134話 『初めてのお使い2』
それから、2人は人を避けながら進み始め、一番近い最初の目的地である店へと辿り着いた。
魔王が選んだお店だからなのか、私が見て感じた限りでは店主は人間であろうと特に気にしている様子はなく、逆に2人へと挨拶し、緊張をほぐす為に会話までしてくれているようだった。
「さっきのお店の人優しくて良かったね」
「うん! 分からない物もちゃんと教えてくれたし、すっごく優しかった!」
私の懸念していた問題として、2人が人見知りして話し掛けられても無視をする可能性があったけど、問題はなかったみたい。
それに、今の一件が2人に余裕を与えたのか、白夜も辺りを見渡しながら楽しそうに歩き始めている。
2人が子どもということもあって、手を振ってくれている人挨拶してくれる人が何人も居たが、そのどれもに2人は返事をしていた。
「……やっぱり私居なくても大丈夫そうかな?」
ここまで少しの間見守ってきたが、殆ど問題なさそうで、危険な事も起きなさそうな雰囲気だった。
だからこそ、大丈夫と判断し魔王城に戻ろうとした時、危惧していた事が起きてしまったのだ。
いや、起きたというよりも起きそうというのが正しいだろう。
なにせ、2人を殺意の篭った視線で見ている複数の魔族が居るのだ。
それもまさかのバッドタイミングで、メモを見ても道の分からなくなってしまった2人が、その魔族へと話しかけてしまっている。
止めようにも止められない。
見ている事しか出来ない私は、何か起きた際にすぐに飛び出していけるようにとなんとかバレない位置まで近付き、会話を聞くことにした。
「すいません。この店ってどうやって行ったら良いんですか?」
『あぁん!? そんなの知るかよ!』
「ご、ごめんなさい。お姉ちゃん、やっぱり自分達で探そ?」
「そうしよっか。話しかけてしまってごめんなさい」
魔族の第一声で怯えてしまった白夜を見て、黒亜も離れるべきと判断したのか、頭を下げてからメモを見て、考え始めた。
しかし、この魔族の中で少し話し、頭を下げられた事で拍子抜けしたのか、殺意を消し、メモを一緒に見始めたのだ。
『あー、この店か。俺もたまに行くし、どうせなら一緒に行ってやるよ。危ない魔族も居るかもしれねえしな』
「良いんですか?」
『あぁ。それと、なんだ。悪かったな。怒鳴ったりしてよ』
「こっちこそ急に話しかけてごめんなさい!」
『いや、謝る事じゃねえよ。そっちの隠れてる嬢ちゃんも悪かったな』
すっかり良い人になった魔族に対し、白夜も首を振り、大丈夫ということを示していた。
きっとこの魔族も根は良い人で間違いないだろう。2人を騙そうとしている気配もないし、純粋に子供だから心配してくれているのが分かる。
最早この一連の出来事を見てしまった今、私が見守る必要はない。
そう思い、私は魔王城へと戻る事にした。
『なんだ、もう帰ってきたのか。随分早いお帰りだな』
「2人なら大丈夫そうだったからね。それに、殺意しかなかった魔族が2人と少し話しただけで優しくなってたみたいだし、心配ないと思ったからかな?」
『そうかそうか! それは良かった!』
魔王は自分の考えていた通りになった事が相当嬉しかったのか、喜びつつも少しだけ安堵していた。
魔王と話し、自室に戻ってから数刻が経ち、白夜と黒亜が帰ってきた。
既に荷物は魔王へと届けており、持っている物は何も無い。
「初めてのお使い、どうだった?」
「楽しかった!」
「ちょっと怖かったけど、楽しかったです」
黒亜は余程興奮しているのか、私にお使いの話を最初から最後までしてくれて、その内容の中にはやはり道を聞いた話も含まれていた。
どうやら、何度か道が分からなくなったらしく、その度に色んな人に聞き、どの人も優しく教えてくれたそうだ。
「楽しかったなら良かった。2人がちゃんとお使い出来て私も凄く嬉しいよ」
言葉と共に2人を抱きしめ、少しの間その温もりを味わう。
ただ、私に抱擁されている中で白夜は少しだけ俯き、それを見た黒亜は白夜が俯いている理由について話し始めた。
「ママ、ごめんなさい。私達、その、我慢出来なくて勝手に食べ物買ったり、寄り道しちゃった……」
「ママに内緒でこんな事してごめんなさい……」
たったそれだけのことで謝ってくる2人に私は呆然としてしまいそうになるが、確かに寄り道なんかは危険である事に違いはない。
でも、果たして怒るべきなのだろうか。
自分で考えて行動し、それで楽しめたのなら良いのではないか? と思えてしまう。
きっとそれは私が今まで自由に行動してきたからだろう。
でも、そんな私が親代わりなのだから、私は怒れない。
むしろ、嬉しく思えるのだ。
「全然それで良いんだよ。その為にお金を多く渡したし、2人で考えて、楽しんでこれたなら私も嬉しいからさ。それに、私の許可なんて別にいらないし、なにより物を買ったりする勉強にもなったでしょ?」
っと、私は頭を撫でながら2人へと告げた。
ほんの少しでも罪悪感を消せるようにと。
斯くして、2人の顔は明るくなり、私の顔を見ながら笑顔で「うん!」と返事してくれるのだった。
「それじゃ、一緒にお風呂行こっか!」
「「はーい!」」
初めてのお使いかぁ。
最初は心配だったけど、こうしてちゃんと出来たみたいだし、なんだかんだ魔王の提案に乗っかって良かったのかな?
でも、なんだかこういうのを続けていくと2人はきっとどんどん親離れしちゃうんだろうなぁ。
……はぁ。なんだかちょっと寂しいかも。




