116話 『私の中の救世主』
今回と次回は双子ちゃんのお話になります!
ちょっと鬱描写あるのでご注意ください!
これは私が、いや、私たちが助けられるより前のお話。
救世主も英雄も、勇者も、助けに来てくれる人なんて私たちにはいないーーそう思っていた私たち双子の物語。
ーー私たちには親がいない。
けれど、育ててくれた人は存在するし、今もなお、その人の元に私たちはかろうじて生きている。
しかし、私たちには親が本当に居ない訳ではなく、あくまでも私たちは両親というのを知らなかった。
けれど、私達が一定の年齢まで育った時、隠れて話をしている大人から両親について知ってしまった。
それも知りたくなかった事実を知ってしまったのだ。
その事実とはーー私たちの両親は私たちを産んでからすぐに殺されてしまったということ。
妹が覚えているかは分からないけれど、私の中に残るほんの僅かな記憶の中では、確かに母親らしき姿はある。
しかし、赤子だった私にとって、それが両親なのかは分からなかった。
そんな中で聞いた話。
その話は私の心を締め付け、声にならない悲しみだけが心を覆った。
そして、話を聞いてから初めて、私は今私たちを育てているのが私たちの両親を殺した人だと知った。
「おらぁ! さっさと運びやがれ!」
「は、はい……」
「うぅ、痛い、痛いよお姉ちゃん……」
「ほら、これを運んだら今日のお仕事はお終いだから……」
「ごちゃごちゃ喋ってないで働きやがれ! 殺されてえのか!?」
「ご、ごめんなさい」
私達を育ててくれた人、というよりも、親のいない私たちを買い取り、いわゆる奴隷として扱っているこの人は世間では道具屋として店を開いていた。
物心つく前からこの店に買い取られ、働けるようになってからは馬車馬のように働かされている。
当然奴隷のようなものであり、賃金などあるわけがない。
少しでもミスをすれば殴られ、蹴られ、罵倒される。ミスをしなくても、ストレス発散の為に毎日のように怒鳴られたりと散々な生活だった。
ただし、これはあくまでもこの店の裏の事情だ。表向きでは私たちをしっかりと育てている良い店主であり、品揃えなども良いため、世間一般的には良い店なのだと思う。
なにせ、痣や怪我などは見えない位置に作り、服も接客などがある為にある程度の物を着させてもらっているのだから。
けれど、店が閉まれば話は変わる。服は即汚い物に着替えるように指示され、それは店主の前で着替えなければならない。
嫌な目で見られながら着替えるのは苦痛でしかなかった。
でも、そんな生活は最低だけれど、最悪でもない。生きていられるだけまだマシなのだ。
奴隷のような扱いも、腐りかけのようなご飯も、毛布一枚だけの狭くて汚い寝床も、私達は耐える事が出来た。
しかし、ある事がきっかけとなり、私の心はどんどん蝕まれていく事になる。
それはいつもの日常の中で起こった出来事の一つ。
失敗を許されない私達だけれど、その日、妹はほんの不注意で店の道具を壊してしまった。
いつもならば罵倒され、少し殴られる程度だけど、今日は店主の機嫌が悪かったのか、妹は折檻部屋に連れてかれ、朝から夜まで鞭で打たれたのだ。
妹の泣く声や、悲痛な叫びが耳から離れない中でも、私はその日を過ごし、夜になって妹が帰ってきたときに、私の心は砕け散った。
「お姉ちゃん……どこにいるの?」
「っ!? ここだよ、ここにいるよ」
「どこ、ねぇ、どこにいるの?」
私の返答も虚しく、妹は私の声だけが聞こえ、私の姿が見えていないようだった。
どうして見えていないのかは信じたくなかったけれど、すぐに理解してしまった。
傷だらけで帰ってきた妹が掠れた声で私を呼び、フラフラになりながら私を探しているのだ。
目に光はなく、私が駆け寄るまで私の存在に気付かない妹は、その日に目が見えなくなってしまった。
「お姉ちゃん、前が見えないの。お姉ちゃんの顔も、何も見えないの。真っ暗で怖いよ……」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんが絶対に守るから……」
見えなくなった目で涙を流し、私に抱きつく妹を見て、私の心に憎悪が生まれた。
生まれて初めて殺してやりたいと、同じ目に合わせたいと、そう思ってしまった。
……でも、そんな力は私にはない。
だからこそ、私は助けを求めた。無様かもしれないけど、神に祈り、店主を殺してくれと、私たちを助けて欲しいと、ただ祈り続けた。
……だけど、そんな祈りは届かなかった。
日が昇り、無情にも朝が来て、私達はまた働かされる。
目の見えなくなった妹は、店の中でもゴミのように扱われ、お客さんが居ない時には殴ったり蹴ったりと、本当にストレス発散の為だけに利用されたのだ。
「お願い、します。私が妹より沢山働くから、どうか妹を休ませてあげてください……」
「ほぅ。そうかそうか。まぁゴミよりもお前の方がマシだしな」
「……ありがとうございます」
「ちっ。さっさとゴミを連れて行け!」
はらわたが煮え返りそうな思いのまま、私はボロボロの妹を連れ、寝床へと妹を押し込む。
「お姉ちゃん! 私なら大丈夫だから……このままじゃお姉ちゃんも!」
「良いの。お姉ちゃんは妹を守らないといけないんだから。ごめんね。目が見えなくなる前に守ってあげられなくて……」
「ーーーー」
部屋を去る私に向け、妹がなにかを言っていたが、私はそれを強がって聞かないようにし、店主が怒る前にまた働き始める事にした。




