122話 『魔王とお話タイム!』
『さて、どこから話そうか。とりあえず名前からかな。多分もう分かっていると思うけど、私は魔王、サタキニア14世。見ての通り可愛い女の子さ』
うわぁ。
こんな最初から拍子抜けする事ある?
私めっちゃ敵対心持ってたのに、今の自己紹介で力抜けちゃったじゃん。
いや、確かに可愛い女の子である事に間違いはないんだよ。
けどさぁ、それを自分で言って、尚且つポーズを取っちゃうのはどうなのかなぁ……。
『今絶対引いたよね。分かるよ、私には分かるから!』
「あーうん。そうだね。とりあえず話を進めてくれる?」
ここで反論したら絶対にめんどくさいし、ここは無理やりにでも話を進めせないと。
魔王の力が想定よりだいぶ強いし、話次第では逃げないといけないんだから。
『はいはい。それじゃ話を進めますよーだ。って言っても、私から話すことなんてないんだけどね。だって、会いに来たのは君たちなんだしさ』
確かに魔王と会うのを願ったのは私である事に間違いはない。
つまりは私から質問、或いは話を振っていかないといけないって事。
「分かった。とりあえずさっき城下町で見た人間に似た人たちは魔族って解釈して良いの?」
『うん。それで正しいよ。例えばモンスターの持つツノや尻尾、羽や牙なんかを持つ人に類似した存在を初代の魔王が魔族と定めたんだよね。まぁ、とは言っても、モンスターにより似て生まれる存在も魔族だ。即ち、君たちの知っている普通の人間ではない者はおおよそ魔族だと解釈してもらって構わない』
「それは、モンスターとモンスターから偶然生まれたりする存在って事?」
『いーや、モンスターと人間から産まれるのが魔族だ』
魔王の言葉通りならば、魔王軍にいたモンスター達もある程度は魔族という認識で良いのだろう。
いや、ほぼ全てと言っていい。
モンスターなのに知能があるのではなく、魔族として産まれたからこそ人間としての知能もある程度併せ持っているという事。
「理解した。それじゃあ次、どうして私を殺そうとしたの? 返答次第によっては逃げるか殺すからちゃんと教えて」
『うーん……一言で言うのであれば力試しかな。君が強いというのはすぐに分かったからね。もし、さっきの一撃を避けられないかもしくは防げなかったら本気で殺すつもりだったよ』
「私が反撃するとは考えてなかったという事ね」
『いや? 勿論それも考えたさ。当然反撃も視野に入れた上で試したよ。まぁ反撃してきたらそっちの双子の人間は殺していたから君は賢い選択をしたって訳さ』
「そう。あんたが白夜と黒亜を殺したら確実に私が殺してるから、あんたも賢い選択をしたね」
『あはははっ! それは面白い! 私に勝つつもりでいるなんて! 傑作だよ!』
うざいうざいうざい!
なんかこいつのこと嫌いだわ! 初対面だけど凄い嫌い!
性格最悪だし、その上力は強いし、もう本当に魔王って感じ!
……あ、こいつ魔王か。
「ママ、あの人強いの?」
「バカ! ママの方が強いに決まってるじゃん!」
「黒亜の言う通り。私の方が強いよ。私は最強だからね」
確かに私から見て魔王は強い。
けど、それでも私に勝てるほどじゃないのは分かる。
まだ本気を出したところを見ていないからかもしれないけど、相討ちはあっても、私が一方的に殺される事はない。
ただ、これは私1人だったらの話。
白夜と黒亜を庇いながらだと負ける可能性は大いに出てきてしまう。
『……へぇ。面白い事を言う人間だね。元々呼んでもなく、喋る権利すら与えてないけど、魔王である私の方が弱いと言うのか』
「2人を殺したら本気で私は暴れ回るからね」
『ちっ。分かった分かった。君が連れてきた人間だし、ここに居ることは許す。……けど、次に私と君の会話を邪魔したら殺すから』
それから白夜と黒亜には少しの間喋らないようにしてもらい、私と魔王は話し続けた。
私の本来の姿や、元々が人間であるということ。既に人間を殺す事に躊躇はないけど、今はただ白夜と黒亜と共に平穏に暮らしたいという事なんかの話もした。
当然、スライム時代の迷宮での死闘や、魔王の過去や今何をしたいのかなど、魔王についても詳しく聞き、夜になり、太陽が昇るまで話し続けた私達はいつの間にか仲良くなっていた。
『君には話しておこうか。私は魔王だけれど、人間は嫌いじゃないんだ。建前上さっきのように双子に対しても厳しくしなければならないけど、それは本心ではない。私はね、人間と共存したいと考えているんだよ』
「それは難しいと思うよ。例えば私が人間に変身すれば人間は私に好意的になってくれるけど、それはあくまで同一個体として、つまりは人間として認識してくれるからこその対応。だけど、モンスターとなれば話は別。人間は多分心からモンスターが憎いんだと思う。理由は分からないけどね」
どうしてモンスターが人間を襲うのか、そして、人間はどうしてモンスターを殺すのか。
お互いに排除しなければならない対象として刷り込まれているからこそ敵対しているんだと私は考えている。
いつからそういう考えに至ったのかは分からないけど、少なくとも人間は物心つくときにはモンスターを殺すべき存在と考えているだろう。
それほどまでに人間はモンスターが嫌いなのだ。
でも、逆にモンスターは少し違う。
確かにモンスターと一口に言っても沢山存在するけれど、人間とモンスターの間から生まれた魔族は心から憎む事はあまりないと魔王が教えてくれた。
ただし、よりモンスターに近い魔族はそういった意識が大きいらしく、逆に人間に近い方は敵対されるからこちらも敵対意識を持つだけとの事だ。
『ま、というわけで私は魔王として人間を滅ぼさない程度に遊んであげている訳さ。魔王軍の連中も人間よりは強いし、私なんかほら、君も分かるだろう? ーー人間からすればあまりにも強すぎるのさ』
「私は魔王が現状を続けていきたいならそれを支持するよ。最初は嫌な奴でしかなかったけど、今じゃ少しは友人みたいに思えるからね」
『……友か。それは嬉しい。さて、とりあえず話は終わるとしよう。ひとまず君は人間に変身して魔王城で暮らしてくれ。魔王軍幹部と連絡を取ってから、君たちの処遇を決める』
「捕らえて殺すとかは勘弁してよ?」
『はっはっは! 私が居れば大概どうにかなるさ。いや、どうにでも出来る。私は魔王だからな』
「そりゃ頼もしいね」
お互いの全てを曝け出した今、私達は少なからず友と呼べる存在になっていた。
きっとお互いに強すぎたからこそ、こうして話が合ったのだろう。
今の私になって初めて出来た友達だ。
まだ日は浅く、本当に会ってから1日程度しか経ってないけれど、ここまで気が合うのだから、多分私達は親友になれる。
そんな事を考えながら、私は白夜と黒亜を連れ、謁見の間を離れるのだった。




