17話 明らかな罠に引っかかる馬鹿なんて早々いません
探索を開始して、私はスライムの姿から蛇の姿へと変えてから動きだした。
勿論、スライムの姿なら壁や天井に張り付けるメリットはあるが、探索という動くのがメインならば、足の遅いスライムはまったくもって探索向きではない。
だからこそ、私はいつも通りの蛇を選択している。
熊さんでも良い気がしたが、図体がデカいのは即ち目立ちやすいという事で却下だ。
ふんふんふーん。
未知の階層を自由気ままに、なんの警戒もなく進んでいると、私の目の前になにやら光る宝石のようなものが見えた。
うーん。どう見ても罠っぽいよね。
ここは引き返そっと……あれ? あれれ?
おかしいなぁ。どうして後ろに進めないんだろ?
あはは。
あはははは。
後ろから気配するけど、こんなの気のせいだよね!
……どうしよう。怖くて振り向けない。
完全に油断してた。さっきまでの私なにしてんだよ!
鼻歌なんて歌っても仕方ないだろ!
未知の世界なんだから警戒ぐらいしろよバカ!
ふぅ。過去の私に愚痴を言った事だし、そろそろ振り向いてみようかな。
いや、それとも無理やりにでも前を向いたまま後ろに進んでみる?
さっきは気配やらで怖くて進めなかったけど、うん。大丈夫。
今は怖くない。そうそう、怖くない。
この世界にお化けなんているわけないしね。こんな閉じ込められるなんていうホラー映画みたいなシチュエーションが起きるわけがない。
ひぃ!
なになに!?
なんで私の後ろがネバネバしてるの!?
もしかしてだけど、蜘蛛の糸とかじゃ……ないよね?
振り返りネバネバしてる原因を確かめてみると、そこには案の定と言うべきか、蜘蛛の糸が張られている。
あー。
これじゃホントにどうしようもないかも。
完全にホラーな映画やゲームの世界だよこれ。
周りをよくよく見てみれば、私の視線から真っ直ぐの先に一際輝く宝石があり、天井やその周囲には蜘蛛の糸が張り巡らされている。
どうしてこんなにも分かりやすい筈なのに今まで気付かなかったのかは、恐らく宝石に目が奪われるからだろう。
しかし、こんな私が罠に嵌った経緯を説明している余裕はない。
蜘蛛の糸が張り巡らされているという事は、つまりその糸を張った張本人がいるという事だ。
気配はなく、辺りを見渡しても何処かにいる様子はない。
それでも、確実に潜んでいる筈だ。
獲物を罠に嵌めた蜘蛛が私を逃す筈もなく、また、さっき一度だけ感じた気配は紛れもなく本物。
うぅ……このままじゃやばい……。
本格的に私を恐怖が襲い始め、心と体は死への恐怖で固まりはじめる。
そして、そんな私を狙ったかのようにして、頭上から赤く光った鋭い針のようなものが振り下ろされた。




