132話 『双子の進む道』
砦での戦闘も終わり、私は魔王への報告も兼ねて魔王軍よりも先に魔王城へと帰還した。
報告もしなきゃいけないのは分かっているけども、めんどくさい事は後回しにしたくなるタイプの私は、ひとまず自室に戻って癒されようと決めていた。
が、なんと私の部屋には既に魔王が存在し、私の驚いている顔を見てニヤニヤと笑いはじめた。
『おや? 私への報告がまだなのにどうしてここに居るのかな?』
「それは、えーっと、疲れたから?」
『疲れたからって報告を後回しにする馬鹿がどこに居るんだ!』
「え、でも大体どういう風に終わったか想像つくでしょ?」
『はぁ。まぁおおよそは予想ついているさ。砦は崩壊、死者多数、それも自軍の兵士を巻き込んでの大暴れ。そんな所だろう?』
おおっ! 凄いな!
私の行動がちゃんと理解出来てる! さすが魔王って感じ!
あ、でももしかして私の事を監視する魔法とかあるのかな?
それで私をじっくりと見ていたりして……。
「魔王の予想通りだけど、どうして分かったの?」
『君のことはおおよそ理解しているさ。君の力を使うと決めた時からこれくらいで済めば安いものだとも思っていた。唯一心配だったのは全てを無に還してしまわないかどうかだけさ』
「そう。ならもう報告は済んだし、白夜と黒亜に挨拶して良い?」
私が魔王と話しているからか、遠慮してこちらをチラチラと見る程度に済ませている2人へと私は一刻も挨拶がしたかった。
あの純粋な笑顔で「お疲れ様」とか、「おかえりなさい」を言ってもらう為に全力を出してすぐ帰ってきたのだから、もう魔王と戦いの話なんてしたくもない。
『はぁ。良いぞ。大まかな事は分かったし、詳しいことは後で他の者から聞くとしよう』
「ありがとう。あ、それと私が居ない間白夜と黒亜は大丈夫だった?」
『その2人に関しては特に問題はない。なにせ私が一緒に居てあげたからな!』
「なっ! ズルい! 私だけ戦いに行ってたのに魔王は2人と遊んでたってこと!? 許せない!」
『お、おう。まさかそんな怒るとはビックリしたではないか。まぁでも私が居るおかげで誰も手を出す事は出来ないのだから守るという点においてはしっかりと果たしたし、許してくれ』
「むむむっ。しょうがない。許してあげる」
私の態度が余程だったのか、魔王は呆れたまま部屋を出ていってしまったが、そんな魔王は置いといて私は白夜と黒亜の元へと駆け寄った。
「ただいま」
「ママ! おかえりなさい!」
「ママー!」
私が駆け寄るつもりだったが、様子を伺っていた2人は話が終わったのを理解したのか、涙を流しながら私の元へと飛び込んできた。
私が2人から離れていた時間は、おおよそ3日程度。
たったそれだけかもしれないけれど、2人にとっては長い時間だったと思う。
というか私にとっては長かったし、寂しかった。
つまり、今こうして飛び込んできてくれるのは凄く嬉しくて堪らない。
「あわわ。ごめんなさい!」
「ママ、大丈夫?」
既に人間形態へと戻っている私は、2人の飛び込みを受けてそのまま倒れ込んでしまった。
幸いにもスライムに戻る程ではないけれど、たった2人分の力が急に加わるだけで倒れてしまうのは考慮しないといけないかもしれない。
この先も2人をちゃんと抱きしめる為に。
「大丈夫だよ。それよりももっとギュってしていい?」
「うん!」
「良いよ!」
2人を苦しくない程度に抱きしめ、幸せを噛みしめてから戦いの話、主に私の活躍やどんな事をしたのかというのを聞かれた為、多少脚色して2人へと話をした。
話している途中は終始私を褒め、どんな事でも「凄い!」と言ってくれる。
きっと毎回こんな風に褒められれば誰でも自己肯定感は高まるだろう。
「はい。私のお話はおしまい。2人は私がいない間大丈夫だった?」
「うん! 沢山稽古したりしたよ!」
「わ、私はお姉ちゃんと違って、掃除とか料理とか沢山教えてもらった!」
「そっかそっか。2人とも偉いね」
「「えへへ〜」」
頭を撫で、私は一つ考える。
黒亜がしていたのは戦闘の稽古である事は間違いなく、魔王が自主的にやらせる可能性はあれど、恐らくは私の戦いにこれから先付いて行こうと考えているからだろう。
そして、その逆に白夜は使用人に色々と教えてもらい、私に付いていくのではなく、待つ事を選んでいる。
私個人としては2人に危険な所へは付いてきて欲しくはない。
「黒亜は今回みたいな時に私に付いてくるために稽古してもらったの? それとも普通に強くなりたいから?」
「ママと一緒にいたいから!」
あちゃー。即答かぁ。
まぁ人それぞれの人生だし、ここで駄目っていうのもなぁ。
ま、多分この判断は放任といえば放任になるし、子供を死地へと向かわせるのは親として止めるべきだろうけどね。
「そっかぁ。でも黒亜がもっともっと強くなってからじゃないと駄目だからね?」
「うん! ママみたいに強くなってから一緒に行く!」
最低限。そう、最低限強くなってもらわないとならない。
私や魔王はともかくとして、普通の魔王軍の兵士よりも強くなってもらわないと万が一にも私が殺してしまう危険性がある。
回復すればどうにかなるという問題ではなく、私が怪我をさせたとかになっちゃ困るのだ。
「それで、白夜は黒亜とは違う道を選ぶんだね」
「……うん。ホントは私もお姉ちゃんみたいに付いていきたいけど、ちょっと怖くて……」
「ううん。それで大丈夫だよ。私や黒亜も待っててくれる人がいたら元気が出るし、頑張れるからね」
「そっかぁ。それだったら私はママやお姉ちゃんの事を沢山元気にさせれるようになる!」
「うんうん。皆で頑張って、早くゆっくりと暮らせるようにしようね」
「「うん!」」
沢山話をしたからか、既に白夜の眠気は限界突破しており、目は殆ど閉じ掛けていた。
黒亜に至っては既に寝ていた為、私は2人をベッドに移動させてから、その寝顔を見て優しく微笑んだ。
「皆でゆっくり暮らせるように、か。これから先何事もなく、魔王の夢物語が実現すれば有り得るかな」
人間と魔族の共存。
その道のりは険しく、まさしく夢物語だ。
けれど、それが実際に叶ってしまえば世界は平和になるだろう。
……叶うことがあればだけれど。




