153話 『勇者の強さ』
玉座に座り、いつものような姿ではなく、威厳溢れる姿をして私を見下ろす魔王。
城内が慌ただしくとも、魔王だけは悠々とそこに存在し、余裕な表情を見せている。
「ごめん、遅くなった」
そう言った私は、魔王の元へと近付こうとするが、その足を止めるようにして、後ろに控えていたドラゴンが口を開いた。
『では、私も魔族達を救いに行かせていただきます』
ドラゴンの言葉を聞いた後、一度魔王へと視線を向けるが、魔王からの返答もなかった為、私は頷いてから、「お願いします」と答えた。
そして、ドラゴンが出て行くのを見た後、仕切り直すように私は魔王へと近付き、頭を下げた。
少なくとも私が居なくなった事によって攻められた可能性が高いのだから、私に責任はあるのだ。
魔王が如何に余裕な表情を見せていても、心中では私をどう思っているのかは分からないからだ。
『君が謝る必要はないよ。どちらにせよ攻められていただろうしね』
「でも……」
『困惑する必要もないし、君が責任を感じる事もない。むしろ援軍を連れて戻ってきてくれたことに私は深く感謝する』
これ以上何を言っても話は進みそうにないと判断した私は、すぐに責任を放棄することは出来ないけれど、今は魔王の言葉に頷いて納得した。
そして、下げていた頭を上げた後、今がどれくらい危機的状況なのかを魔王へと聞くことにした。
『状況か。未だ幹部達は足止めを食らっているし、恐らく君が戻って来なければ2日と持たなかったのが現状かな。まぁ、言ってしまえば絶望的なまでの劣勢だよ』
「えっ、ホントに?」
『あぁ。紛れもなく事実さ』
困惑と驚愕が頭を支配し、一度考える事をやめてしまった
しかし、よくよく考えれば確かに、幹部達が居ないのならば戦いようもないし、厳しいだろう。
ただ、それでも私は2日はあり得ないと思えてしまう。
なにせ、幾ら人間達の数が多いと言えど、魔王自体が負けるとは思いにくいのだ。
それも、たった2日で負けるなんて想像すら出来ない。
あ、でも、あり得るかも……。
だって、魔王が負ける可能性があるってことは、即ちただ1人の例外が来ているって事になるし……。
「……やっぱり勇者が来てるの?」
『あぁ。既に姿は確認している。力の程はまだ分からないけどね。でも、少なくとも私を殺す為に人間達を導いて攻めてきたのは勇者で間違いないよ』
「そっか。それで、今の勇者の居場所は分かる?」
勇者が魔王を殺しに来ているのならば、私は魔王を守るために戻ってきた。
役目や役割は違うし、勇者対魔王という宿命の戦いでもない。
けれど、勇者が人間にとって最強の矛とするならば、私は魔王にとって最強の盾なのだ。
ーーだから、やることは一つ。
魔王と勇者が相対する前に、私が勇者を殺す。
『もしかして君が勇者とーー』
魔王が喋りきるよりも前に、激しい音が響き渡り、私と魔王の視線は外へと向いた。
そして、そんな私達の視線の先では、勇者が聖剣を振りかざし、遥か上空を飛ぶドラゴンへと剣撃を飛ばすという信じられないような出来事が起こっている。
それも、その斬撃でドラゴンの翼が切り裂かれているのだ。
これではもうドラゴンに地の利はなく、殺されてしまうだろう。
現に、人間よりも圧倒的に勝るドラゴンを地に落としたその一撃によって、人間達は撃墜されたドラゴンを殺そうと群がっている。
「嘘でしょ……?」
『心強い援軍もここまでか…….』
一頭のドラゴンだけでもあり得ないのに、勇者の後ろでは首を跳ねられたドラゴンが地に伏し、既に息絶えているのだ。
つまり、魔族を助けに行ったドラゴンは勇者によって既に殺されていたということになる。
そして今、私の目の前で翼を失ったドラゴンも必死の抵抗虚しく、周囲の有象無象の人間達を殺そうと、勇者によって振り下ろされた聖剣によって殺されてしまった。
『ここまで来たら私が行くしかないか。勝手なお願いかもしれないが、君には付いてきて欲しい。ダメだろうか?』
「ううん。最初からそのつもりだよ」
『そうか。それなら良かった』
振り向き、一度私へと笑みを見せた後、すぐさま踵を返して、勇者の前へと向かい始めた。
そして、その後ろではなく、横に立つ私も歩幅を合わせ、勇者の元へと歩き出す。