136話 『白夜の気持ち』
お姉ちゃんとママが2人だけでモンスターを倒しに行ってから数日、私はというと日々料理や掃除に勤しんでいました。
もちろん、ママやお姉ちゃんが喜ぶ顔が見たくて、帰ってくるのを楽しみにして欲しくて、怖くて戦えない私でも役に立つためにやっている事だけれど、それでも私の心は少しずつ温もりを欲しがります。
それもこれも、全てはお姉ちゃんの所為。
悪いとか嫌いになるとかそういうのではないけど、あの日の一件からママは黒亜と一緒に稽古したり、お話を沢山している。
そんな光景を見てると、なんだか話に入りづらい気がして疎外感を感じてしまうのだ。
けど、私が寂しく甘えたいからと言って、ママに抱きついたりしてしまえば、それはきっと迷惑になってしまう。
例え、ママが「迷惑じゃないよ」っと言ってくれたとしても、私自身がそう感じてしまうし、そんな風に考えてしまう。
これは私の悪い癖だし、こうやって臆病になってしまう性格も本当は直すべきなのだと思う。
だけど、私は直せない。
ーーもしも直してしまえば私はママから見放されてしまう気がしてしまうから。
「ママー! 今日は私の武器を買いに行く日だよね?」
「そういえばそうだったね。どんな武器を使うか決めたの?」
「うん! 決まってるよ!」
今日はお姉ちゃんとママがこれから先の戦いの為に武器や道具を買いに行く日。
日を決めてからというもの、お姉ちゃんは毎日ワクワクしながら私に話しかけてきたり、相談してきていたのもあって、今日のお姉ちゃんは物凄くテンションが高く、眩しい笑顔をママに見せていた。
対して私はというと、繕った笑顔で2人を見ているだけ。
というのも、そもそも私に必要な物というのはこの魔王城に揃っているし、買い物に行く必要性がないからだ。
しかし、そんな私の繕った顔などママにはお見通しのようで、困ったような顔をしながら私に話しかけてきた。
「白夜も一緒に行く? ほら、白夜にも念のため武器とか持っておいて欲しいしさ」
「ううん。私は大丈夫だよ」
私の返答にママはより困った顔をしてしまった。
それもその筈、なんとなく私はママが私を見て仕方なく連れて行こうとしていると思ったから、こんな返答をしたのだ。
ただ困らせる為に。
嫌な性格をしているのは分かってる。最低だとも思う。
「えー! 白夜も一緒に行こうよ!」
「ほら、黒亜もこう言ってるし、一緒に行こ?」
「……分かった」
多分ママはいつもの私と違うと気づいている。
むしろ、私が気づかせようとしているんだと思う。
こんな事をしてママを困らせ、心配させるのは悪い事だと理解しているけど、それでも私はやめない。
いや、やめられなかった。
それから私はママとお姉ちゃんと一緒に買い物へ行き、2人が楽しんで買い物しているのをただ眺めていた。
勿論、少なからず私を気にかけて話しかけてくれていたし、3人での買い物は楽しいか? と聞かれたら楽しいと答えられる。
それに、なんだかんだお姉ちゃんだけの買い物じゃなく、お姉ちゃんがモンスターを倒す為に使う真っ黒の短剣と対になっている真っ白の短剣も自衛用に買ってくれた。
……でも、それだけじゃ私は満たされない。結局の所お姉ちゃんの方が買ってもらっているものも多いし、ママと手を繋いで沢山お話ししているんだから。
日が沈んで、辺りが暗くなってきた頃に私達の買い物は終わり、家へと戻った。
けれど、私は相変わらず繕った笑顔しか出来ず、だんだんと自分の事を気持ち悪いとさえ思ってしまっている。
そして、そんな私を見兼ねたのか、お姉ちゃんが楽しそうに今日買った物を見ている隙に、ママは私と目線を合わせるように屈んで話しかけて来た。
「今日はずっと自分を繕ってたね」
私はママの言葉に驚いた。
なにせ、誰にも気付かれてないと思っていたから。
お姉ちゃんもいつもと変わらなかったし、ママだって普通だったはず。
なのにママには全部お見通しだったのだ。
「気付いてたの……?」
「うーん、私も昔は色々誤魔化したりする為に表情とか繕ってたからね」
そんな事を言いながらママは苦笑いする。
きっとあまり話したくない事だったのだろう。
「そうなんだ」
「うん。……あのね白夜、多分白夜は私を困らせたりしないように繕ったのかもしれないけど、私はほら、ママなんだしさ、沢山迷惑を掛けても良いんだよ?」
「……でも……」
「白夜が優しいのは分かるよ、でもね、嫌な事とか、何かして欲しいこととかあったら言ってくれた方がママからしたらとっても嬉しいんだ。ほら、私がこうして困るよりも白夜が困ったり我慢する方が嫌だからさ」
微笑みながら私に向かって言うママの顔を見て、心の中に溜まっていたものが全て壊れたように、目からは涙が零れ落ちていく。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
言いたいことがもっとあるはずなのに、私の口からはその言葉しか出てこなかった。
「大丈夫、大丈夫だよ。ずっと我慢してきたんだね」
泣いている私を抱きしめ、頭を撫でるママ。
暖かい抱擁が私の心を溶かすように、涙は少しずつ止まっていった。
「ねぇママ、わがまま言っても良い?」
「言ってごらん」
「今日ね、寝るまで一緒に居て欲しいな……お姉ちゃんには悪いけど……」
私のわがままを聞いたママは、私の耳に口を近付け、返事をした。
「あのね、黒亜も今日の白夜の様子が変って言って困ってたから、ちゃんとお話ししてくるなら一緒に居てあげる」
「ホントに!?」
「うん、ホントだよ」
全部筒抜けだった。
ママにもお姉ちゃんにも。
けど、悪い気はしない。私をちゃんと見てくれていた証のような気もするから。
だから私は、ママ言われてすぐにお姉ちゃんの元へと向かい、話しかけた。
「お姉ちゃん、今日はごめんね」
「ん? なんの事?」
「ううん。なんでもない。それでね、今日は私が寝るまでママと一緒に居ても良いかな?」
「良いに決まってるじゃん! 最近は私ばっかりママと居たし、それに白夜がこうしてお願いしに来てくれるだけで私は嬉しいんだから!」
「うん! お姉ちゃん、ありがとね」
お姉ちゃんとお話しし、それから私はママと一緒に今日を過ごした。
同じベッドで私の目が閉じるまでの間、私はママと話し続けた。
「ママ、今日はごめんね」
「そうだね。今度からはもう少し素直になろっか」
「うん!」
こうして思えば、当たり前かもしれないけれど、お姉ちゃんも優しいし、ママも凄く優しい。
私のわがままを聞いてくれて、甘やかしてくれんだから。
それに、多分だけど私がなんとなく嫌な気持ちになったのはママを取られた気がしただけじゃなく、きっとお姉ちゃんを取られたような気もしたからだと思う。
だから、今度からはママの言う通りもう少し自分を曝け出してみようかな。




