127話 『離れられないのは私?』
私は魔王に付いていく。そう決めて、覚悟もある。
けれど、白夜と黒亜はどうするべきなのだろう。
2人は人間であるし、魔王に付いていくというのなら人間とは決別しなければならないという事。
……でも、そもそもの問題として白夜と黒亜を魔王の理想に付き合わせるかどうかを私が決めることはできない。茨の道で死ぬこともあるだろうし、命を賭けるつもりでないと付いてはこれない道。
2人を守りたい意志もあるけれど、私といたら危険な間に合うのであれば人間に渡すか何処かで2人で暮らしてもらうほかない。
2人に聞かない事には纏まらない。
結局のところ、私が親代わりだとしても人生を決めるのは2人自身なのだから。
まぁでも、白夜と黒亜が私をママと呼んで慕っているし、おおよそ2人の返答は予測出来てしまう。
「……絶対2人とも付いてこようとするわ」
私の小さく呟いた独り言に反応するかのように扉がもう一度開き、私は魔王が戻ってきたのだと勘違いした。
しかし、姿を現したのは離れさせた予想外の人物。
扉の前で聞いていたのか、私を心配そうな目で見る白夜と覚悟を決めたかのように真っ直ぐこちらを見つめる黒亜だった。
「ママ。私も付いて行きたい」
「わ、私も怖いけど一緒に行きたい……です」
恐らく全てを聞いていた2人は案の定付いていくと私に言ってきた。
けれど、どんなに懇願されようと私は連れて行く気はない。
白夜と黒亜が魔王ではなくて人間側に付くと言ったとしても、宣戦布告してきている人間に渡すのは危ない気がしてならないのだ。
「2人は連れて行かないよ。ちゃんと休んでて」
「でも! ママだけ辛い思いするのは……」
「私は大丈夫だから。2人には人を殺して欲しくないの。いつかもっと成長したら頼むかもしれないから、今日は私の言うことを聞いてくれる?」
「だ、だけど……」
「お姉ちゃん。ママの言う事は聞こ? 今度連れて行ってくれるって言ってくれてるし」
「……分かった」
不貞腐れながらも、黒亜が了承してくれたお陰で2人が付いてくるということはなくなった。
これで魔王の結界が存在する安全な場所で2人は守られる事になる。
魔王の結界は以前魔王に直接聞いてみたところ、魔王と同じ程度の力をぶつけないと壊せない代物らしく、魔王が動けないという点を除けば防御としては最高峰だろう。
「ごめんね。そろそろ行かなくちゃ」
「うん! 頑張ってねママ!」
「……すぐ帰ってきてね」
まるでいつもとは真逆のように、黒亜がボソボソと喋っている。
余程私に付いてきたかったのだろう。
正直白夜と黒亜に戦闘能力があって、死なないし負傷もないという保証があって、人を殺さないのであれば連れて行っても良いけれど、戦いというのはそう簡単なものじゃない。
お互いに死を覚悟し、命を削り合うのが戦いだ。
戦場は地獄絵図で間違いないし、私が守り戦うのは無理かもしれない。
だから、頼むからそんな懇願するような目を私に向けないでくれ。
「すぐに帰ってくるから良い子にして待ってるんだよ?」
魔王城に2人を置いていく危険性も少しは考えてしまうが、魔王が居るのであればひとまずは大丈夫だと信じたい。
毒殺や暗殺が来るかもあり得るし、誘拐もあるかもしれない。
考えれば考えるほど私が離れるだけで2人は無力で、言ってしまえば弱者なのだと思えてしまう。
でも、そんな事を考えていたら私はいつまで経っても離れられないし、2人も私から離れる事はできない。
これから先生きていく上でそれじゃダメだ。
私から離れても生きていけるように、もし私が死んだとしても……だ。
「……ちょっと本気出してすぐに帰ってこよっと」
少し厳しく考えたとしても、私の心は未だ2人から離れたくない気持ちがある。
もしかしたら、この先白夜と黒亜と離れることが出来ないのは私かもしれないという不安が私を襲うけれど、とりあえずそれは無視する事にした。




