112話 『私、神格化されちゃってる!?』
怖がられてると思った私が渾身の笑顔をした結果、何故か周囲の人達の顔付きはより怯えたようになってしまいました。
どうしてなのでしょう?
私の顔って怖いかしら? 全然怖くないわよね?
うふふ。
ーーって、人の顔を見て怖がってんじゃねー!
折角慣れない笑顔をして落ち着かせてあげようと思ったのに、恐怖を与えちゃったじゃん!
なに? アレか? 私ってホントになにをしても恐怖を植え付けちゃう存在なのか?
人間だろうが、モンスターだろうが怖がらせるモンスターって、あのダンジョンコアと一緒に死んでた本物の麒麟はどんな風に生きてたの?
教えてくれないと振る舞い方が分からないよ!
いや、やめよう。
うん、なんかこういう事言ってると本物が何処からともなく現れそうだし、そうなったら偽物の私は普通に殺されるもん。
だって、あの時少し捕食しただけでこの力を手にしたんだよ?
近寄っただけで覇気がやばかったのに、そんなのと戦うなんて想像すら出来ないわ。
無理無理、絶対に勝てないね。
例え今のこの麒麟の姿でも勝てる気しないわ。
だって、私生きてるのに覇気を周囲に撒き散らせられないもん。
「ーー麒麟殿。なにかお考えの所申し訳ありませんが、暫しお待ち頂いてよろしいですか? 先ほどの様子を見ていた限りですと、なにか気分を害すような事をしてしまったと思われますが、何卒お許しください。もし、もしも許せないのであれば、せめて魔王様との謁見の際に私を殺して頂いて構いません」
……ん?
いやいやいや、ちょっと待って。
私怒ってないし、殺す訳ないじゃん!
気分も害されてないし、別段なにもないし、っていうかむしろあんたを殺したら私が魔王に殺されちゃうよ!
ーーあ、待った。私って人見知りだし、このままだと私の方が魔王と会った時にヤバいんじゃ……。
よ、よし、とりあえず落ち着こう。後の事は今考えても無意味だし、とにかく今はこの状況をどうにかしないと。
「大丈夫。特に怒ったりしてない。それよりも、そろそろ頭を上げて欲しい。私は別に偉くないし、貴方も私に敬意を払う必要はない」
「ですが、貴方様は生ける伝説です。幾らそう言われましてもーー」
「そういうのどうでも良いから。もう良い。街を散策してくるから遣いのモンスターが戻ってきたら教えて」
「……かしこまりました」
私としては、このモンスターとも友好的にありたかったけれど、多分このモンスターの中での私は神格化されているんだと理解してしまった。
だから、言葉遣いは消えないし、私への敬意も捨てられない。
確かにそれは悪い事ではないと思うけど、それじゃ私が歩み寄っても仲良くはなれないだろう。
もし仮に仲良くなれたとしても、心の何処かではお互いに思う所が出てくるだろうし、それは本当に仲良くなったとは言えない関係になってしまう。
例えばーー友達同士でリスペクトしあう。というのは間違っていないし、良い事ではあるが、それが片方だけで、尚且つ今の私みたいな伝説の存在相手だとまた話は違くなってしまう。
っとまぁ、色々考えてみたものの、結局の所こんな風に考えてしまう時点であの魔王軍のリーダーとは仲良くなれなかったのだろう。
だからこそ、私は逃げるように街を散策しに来たのだ。
まぁ、普通に街を見たかったという理由もあるけれど。
うわぁ。中々酷い状況だなぁ。
さすがに大規模な戦闘が起きたということもあって、家や壁は崩れ、所狭しと瓦礫が積み重なり、麒麟状態で体の大きくなった私には道は狭く感じてしまう。
ただ、辺りを見回してみれば、頑丈な素材で作られている家も所々に存在するのか、先程まで私が居た街の一番大きなお屋敷程ではないにしろ、家としての形をなんとか保っていた。
けれど、ほんの数時間前は店を営んでいたであろう人々はモンスターに連れられ、街中はモンスターだらけであり、人間からしたら地獄絵図でしかないと思う。
そんな中、私の目を引いたのは色々な色の果実が並べられている一つの出店だった。
日本でいうリンゴっぽいやつや、バナナのようなものまで多種多様なものが並べられており、私の喉はそれを欲するように涎が垂れそうになる。
食べちゃおうかな?
どうせ誰も見てないだろうし、仮にバレたとしても街が崩壊した今じゃ問題ないよね。
罪悪感なんてない! いただきます!
ふぅ。ごちそうさまでした。
いやー、この世界の果物は美味しいなぁ。
妙に酸っぱかったり甘かったりしたけど、それが気にならないくらい美味しかった。
まぁ満腹になるまでに並べられてた果実を殆ど全部食べてしまったのは少し申し訳ないけど、止まらなかったんだからしょうがない。
さて、見たところこの辺りは結構店っぽいのが多いし、変身して侵入してみますか!
麒麟姿だとどうも目立つし、なにより店と言っても崩れてるから入れないんだよね。
だから隙間を縫うように入れる蛇形態が一番。
ホント、蛇って万能すぎるわ!




