18話 蜘蛛が炎を吐くってどういう事ですか?
動け。動け。
動いて私!
早く! このままじゃ死ぬ!
突如として振り下ろされた攻撃に、私は反応する事が遅れ、硬直していた体を無理やりにでも動かし、なんとかその攻撃を回避した。
いや、厳密にいえば完全には回避していない。
私が居た場所には私の体から抉られたスライムの粘液が残っているし、痛みが私を襲っている。
そして、その痛みは今まで感じた事もないほどの痛みであり、相手の攻撃が物理だけではないということを明らかだ。
危なかった。
体はボロボロで痛いけれど、それでも動かなかったら絶対に死んでいた。
たった一度の不意を突かれた攻撃で、ステータス上のHPは半分程度。
瀕死の重傷って程ではないが、次に攻撃をくらえば確実に致命傷になる。
油断していたわけじゃない。
全方位を見れるからこそ、どんな攻撃にも対応して避けられるだろうと予想はしていたし、そもそも相手の姿が見えないことから、奇襲を掛けてくるのはなんとなく分かっていた。
それでも、多分心のどこかで恐怖しつつも私は自分の防御力を過信していた。
だけど、正直今はもう無理。
とにかく、今は逃げる事を優先して考えないとまずい。
戦うにしても相手の姿は見えない上に、攻撃力は高いのは無理がある。
だから探さないと。蜘蛛の糸の隙間を、私が抜けられるだけの隙間を探さないといけない。
おお?
あそこは、一応私が抜けられそうだけど、もしかして罠?
あー。
一応行ってみるか。わざと逃げれそうな道を用意してる気がしないでもないけど、そんなにモンスターが頭良くない事を祈るしかない。
ふぅ。
良かった。
モンスターの頭はそんなに良くなかったんだ……っ!?
ズドン!
完全に危なかった。
上手く抜け出した直後で心は安堵してたし、警戒すらしてなかった。
もしも、あと数秒遅れていたらと思うとゾッとする。
私に気付いていたのか、それとも自分の巣に抜け穴があるという事を気付いたのか、どちらにせよ私が逃げ出した後に上から大きな音を立てて着地したのは、日本では見た事もないほどの大きさの蜘蛛で、体の至るところが赤く発光していた。
ギャロギャロ。
あ、やばい。目が合った。
恐らく蜘蛛はいなくなった獲物である私を探していた。
だから、その複数ある目で辺りを見渡していたのだ。
しかし、そんな推測をしても無駄。もう既に蜘蛛は私を凝視している。
はぁ!?
なにそれ!
ずるくない!? 蜘蛛だよね? どうして蜘蛛が口から炎を吐くの!?
自分の狩場である蜘蛛の巣から一歩も出る事なく、蜘蛛は私へと向かって炎を吐き始めた。
んげ!
地面が焦げてる。
これは私がくらったら全身炎で蒸発する感じだ。
あぁもう!
こうなったらもう変身して逃げるしかない!
うわぁぁぁぁ!
めっちゃ炎吐いてくるぅぅぅぅう!
うおっ!
危ない!
死ぬから、ホントに一発でも当たったら死ぬから!
なにこれ! これがこの階層での普通の強さなの!?
嫌だ! こんなのスライムが生きられる環境じゃないよ!
誰でもいいから私を元の階層に戻してよ!
ひゃあっ!
もうやめてぇぇぇぇええ!