120話 『内部突入!』
魔王城までの道のりはそれほど遠くもなく、火龍の背に乗ってから数時間で辿り着く事ができた。
それに、白夜と黒亜が落ちないようになのかは分からないけど、火龍がそれなりにスピードを落としていたのが分かったし、私が本気で走ればもっと速く辿り着けたと思う。
ただ、火山を簡単に抜けることができたり、景色を見ながら辿り着けたのだから今更私の方が速かったなんて言うのは送ってくれた火龍に対しても失礼でしかない。
っと、まぁ結果的に魔王城のある街に辿り着いた後、火龍は私達を降したらすぐに火山へと戻ってしまい、途中で目覚め、景色を見て喜んでいた白夜と黒亜と共に私は呆然と立っていた。
なにせ、目の前には人間っぽい兵士がいるのだ。
それも私達を凄い怪しい目で見てきているという事実。
まぁそりゃ明らかに人間である私達が怪しいのは分かるけど、ジロジロ見過ぎじゃないかな?
ほら、白夜と黒亜も怯えて……。
「すごーい! ほら見て白夜! おっきいお城あるよ!」
「う、うん。でも、ママからあんまり離れないほうが……」
あ、うん。
子供って純粋だなー。
全く怯えてないし、ってか逆に驚いてるとか、ワクワクしてる感じだし。
けど、さすがに門に近付きすぎかな。だってほら、門兵がやってきちゃったもん。
『貴様ら! ここで何をしている!』
「あ、いや、そのー、魔王様が話をしてくれるとの事なんで……」
『嘘をつくな! 魔王様が貴様らと会うはずなどがない!』
「ママは嘘なんてつかないもん!」
「そうだそうだ! ママは凄く強いんだから!」
「うんうん。でも、今は強さは関係ないかな。とりあえず、私が話をするから少し離れててね」
「「はーい!」」
私を庇ってくれた2人に笑顔を向けた後、私は2人を離れさせ、麒麟へと姿を変えた。
それを見た兵士は他の兵士へと通達し、やがて魔王の元へと話が通ったのか、私達は街へと入る事が出来た。
「すごい! すごいすごいすごい!」
「お、お姉ちゃん!」
「あっ、ごめんなさい……」
「大丈夫だよ。私も微笑ましいしね」
私の側を離れようとしない白夜と、1人で走り回っている黒亜。
ただ、白夜も内心ではワクワクしているのが分かるくらい顔に出ているし、今までこういった街に来たことはなかったのだろう。
黒亜が指差して、白夜もそれに釣られて辺りを見回している事は私からすれば微笑ましく、はしゃいで楽しんでくれるのだから、連れてきて良かったと思える。
けれど、この街の住人達は私達を歓迎しているようには見えなかった。
いや、少なくとも麒麟の姿である私を敵視はしていない。
黒亜と白夜に対して、敵意を見せているのだ。
恐らく人間である事が理由だとは思うけれど、それでも、敵意を向けてきていない住人も居る。
これはどういう事なんだろう?
多分こいつらが魔族ではあるんだろうけど、全員が全員人間に対して敵対視していないって事は、魔王が人間と仲良くしようとしているのかなぁ。
魔王が魔族達のトップなのだとして、魔王が人間と共存しようとしているのなら、それに嫌でも従うだろうし、こうして敵視しているだけで攻撃してこないのにも納得が出来る。
ま、単純に私が怖くて何もしてこないって可能性もあるけどね。
「ママー! この果物美味しそうだよー!」
『あらあら。可愛い子ね。ほら、一つあげるわ。美味しいわよ』
「ホントに!? ママと白夜ー! 果物もらったよー! 一緒に食べよ!」
大きな声で私を呼ぶ黒亜の手には真っ赤な果物があり、私が考えているうちに貰ったという事が分かった。
白夜も食べたそうに見ているし、それ自体は問題ないけど、黒亜には先に教える事がある。
「黒亜。お礼は言ったの?」
「あっ! 言ってなかった! 言ってくる!」
「うん。行ってらっしゃい」
少なくとも、無料で黒亜に売り物をくれたのだというのなら、それに対してお礼は必要だろう。
子供だからお礼を言わなくても対して問題ないと思うけど、私が親になった以上、異世界だろうが、日本だろうが礼儀知らずに育てる気はない。
と言っても、私が礼儀知らずだし、元々女子高生だからあんまり言えた立場じゃないんだけどね。
それからお礼を言いに行った黒亜と、それに付いて行った白夜が戻ってきて、私達は魔王城に向かってまた歩き出した。
果物を食べてご満悦な2人は私から離れる事はなく、誰かに絡まれたりする事もない。
きっと、この場でも少なからず麒麟という知名度と、火龍の背に乗っていた、或いは魔王に会いに来るという事実が私の味方をしたんだと思う。
ただ、どいつもこいつも嫌味や罵声はないものの、どうにも人間に酷似しているのが不思議だった。
けど、そんな些細な疑問よりも、今は目の前にある壮大な城に住む魔王について考えなきゃいけない。
既に通達がされているのか、城を守る兵士からも『魔王様は謁見間にてお待ちです』と言われ、尚且つ私達を案内してくれている以上、考える時間は少ない。
魔王が敵対してくるのか、或いは友好関係を築けるのか、私の平穏な暮らしを約束してくれるのか、考えることは多すぎる。
そんな中、横を見れば白夜と黒亜は目をより輝かせて城の内部をキョロキョロと見回していた。
確かに、価値とかがいまいち分からない私からしても、高価そうな物が並べられているのは目を惹かれるし、ましてや子供からしたら宝箱のようなもの。
まぁ、そんな子供達の方が私からしたら宝なんですけどね。
こんな無邪気な子供たちを見たら私が考えていること自体が場違いな気がしちゃうよ。
……ってか、そもそも考える必要あるか?
まだ実際に会ってないわけだし、考えなくてよくね?
最悪逃げれば良いわけだし、もうなんかどうでも良くなってきたわ。
「ママー! あれなにー?」
黒亜に訊ねられ、指差す方に目を向ければ、外から見えなかった魔王城を守る結界が内部からは見る事ができた。
明らかに強力な結界であり、どの程度までかは想像つかないけど、私の本能的な部分が全力でやって壊せる程度だと感じさせている。
『到着致しました。では、我々はここで失礼致します!』
「案内ありがとね」
「「ありがとうございます!」」
黒亜に結界の説明をなんとなくしているうちに謁見の間に辿り着いたらしく、案内してくれた兵士は私達に敬礼をしてその場を立ち去った。
つまり、このやけに大きく、重たそうでありながらも金で装飾された綺麗な扉の奥、謁見の間には私達しか入れないという事だ。
「それじゃ、2人とも私の後ろに隠れて、絶対に離れないでね」
「うん!」
「はーい!」




