125話 『重要な話』
魔王と共に魔王城で暮らすようになってから数日が経過した。
既に魔王も白夜と黒亜の寝顔を見て、2人を気に入ったらしく、魔王城の全ての人間に私の変身状態と白夜と黒亜には手を出さないようにと命令し、私達専用の部屋を与えてくれ、今のところ何不自由なく暮らせている。
既に白夜と黒亜の才能がない事は魔王も分かっているものの、魔王城の庭での稽古は基本、魔王直属の部下がしてくれるという約束も取り付けており、自衛出来るくらいには育てるのを協力してくれるとのことだった。
また、出てくる料理に関しても人間に合わせた物であり、私たちの部屋も広く、生活に必要な物はある程度揃えたりしてくれているという点からも、魔王に感謝してもしきれない程だ。
随分長かった気がするけれど、ようやく私の望んだ平穏な生活が手に入っている。
……ただし、今の生活も一つの条件がある。
それは魔王軍に入るという事。
私の実力を知っているからこそ、有効利用しない手はなく、私の望みを叶える代わりに、魔王軍の仕事を手伝えという事だ。
まぁ当然断れない。というか、断る理由もない。
今の生活が出来ているのは魔王のお陰だし、感謝として少し手伝うだけだ。
でも、そもそも他の魔族なんかからすれば好待遇でズルいと思われてるだろうし、人間なんかにと魔王軍は考えていると思う。
現に、私が魔王直属の右腕として扱われている事に魔王軍幹部は不満を抱いているらしいしね。
けど、麒麟である私に勝てないからこそ表立って言ってこない。
白夜と黒亜も私の娘というのが既に魔王からも私からも知れ渡っているからこそ、強硬手段を取って人質にしたりなどが起きる事はない。
私からの報復を恐れているのか、はたまた魔王の言葉だから従っているのか、恐らくは両方だ。
白夜と黒亜に関しても、最初は怯えて私から離れなかったものの、今では時折部屋に来る魔王にも敵対心は見せず、部屋の中では自由に生活している。
「白夜と黒亜は今の生活に不満はない?」
「うん! 服も綺麗だし、お風呂も毎日入れるもん!」
「私もお姉ちゃんとおんなじ……ベットもフカフカだし、なによりママと一緒に居れるから嬉しい!」
「あ! 私もママと一緒だから嬉しい!」
「そう。それなら良かった」
普通の人からしたら些細なことかもしれないけど、服を綺麗なのに変えれるって事や、お風呂も毎日入れる。
そんな事ですら喜んでくれてるのだから、私としても嬉しい限りだ。
ただ、私はこの子たちはともかくとして、他の奴隷のような存在が過酷な環境で暮らしているこの世界が怖くなってしまった。
けれど、今更私がこれ以上助ける事は出来ないし、この子たちも今まで不幸だった分、幸せにしようと私は誓った。
『やあ! 皆元気かい?』
私が白夜と黒亜を見て微笑んでいるその時に、ドアをノックもせずに入室してきたのが魔王だった。
「来るのは構わないけど、ノックくらいしてもらっても良い?」
『ははっ。魔王に対してそんな事を言えるのは君くらいだよ。けど、私は魔王だからね。この魔王城はあくまでも私の物。だから、私は君に何を言われようとノックはしないよ』
「はぁ。まぁ住まわせてもらってる以上仕方ないか」
『そういう事。さてさて、そこの2人も元気にしてるかい?』
私を素通りしていき、白夜と黒亜へと話しかけている魔王は一体何をしにここに来たのか。
おおよそ魔王軍についての話だと検討はつくけれど、正直言って聞きたくない。
だって、このまま私はずーっと平和に過ごしたいもん。
出来る限り手伝う気ではいるけどさ、何もないならそれで良くない?
だから、私からは絶対に話を振らない。
めんどくさいのは嫌だもん。
『おっと、こんな事をしてる場合じゃなかった。少し君たちのママと2人でお話をしても良いかい? 重要な話だから、君たちはお風呂にでも入っててくれ』
はぁ……。重要な話しかぁ。
すっかり白夜と黒亜も魔王の言うことを聞いてお風呂に行っちゃってるし、これは話を聞くしかないか。
「それで、白夜と黒亜に聞かれたくない話って何?」
『単刀直入に言うけど、人間との戦の話さ』
戦。つまりは人間との戦争だ。
本格的な全面戦争ではないにしろ、戦となれば多少なりとも死者は出るし、私も立場上人間を殺さなければならない。
そうなれば、少なくとも子供に見せるものでもないし、聞かせる話でもないだろうと魔王も判断したからこそ、2人の会話にしたのだろう。
まぁ、魔王も体格だけ見れば子供にしか見えないのだけれど。




