140話 『元凶の魔法使い達』
私の口から放たれたブレスが扉を壊し、辺りを余波で吹き飛ばしていく。
けれど、どうやら待ち構えていた相手はブレスを防いだようで、立ち込める煙の中から幾つもの魔法を放ってきた。
「黒亜! 分裂体の後ろに!」
「うん!」
最早どうやって防いだのか、勇者が居たのかはどちらでも良い。
それよりも、煙という視界が悪い中なのにも関わらず、的のデカイ私ではなく、黒亜を狙ってきたのが問題なのだ。
それも、確実に黒亜を殺すには大きすぎる力で。
でも、相手の試みは上手くいかなかった。
黒亜を守る為に使っておいた分裂体が黒亜に向けて放たれた全ての魔法を受け切ったのだ。
ただ、ここでもう一つ問題が生じてしまった。
魔法の威力は確かに人間相手や幹部くらいならば致命傷を与える威力だったが、私クラスになれば無傷に近い威力。
そう、そこは問題じゃないのだ。
問題と言えるのは、砦の崩壊と、操られている人間達が集まってきているという事。
それは即ち、魔王軍は殆ど殺されてしまったという事実に違いない。
まぁ、そもそも私達が砦に来た時点で恐らく大半の魔王軍の兵士は殺されていたし、全滅させられるのも時間の問題だったのだろう。
「黒亜、周りの人間達を任せて良い?」
「半分のママと一緒なら問題ないと思う」
「良かった。私も出来るだけ早く殺してから助けに行くけど、危なくなったら分裂体と一緒に撤退して。分かった?」
「うん、分かった!」
既に包囲されかけている現状を打破する為には、私と黒亜は別行動しなきゃならない。
私のブレスを受けて、少なからず反撃してきている敵が居る時点で、私は本気で戦わなきゃいけないのだ。
とは言え、黒亜を守る為に分裂体を使っているし、今の私の力は半分程度。
だから、まずは私の攻撃を防いだカラクリを解明する所からスタートしなきゃいけない。
「まずは小手調べから!」
煙が晴れ、黒亜が分裂体と一緒に飛び出したのを見て、私は目の前に居る数十人の魔法使いへと幾つかの魔法を放った。
ん? 待てよ?
私の目の前に居るのって、魔法使いだし、勇者ってもしかして居ないって事!?
てっきりカラクリを解明するとか考えてたけど、どうせ勇者が防いだんだろとか思ってたし、えっ、ちょっと、って事は私のブレスってこんな奴らに防がれたって事?
……。うわー、なんかショックだわー。
いや、凄いよ? 充分凄いんだけどさ、正直勇者と戦うかも! っとか思ってた私からすれば落胆だよ落胆。
それにさー、もう私のブレスを防いだ理由も分かっちゃったんだわ。
何人もの魔法使いが集まって、障壁を張ってるだけでしょ?
あーあ、この程度なら本気出さないとって思って、真剣になったのが馬鹿みたいじゃん。
「うん、さっさと終わらせよっと」
「さっきからガッカリしたみたいな顔しやがって! 貴様の攻撃は我らに止められているのだぞ? それでどうやって我らを殺すというのだ!」
「あー、うん。君たち喋るのね。あ、そうだ。喋れるならついでに教えて貰えない? 君たちがどうせ人間に変な魔法を使ってるんでしょ?」
「あぁそうだ! この魔法さえあれば貴様らなど恐るるに足らんよ!」
「うんうん。それで、君たちを殺したら魔法は解けるわけ?」
「解けるわけないだろう! それよりも、こうして我らに話しかけている間にも、我らの強大な魔法は溜まっているのだぞ! 馬鹿な奴だ。消し済みになるが良い!」
ふーん。こいつらを殺しても魔法は解けないのかー。
んじゃ、勇者もいないし、暴れ回った方が良さそうかな。
っと、危ない危ない。
こいつらの魔法もあながち言葉通り、侮れなさそうだし、まずは相殺かな。
私目掛けて飛んでくる、まるで小さな太陽かと思える程の火球に対し、魔法では対抗出来ないと考え、またもブレスを放つ事にした。
その結果、私のブレスと火球は相殺され、巨大な衝撃波が辺りを襲う。
うわー、マジで私のブレスと変わらない威力じゃん。
割と落胆して侮ってたけど、やっぱりこうなると侮れないかも……。
「あ、ちょっと待った。今なら殺せるじゃん」
解き放たれた衝撃波によって、魔法使い達はなんとか障壁を立てて防ぐ事は出来たものの、集まっていた兵士達は無残にも吹き飛ばされていた。
それはつまり、狂った人間達は黒亜と離れているという事だ。
どれくらいでまた襲ってくるかは分からないし、黒亜を1人にするのは少し怖いが、一瞬で勝負を決める為に分裂を解除した。
そして私の攻撃を警戒している魔法使い達に向け、ブレスを数発放った事により、障壁はなす術もなく破壊された。
「その隙、見逃さないから!」
障壁が消えた瞬間に私は飛び出し、爪を使って殺し、牙を使って噛みちぎり、辺りには死体の山が築かれた。
けれど、まだ油断は出来ない。
厄介な奴らを殺したのは良いが、黒亜の元には兵士たちが集まり始めているのだ。
「なんだよこいつ、こんな力を持ってるなんて本物の化け物じゃないか……」
「伝えなければ……魔王と同等の力を持っている事を……仲間に伝えないとーー」
衝撃波を防ぐために砦の瓦礫に隠れてやり過ごしていた黒亜の元へと分裂体を送りながら、私は死屍累々となっている場所を見下ろしていた。
「ーーなんだまだ生きてたんだ」
声を出さなければ私は気付かなかったかもしれないのに、こいつらはわざわざ喋ってしまった。
最早見逃すことなんて出来るわけがない。
残酷かもしれないけど、きっと皆で死ねば怖くはないはずだ。
だから私は、死体の山を消し炭にする程の威力を持った魔法を放った。




