11話 覚悟を決めろ!
すいません。
完全に調子に乗ってました。
なにが壁を這い回って逃げてやるだよ。そもそも私の猛スピードとあの巨体から出るスピードじゃ話にならない。
あ、勿論私が逃げる立場だから、先に私の出方を窺ってる熊さんたちが有利って事なんだけど。
とまぁ、そんな風に思ってしまって、心の中で謝ったところで問題が解決する訳もなく、私は3匹の熊さんが偶然にも飛び跳ねた魚に目を向けている時に逃走を始めました。
そんなこんなで、今や私は結局のところ熊さんに追いかけられております。
奇跡的にも鬼の形相のような顔をしながら追いかけてくるのは1匹だけで、どうやら他の2匹は魚に夢中というか、安全地帯のような楽園に留まっているようだ。
ってか、それよりも執念深く私を追いかけてくる熊さんはやっぱりスライムが好きなんだろうか。
捕食対象にしてはスライムなんて美味しくなさそうなのは言うまでもないし、やっぱり飼うとかペットにしたいのかな?
そうだとしたら、捕まったら私の運命どうなっちゃうんだろ。安全な暮らしが出来るならアリなんだけど、普通に考えたら安全な訳ないし、やっぱり逃げるしかない。
幸い、私の方が逃げ足は少しだけ速いみたいだから、追いつかれる事はないけど、変身を完全に逃げ切るまで維持できる保証はないし、なんなら私の体からは時々スライムの粘液が落ちている。
それに、恐怖に包まれながら逃げてる最中でも、私の頭の中にはどうやって熊さんが楽園についたのかを考えていて、そんな時偶然にも、前回逃げた時と同じ道を通った時にもまだスライムの粘液のようなものが落ちているのを発見してしまった。
きっと熊さんはそれを追って楽園に辿り着いたんだろう。
そして、パニックになりそうだったのも、こんなに全力で逃げなきゃいけないのも、全ては私の不手際による失敗だ。
最悪だ。本当にツイてない。今はここまで頭の中も整理して考えることが出来てるけど、楽園から脱出してる時はもうホントに死を覚悟していた。
でも、これは仕方ないと思う。日本で育った時には誰かに追いかけ回されたことなんてなかったし、なんなら私に危険が迫ったことなんてない。
異世界だから仕方ない。そう思えば確かにそうなんだろう。
だけど、なんとなくそれは腹立たしい。
私は弱いし、戦おうなんて気はなく、そもそも勝つことなんて出来ないと思っていた。
いや、恐らく厳密に言えば勝つことは普通に考えれば出来ない。
だけど、私の今の状況は戦うことを選択するしかないのだ。
どんなに足掻こうとも、目の前に広がるのは行き止まりの壁。
もはや逃げることすら叶わない。だとしたら、戦う以外の選択なんてないのだ。
ずっと考えていてイライラしてるし、その鬱憤を晴らす為にも、どうせ死ぬかペットにされるならその前に一矢報いてやる。
余談だが、私が戦いを選択した場所には、小さな隙間があり、そこは蛇の姿の私なら通ることが出来た。
当然、その時の私はそんな事を知っているわけもないし、辺りをくまなく見ることさえ出来る状況じゃない。
だけど、そんな行き止まりのような場所にも隙間は存在していた。
そして、そんな隙間に気が付いたのはもっとずっと後の話である。