152話 『無視しか出来ない』
ドラゴンと共に戦場を駆け抜けている最中、当然といえば当然だが、人間達は私達を止めようとして何度も立ち塞がってきた。
けれど、どんなに束になっても私や後続が手を出すまでもなく、先頭を突き進むドラゴンによって蹂躙されてしまっている。
炎を吐き、翼で暴風を巻き起こし、いとも簡単に吹き飛ばされていく人間達。
ただ、それでも人間達はドラゴンとの力の差をまるで理解していないかのように何度も立ち塞がってきた。
けれど、もはや生物としての格が違う相手から繰り出される、その重すぎる一撃の前では無力でしかない。
『雑兵共が、そこまで死にたいのなら望み通り殺してやろう!』
踏み潰され、噛み砕かれ、人間達は次々と死んでいく。
誰も彼もがドラゴンの体に傷一つ負わす事すら出来ずに死んでいくのだ。
こうしてその戦いぶりを目の前で見てしまえば、今では援軍という形で味方だから心強いが、もしも敵だった場合を考えると恐ろしくなる。
そうして、ドラゴンが道を開け、私たちが続いて突き進む中、私たちに向けて助けを求める声や視線が相次いだ。
そして、そのどちらもが私を鎖のように縛りつけようとするけれど、それを力任せに引きちぎるようにして、私は走り続けた。
魔王の元に一刻も早く向かうために、例え僅かでも止まることは出来ないのだ。
つまり、どんなに助けを求められても無視するしかないのだ。
せめてもの助けとして魔法で人間を殺したりしてるが、数が多すぎるが為に、あまり意味を為していない。
『麒麟様! お願いします、子供だけでもお助け下さい!』
『頼む! 助けてくれ! このままじゃ殺されちまうよ!』
「……っ!」
歯を食いしばり、私は何度も何度も無視していく。
でも、無視をすればする程に私の心が折れそうになるし、自分が如何に最低なのかを考えてしまう。
なにより、魔族達がただひたすらに助けを求めているのではなく、抵抗し、子供を守ったりしているのがまた私にとって辛いのだ。
自分たちで出来ることをした上で、それでもどうにもならないのだから助けを求めている。
多分、私が逆の立場でも同じように助けを求めるだろうし、無視をされれば絶望してしまうと思う。
それに、伝説とも呼ばれる存在に無視をされているのだ、私にとって仕方なくとも、相手がどんな思いを抱くのかは容易に想像できてしまう。
ただ、如何に私が想像し、苦しんでいるとしても、人間達にとってそんなものは関係なく、力無き魔族達は蹂躙されるしかないのが現実。
「ごめん、ごめんね……」
私が謝ったところで意味はないし、そもそも聞こえていないのかもしれないけど、それでも私は自分の心を守る為に謝り続けながら魔王の元へと急いで向かった。
今は何よりも魔王の元に向かうことが最優先なのだから。
けれど、そんな私が見るに堪えないのか、先頭を突き進み、道を作り続けてくれたドラゴンは立ち止まり、私へと声を掛けてきた。
『汝の苦しみは手に取るように分かる。だからこそ、汝の代わりとして我が民を救おう』
「……でも、ううん。ありがとう」
『うむ。有象無象の人間など我に任せ、汝は汝のするべき事を為せ』
ドラゴンは私の目を見てそれだけを言うと、颯爽と飛び立ち、虐げられている魔族の元へと向かって行った。
そして、これ以上立ち止まることが出来ない私達も、先程と同じようにして魔王の元へと進み始める。
そうして、立ちはだかる人間を幾度となく殺し、ようやく私たちは魔王の元へと辿り着いた。
城内は慌ただしく、私が帰ってきた事に対して一瞥もくれる事はない。
ーーただ一人、玉座に構える魔王以外は。