28話 私はスライムということを忘れない
例え進化しても、変態スキルが使えるようになったとしても、スライムに戻った私のやる事は変わらない。
如何にコピースライムになって、ステータスが向上していても、私自身はスライムの形態だと攻撃力は貧弱だから奇襲してモンスターを狩るしかない。
むむむ。
あそこに魔法陣が設置してあるな。
よし、あれを使おう!
久しぶりに罠を使っての狩りだからなんか緊張するなぁ。
最近じゃ正々堂々真正面から戦ってばっかだったし、今も私なら勝てるんじゃね!? って心が勝手に勘違いしてるけど、私は馬鹿な真似はしない。
そう、私の理性は優秀だから勘違いして突っ込んだりしないのです!
さてさて、魔法陣も見つけたし、あとはこれまた久しぶりに使う変身スキルでモンスターを誘導するだけの簡単なお仕事。
ダメージを受ける事もなく、低いであろう体力を削る事もない。
こういう姑息な作戦こそがやはり私に向いている!
あっ。
そういえば私はトカゲさんになってウサギにツノが生えたようなモンスターと戦ったんだけど、そいつだけは最初から私の姿を見て逃げようとしたんだよね。
って事は、変身スキルでトカゲさんになれば私の姿を見て逃げるんじゃないかな?
天井を這いながら獲物を探してたら都合よく真下に1匹のウサギさんがいるし、試してみよーっと!
はて?
私変身使ったよね?
いや、間違いなく使ったはず。
えーっと天井から落ちて、その音に気付いたウサギさんが振り向く前に変身スキルを使ったはずなんだけど、どうして私の姿は変わらずスライムのままなんだ?
あれれー? おかしいぞー?
これじゃ私ウサギさんにやられちゃうなー。
アホかー!
逃げろ。
逃げるんだ私!
もう私の中で嫌な予感というか、死の予感が迫ってきてるぞ!
ちょ、スライムの動き遅っ!
これじゃ逃げられねぇ!
一か八か、もう一回変身!
よしっ! 蛇さんにはなれた!
ってか、じゃあなんでさっきは失敗したんだよ!
あー、調子乗ってなにが試してみるかー、だ!
過去の私のアホ!
あわわわわわ!
やばいやばいやばい!
逃げられないよこれ!
距離がどんどん詰められる!
蛇よりウサギさんの方が足が速いだなんてそんなの……あれ?
もしかして普通?
いやいやいや、違う。そうじゃない!
それよりも早く倒さないと!
大丈夫。まだ距離はある。変態スキルが使える!
昔の私なら絶対に倒すとか戦うとかの選択をしなかっただろうけど、今は違う。
私には倒す術があって、なによりも一度戦っているから倒し方も分かっている。
だから、こうして私は変態スキルを使って正面から正々堂々と戦うのだ。
そうして、呆気なく、本当に呆気ないままに私は勝利した。
私自身の力ではあるものの、私本来の力ではない。岩を背負ったトカゲという、この階層において強いモンスターの力を借りて。
はぁ。
結局変態スキル使っちゃったなぁ。
私にとってもうスライムの状態は強くないって思っちゃってるからかなぁ。
いやー、まぁ確かにスライムの状態は弱いっていうのはわかりきってるんだけど、それでも戦い方次第では全然まだ戦えるんだよね。
でもきっと、私は変態スキルという便利なスキルを得たお陰でトカゲさんとスライムの圧倒的な差を感じて、感じたからこそこういう場面でも正面から戦っちゃう。
勿論、それが良いか悪いかで言えば結論的には勝てているから良いんだけれども、なんていうか、根本的にスライムじゃなくなっちゃうような気がして、それが少しだけ怖い。
私はスライムとして生まれ変わったのであって、トカゲさんになるべくして生まれ変わったのではない。
私は私。
そう、それをまだ理解出来ているうちはきっと私は大丈夫。
だから、安易に頼ってしまっても良いけれど、私は元々スライムという事だけは忘れないようにしよう。
忘れてしまえばどうなってしまうのかも分からないのだから。




