158話 『最終決戦その2』
魔王に回復魔法を掛け、一度冷静になったとしても、相変わらず勇者を確実に殺す方法は見つからない。
なにせ、勇者には予知とも思えるような力があるのだ。
ただ、予知を上回るほどの攻撃を加え続ければ、なんとか勝機は見出せるとは思う。
けど、仮にこの力が全て一度死んだことによるものだとすれば、次に殺した場合、どうなってしまうか分からない。
だからこそ、確実に殺す方法が見つからないし、殺せないという事は絶対に勝てないという事になる。
しかし、私達が打開策を見つけられない状況だろうと、変わらず勇者は殺す為に襲ってくる。
つまり、攻める以外に道はない。
「聖剣! こい!」
『ちっ、そんな事まで出来るのか!』
「退いて! 手に取る前に吹き飛ばす!」
どれだけ打撃が重くとも、予知があろうとも、攻め続けた結果、確かに勇者には数が増えた。
でも、私達にも少なからず負傷はある。
そんな中で、打撃だけでは致命傷になり得ないと判断したのか、勇者は聖剣を手に戻そうと声を上げた。
どういう原理なのかは分からないけれど、聖剣はその声に反応し、まるで意志があるように勇者の手元に戻ろうとし始めたのだ。
だからこそ、私は魔王を一度離脱させ、麒麟へと変態し、ブレスを放った。
これで殺せるとは思えないけど、せめて聖剣だけは手に取らさないように。
「さっきから姿を変えやがって、気持ち悪いんだよ!」
勇者を丸々飲み込みそうな程のブレスは、聖剣を手に取った勇者がかろうじて放った剣撃によって両断されてしまった。
「嘘でしょ……?」
『大丈夫。任せて、私が仕留めるから!』
私がブレスを両断された事に驚いている間に、両断されたブレスの影から魔王が颯爽と姿を現し、勇者の腕を切断した。
完全に死角からの攻撃であり、既に腕を無くした勇者は、追撃されることを恐れたのか、身を引こうとし始めたのだ。
そんな勇者を追い詰めるように魔王が攻撃しようとしたその瞬間、勇者の背後が突如光り出した。
魔王は光に目をやられて、咄嗟に目を覆い隠すけれど、その隙を勇者は見逃さなかった。
というよりも、最初からわざと隙を作り、魔王に追撃させようとしていたのだろう。
その証拠に、光で見えにくかったけれど、勇者は笑みを浮かべていた。
『貴様……最初から魔法を使うつもりで……』
「いい加減ウザいんだよ。死ね!」
思わず目を隠したくなる程の光量を発していたのは、勇者の放った魔法。
魔王を殺すには充分な大きさであり、威力も恐らくは申し分ない。
「待って、嘘でしょ……。ダメ、やめて!」
私の声も、伸ばした手も届く事はなく、魔王は勇者の放つ魔法によってその身を貫かれた。
完全な致命傷だ。
血を吐き、倒れ込もうとしている魔王の目からは徐々に光が失われていっているのだから、このまま数分、いや数十秒もあれば死んでしまうだろう。
けれど、生きる時間すらも与えないかのように、勇者はゴミを蹴るようにして魔王を蹴り飛ばした。
……でも、蹴り飛ばした先には私がいる。
いや、かろうじて助けることが出来たと言っていい。
「クソがっ! 手間かけさせやがって! わざわざ無駄な魔法を使わせやがってよ」
叫び、怒り狂っている。
なぜ一度の魔法でそこまで怒っているのかは分からないけど、おおよそ威力が高い分、消費が多いというところだろう。
けれど、それはつまり、勇者に魔法を使わせれば回復魔法が使えなくなるということ。
未だに殺せていないからこそ、どれだけ生き返れるのか分からない。
でも、もしかしたら、生き返りはするけど、回復魔法がなければ失った手足等は戻らない可能性は充分にある。
仮に失った部位ですら治せるのならば、そもそも回復魔法を使う必要がないのだ。
それなのに勇者は逐一回復魔法を使っている。即ち、私の予想は正しいと信じて良いと思う。
ただ、勇者をそこまで追い込むにしても、魔王に使った魔法を何度も使われるのは危険極まりない。
なにせ、完全に魔王の腹に穴を開けているのだ。とっさに防いだであろう両腕ごと穴が開いてしまっている。
正直言って、こんなの使わせたくはないけど、消費が多いのだと仮定すれば、使わせざるおえないのも事実。
『……済まないな。下手を打ってしまったよ』
「大丈夫。もう喋らないで。回復してる間は私が戦うから」
魔王が喋るたびに、未だ回復しきれていない腹部から血が流れ続けている。
咳き込めば血が吹き出しているし、人間ならば確実に死んでいる程の血の量だ。
いや、大抵の魔族やモンスターでも大量出血、或いは痛みで悶絶し、ショック死しているだろう。
魔王だからこそ耐えることが出来ている。
けど、幾ら回復魔法を瞬時に掛けたとしても、回復しきるまえに死んでしまえば意味はない。
だからこそ、魔王には安静にしてもらい、私が一人で勇者と戦う。
致命傷を負った魔王を守りながら。
「痛いだろ? 死にたいだろ? 俺が殺してやるよ!」
「絶対に殺させないから!」
聖剣を手に、剣撃を飛ばしながら迫る勇者へと私は走り出し、魔法を使って剣撃を相殺してから、接近戦へと持ち込んだ。
とは言え、身体能力が高い勇者に対して、人間状態で殆ど接近戦などした事のない私が不利であることに変わりはない。
でも、私は姿を変えられる。それが私のアドバンテージだ。