110話 『損得感情』
万が一バレてしまえば人間からもモンスターからも襲われてしまうという危険性を考え、逃走を選択した私は、スライム状態と変身を駆使して隠密行動を続けていた。
しかし、本格的に戦闘が始まった今、門の付近から散らばっていったモンスターや、それと戦っている人間、それに加えて死骸となっている者も多く、私が安全に進む道は少なかった。
だからこそ、結構な時間が経った今でも、私は街に潜伏していなければいけないのだ。
「くそっ! なんでこんな事になってんだよ!」
「無駄口を叩くな! こいつら普通のモンスターより強いぞ!」
「分かってるよそんな事!」
にしても、何度か戦ってる場面に遭遇するけど、相変わらず人間達弱くない?
今は数的に人間の方が多いからなんとかなってるけど、このままじゃ負けは確実だよ?
ほら、この街最強の戦士とか冒険者とか居ないの?
あ、そうか。そいつはあのリーダーと戦ってるのか。
流石にこの街の全員が弱いわけないだろうし、戦ってるに違いないよね!
「うおおおおっ! 死ね! 死ね! 死にやがれ!」
あ、ギルドで私を変な道に進ませようとした奴が戦ってる。
けど、普通に負けそうだね。
うんうん。そのままモンスターに殺されちゃって良いよ。
別に恨みとかそういうのはないけど、上から目線で色々言ってきて少しムカついてたし、死んでくれるなら私的には嬉しいかな。
ってか、それよりも本格的に私はどうしよう。
もう麒麟になって私も蹂躙しちゃおうって思うんだけど。
多分この街の人間とかモンスターに勝てそうだし、最悪魔法やスキルを使えば強敵が居たとしても普通に勝てそうだしね。
ただ、問題は魔王様とやらが私を標的にしたらちょっとやばいかも。
いや、もうアレだ。考えるのめんどくさいし、なにか魔王軍に言われたら私じゃないって事にしよう!
それか正当防衛を主張するしかない!
って事で、私は魔王軍の味方になる事にします!
きっと本来ならこういう時は人間の味方になって、助けて救世主扱いされるんだろうけど、残念ながら私はモンスターなのです。
もしも仮に、麒麟状態に変化した事で落としてしまったゴブリン達から奪った宝石があれば、私も人間側に味方していたかもしれないけれど、それも自分で塵にしてしまった今、モンスター側に加勢する他ない。
なにせ、恐らくここで加勢した方が結果的にこの先の私の行く末が有利に働く可能性の方が高いのだ。
元人間として、この選択は誤っているかもしれないけれど、世の中は結局のところ損得感情でしかない。
もしそれを意に返さず、損得なんて気にするな! とか言う人間やモンスターが居るのであれば、そいつはきっと正常じゃない。
だからこそ、損得で動く私は、後の事は全て後の私に任せて蹂躙する事にした。
「な、なんだよこれ! 急になんで麒麟が出てくんだよ!」
はっはっは!
ほらほら! 逃げ惑え! 人間共! 早く逃げないと私が殺しちゃうぞ!
麒麟姿で蹂躙を始めたら始めたで、襲った人間達も、私を見た人間もみんなが皆「どうして伝説のモンスターがここに居て、しかも襲ってくるんだよ」と言ってくる。
私じゃなく本物の麒麟とかならばもしかしたら本当に人間を襲わないのかもしれないけれど、そもそも私にしても麒麟にしても、お互いにモンスターである事に変わりはない。
モンスターは人間を襲い、人間はモンスターを殺す、これがこの世界の理なのだから、私が人間を襲ったとしても責められる筋合いはないのだ。
っと、まぁそんなことを言っていながらも、別に私は好き好んで人間を襲いたい訳じゃないのは分かってほしい。
今の状況的に襲わなきゃいけないんだから仕方なく襲ってるだけ。
現に、私は基本的に反抗してくる奴以外は殺していないし、逆に逃してあげている。
むしろこれは優しい行為。
そう、私は優しいのだ!
私が本気なら人間なんて皆瞬殺しちゃってるし。
まぁそれはそれで楽に街を落とせるから良いんだけどね。
結果は逃げた人達が居るけれど、魔王軍の勝ち。
冒険者も兵士も弱いんじゃ私が加勢しなくとも負けるのは目に見えてたけど。
魔王軍のリーダーも殆ど傷なしの勝利だし、ホントに圧勝って感じ。




