149話 『いざ、故郷へ!』
魔族と人間の戦争が始まり、白夜と黒亜が魔王城から出て数日が経過した。
その間、私は白夜と黒亜が戻って来ないかを心配しながら、魔王城を防衛し、何回か攻めてきた人間を返り討ちにしている。
けれど、昨日を境に徐々にここまで攻められる事が多くなってしまい、私は魔王へと状況を聞きに行くことにした。
もしも、状況次第によっては私が初日に考えていた秘策を使わなければならないのなら、私は少しの間この場所から離れなければならないのだ。
勿論、秘策と言いつつ逃げる為とか、白夜や黒亜の元に行く為じゃない。
確かに、2人を逃してから数日も経ち、2人が私が追って来ないことに不信感を抱いている可能性もあるが、どちらにせよ私はここで魔王と共に居続けるつもりなのだから関係ない。
会いたい気持ちや、心配してる気持ちが無いわけじゃないけど、お別れの日に私は覚悟を決めたのだ。
もはや私の中で2人に対して思っていることは、人間に迫害されずに、健やかに暮らして欲しいという思いだけ。
ただ、魔族が人間に勝利した暁には迎えに行き、2人が許してくれるのであればまた一緒に暮らしたいとも考えているが、こうして魔王の前に立ってみれば魔王軍が優勢じゃないなんてことはすぐに理解出来た。
『どうした? なにかあったか?』
「いや、戦況を聞こうと思ってさ」
『戦況……か。そうだな、一言で言うならば劣勢といった所かな。こうも押されていると、人間達を甘く見過ぎていたという事実がのしかかってくるよ』
魔王から聞いた話では、どうやら人間たちは数の有利を上手く使って攻めてきているらしい。
確かに力で劣る人間がどうにかして魔王軍を撃退、或いは殺すのならば数の暴力を使うのが正しい。
ただ、それでも私や魔王よりは弱いとはいえ、魔王軍の幹部なんかは数だけで攻めても勝つことは難しいと思う。
まぁ恐らくそういった力のある魔族に対しては勇者なんかを充てがっているのだろうけど。
とにかく、魔王軍が劣勢だとすれば、私は一刻も早く秘策を使わないといけない。
成功するかどうかも分からないし、私が居なくなるというリスクはあれど、上手くいけば戦況をひっくり返せる可能性は秘めているのだ。
「ねぇ魔王、上手くいくか分かんないけど、援軍を呼びに行っても良い?」
援軍。それこそが私の考えていた秘策だった。
秘策というにはありきたりなものだけど、これ以上まともな戦力を増やせない現状であれば、有効的な策だとは思う。
『援軍、ね。君の事は信頼しているが、そいつは信用出来るのか?』
「大丈夫だと思いたいけど、そもそも来てくれるかが分からない」
『そうか。分かった、君が決めた事なら文句は言わないよ。現状を打破するにはあらゆる手を尽くさないといけないからね。それで、誰を呼ぶつもり?』
「最強に近い味方かな。魔王がもし人間との和平の時に攻め込んでたら戦ってたと思うよ」
『そういう事か。理解した、済まないが頼む』
魔王が納得した所で、私はそれに対して頷き、全速力で魔王城から飛び出し、迷宮へと向かった。
今回呼ぼうとしているのはたった2体のモンスター。
それでも最奥でダンジョンコアを守り続けているドラゴン達だ。
麒麟の一部を捕食し、奪い取った私の言葉を聞いてくれる可能性は低いかもしれないという不安がどうしても拭えないけれど、それでも私は道中に居る人間達には目もくれずに走り続けた。
そうして、なんとか迷宮へと辿り着いた私は、後ろから付いてくる人影がないことを確認した後に中へと入り、下へと突き進んでいく。
当然、懐かしい気持ちなんかもあるが、そんなものに浸っている暇なんかなく、今はなによりも下へと向かうことを優先した。
幸いにも、私の威圧スキルによってか、襲ってくるモンスターはおらず、スライムの時とは段違いの短時間で迷宮の最奥まで辿り着いた。
「急いでるんだから、邪魔しないで!」
しかし、最奥ともなれば私の威圧を物ともしないモンスターが襲ってきており、さすがにドラゴンたちの元にモンスターを連れていくわけにもいかず、魔法を駆使してなんとか撃退していった。
今回、撃退程度でモンスター達の被害が済んでいるのは、私が本気で相手にしなかったからだ。
ブレスを放っても、魔法を最高威力で放っても、どちらにせよ迷宮自体にダメージを与える可能性がある為、私は最小限の力で対抗した。
結果として、幾ら強い私の体とはいえ、この場所のモンスターの攻撃では傷を負ってしまう為に、私自身少なくない負傷をしてしまっている。
まぁ、回復魔法を使えば一瞬で治るわけだけど。
っと、そんな戦いを数度か繰り返し、ようやくドラゴン達の元へと着いた私は、以前と同じ姿ーースライムとなって姿を現すことにした。




