114話 『私、ママ?』
私に対し、お姉ちゃんと言ってきた白い髪の女の子は、どうやら私の雰囲気から感じ取って言ってきたんだと分かった。
なにしろ、この双子の妹は目が見えていないのだ。
目は開いているけれど、その奥にあるのは何もない暗闇。
だからこそ、雰囲気とか話し方でしか判断出来ないのだろう。
見た目にして双子は共に中学生程度。
それなのに、目が見えないとなると余程辛い過去があったはず。
同情もできないし、私にだって何度も死にかけるという過去がある。
しかし、このまま何もしないってのも世話をすると決めた今じゃ後味が悪すぎる。
「今から回復魔法を掛ける。目が見えるようになるかもしれないから、でも、私を信じてくれる?」
「……うん。お姉ちゃんの事、私は信じるよ」
「そっか。それじゃあやるね」
私が回復魔法を使い、暖かい光が女の子を包み込む。
この目が見えないというのが生まれてからの障害であるならば治せないかもしれない。
でも、結果的に言えば私の魔法は成功し、無事に女の子の目は見えるようになった。
「貴方、本当に目が見えるようになったの!?」
「うん、うん。お姉ちゃん、また見えるようになったよ」
「良かった。良かったよ」
2人はお互いに抱き合う形で泣いている。
でも、感傷に浸る時間はそれほど残ってはない。
中にいた魔王軍が戻らない事に対して他のモンスターが違和感を抱き、中に入ってくる可能性がある事を考えて、今はとにかく脱出が最優先だ。
「ほら、早くこの店から出るよ。君たちの詳しい話は後で聞くから」
「はい。ごめんなさい、見苦しい姿をお見せして」
双子は私に対して深く謝罪している。
「見苦しくもないし、別に謝る事でもない。それよりも早く準備して」
「いえ、あの、私たち何も持っていなくて……」
「そう、だったら店の中から適当に持ってけそうなものだけ持ってって」
「で、でも、それはその……」
「お姉ちゃん。もうこの店には私たちしか居ないんだよ? それに、きっと生きていくには必要な事だよ」
妹が姉を納得させ、2人は残っていた薬や本を小さいバッグへと詰め込んだ。
手には子供でも使える短剣を持ち、準備は万端といったところ。
ただ、問題はもう一つある。
意気揚々と店から出るとは言ったものの、どうやって出るか私は考えていない。
そもそも、この店をぶっ壊して出るのは論外だ。
確かに店を壊せばモンスターの死体を消せるけど、双子が危険だし、普通に店の中から私が出てくるとか怪しすぎる。
「どうかしたの?」
「ううん。どうやって出ようか考えてるだけ」
「その、普通に出るのはダメなの?」
「バカ! それだと外にいるモンスターにバレちゃうでしょ?」
「あっ、そっかぁ……」
普通に外に出る……。
あ! そうじゃん! それでいこう!
私がモンスターから人間の姿に変身して、普通に出れば万事解決!
その後はバレたら、っていうか十中八九バレるから、その時に変態で麒麟になれば解決!
いやー、妹ちゃんの言葉に助けられちゃったなー。
それじゃ、早速人間になるとしますか!
「ふぅ。よし、それじゃ普通に出よっか。私に作戦があるから安心して」
あっ。そうだったわ。
普通に人間になって話しかけちゃったけど、そういえばこの双子に私のこの姿見せてないや。
そりゃ固まっちゃうよねー。
「ママだ!」
「へっ?」
マ、ママ?
おいおい、ちょっと待ってよ。
私まだそんな年齢じゃないって。
やめて、私をそんな目で見ないで。お願いだよ、私はまだママになんてなりたく……あ、いや、確かにこの双子の世話をするって時点で実質私はママみたいなものか。
うわー。
なんか自分でも引くわー。
客観的に見ると凄いやばい奴だよこれ。
ていうか、私の姿を見て速攻ママって言われるのも変じゃない?
あー、もしかしたら私の姿が似てるのかな。
ってか、どうしようかなこれ。
「す、すいません! 私たち親に会った事なくて、この子も多分適当に言ってるだけなので!」
「そ、そうだよね! ま、まぁでもほら、もう実質親みたいなものになる予定だし!」
あー、言っちゃったよ!
私の馬鹿! なにが親みたいだよ!
……はぁ。まぁ仕方ないか。
とりあえず人間姿ならなんとか出れそうだし、崩れる前に外に出ようかな。
「外に行くよ。私が守るから安心して」
「「うん!」」
双子を連れ、なんとか隙間から外に出た私だが、当然というべきか、外に出た直後に私達は魔王軍に取り囲まれてしまった。
「貴様ら! まだそんな所に隠れていたのか!」
あーはいはい。
そうですよね。私が人間になれるって知らないもんね。
それじゃ、双子も怯えちゃってるし、ひとまず説明しますか!
「ふむ。貴様があの麒麟様というのか。では実際に変化とやらを使ってもらおう。それで貴様の言葉が真実か見極めてやる」
ま、やっぱり言葉だけじゃ信じてくれないか。
っていうかこいつも結構言葉を流暢に喋るのね。魔王軍は言語とかも教えてたりするのかな?
あ、いや、そんな事より麒麟に戻らないと!
「はい。これで信じてくれた?」
「おおっ! その威圧感に風貌、紛う事なき麒麟様! 大変申し訳ありませんでした!」
「別に良い。事の発端は全部私だし」
「ですが……」
「良いの。それよりもこの2人には手を出さないようにして。これは私の物だから」
「か、かしこまりました。それで、その、この店の中に一体我々の仲間が居たと思うのですが、なにかありましたか?」
きたよ。きちゃったよ!
もう元の場所に戻ろうと思ったのに、このタイミングで最悪の質問するなよ!
どうする私。この状況を切り抜けるにはどうしたら良い?
「そいつは私を信じずに襲ってきたから返り討ちにした」
何言ってんの私ー!
なんで殺した事実を隠そうとしたのに自ら話してんの!?
やばいよ、本格的にこれやばいって!
「そうでしたか。馬鹿とは思っておりましたが、よもや本物の馬鹿とは思いませんでした。そのような存在は魔王軍には必要ありません。むしろ麒麟様が処罰を与えてくれて感謝致します」
ん? はっ? えっ?
もしかして私のこと信じてくれた?
お、おう。なんていうか、うん。これ以上ここに居るとめんどくさそうだし、帰ろう! 元の場所に!




