オークの軍勢の指揮は恐怖によって落ちていくが、未だ逃げるものはいなかった。
それも、ひとえに王たる存在がいるからだ。
王を見捨てて逃げる事はできない。契約か、はたまた心酔か、もしくは両方か。
どちらにしても、王であるオークが殺せと命じているからには死ぬと分かっていても戦わなければいけない。
だが、死ぬというのは男に殺されるだけじゃない。
王が放った命令は魔法を放つというもの。
未だ大きなローブを着ているオーク達が唱えている魔法は広範囲、つまりは同胞であるオークすらも巻き込む魔法だ。
けれど、それでも前線で命を張っているオーク達は逃げない。
最早、この場所こそが彼らにとっての死に場所なのだ。
そうして、魔法が放たれる直前にオーク達は雪崩れのように男へと飛び掛かり、肉の壁に埋もれた男は逃げる事が間に合わず、魔法によってその身を焼かれる事になる。
今年の更新はこれでラストとなります!
また来年お会いしましょう!
今年もありがとうございました!
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