108話 『もしかして私の噂……?』
「当ギルドでは、冒険者証を発行する際に10銀貨頂いておりますが、ご用意は出来ておりますでしょうか?」
……10銀貨……?
えっと、ちょっと待てよ、そっか。うん、そうだよね。
そりゃお金必要だよね。
んで、私の残金はと……ないわ。
あるわけないよ! 私一文無しだもん! ちょっと服をガサガサ漁ってる感じに見せてるけど一切ないよ!
ってか、この世界の通貨を今知ったくらいだもん。
確かにゴブリンの集落でお金っぽい銅貨とか銀貨があったけどさ、今はもう更地になってるから取りに戻れないし、どうしたもんかなぁ。
「えっと、あの、すいません。お金持ってないです」
「……そうでしたか! では、またのご機会をお待ちしております!」
うわっ! 今絶対金も持ってないのに来るんじゃねえよって顔された!
すぐ笑顔になって対応されたけど私は一瞬のその顔を見逃さないからな!
ぐぬぬ。やはりお金は持ってないと厳しいか。
「あの、すいません。自分はこの世界に疎くて、お金について少し教えてもらっても良いですか?」
「えーっと、はい! 分かりました! 一応銅貨が10枚で銀貨1枚に替えられまして、銀貨から金貨も同様でございます!
ふむふむ。
おおよそ私の考えていた通りの答えかな。
「ありがとうございます。また来ます」
「はい! お待ちしております!」
「ーーおっと、嬢ちゃんお金がないのかい? だったら俺と楽しい事してくれればそれくらいのお金は渡すぜ?」
はっ? 誰だこいつ。急に割り込んで話かけてくるからビクッとしちゃったじゃん。
人見知りの私に突然話かけてこないでよね。
それに、楽しい事っていわゆるアレでしょ? ちょっとエッチなやつでしょ?
無理無理無理! 私そういうの無理なので! 経験ないですから!
「すいません。大丈夫です」
「おい、ちょっと待てよ。この俺が良い話を持ちかけてんのにその対応はないだろうが。この場で犯してやろうか?」
いやー、普通に知らない人と話すのは怖いけど、私の方が強いって考えたら案外なんとかなりそうかも。
これはこの先の異世界生活も安泰かな!
というか、なんなのこの人。私が自分のことを褒めてる時に永遠と喋らないでよ。
「……うるさい」
「ちっ! 今回だけは許してやる。次俺様に逆らったらどうなるか覚えておけよ!」
あ……ついつい本音が出ちゃったお陰で。なにやらどっか行っちゃった。
ま、まぁ結果オーライだね! なんで私みたいな人見知りで地味な女を狙ったのか分かんないけど、ま、もうどうでも良いや。
どうせ誰でも良かった的な感じでしょ。
さーて、なんとかどこも触れられる事なく終わったことだし、あんな奴のことは忘れて金策について考えなくっちゃ!
「なぁ、今受付と話してた女さ、めっちゃ綺麗じゃなかったか?」
「確かにそうだな。多分顔立ちからしてこの辺りの人間ではないんだろうが、それにしても綺麗すぎる」
「俺声掛けてみようかな?」
「やめとけって、さっきも話しかけてやつがあしらわれていただろ?」
「うっ、そうだな。こっそり見る程度にしておくよ」
帰ろうとした私は少し立ち止まり、今数人の冒険者が話していた内容を聞いてしまった。
どうして立ち止まったのかは内容から分かる通り、私の話をしていたからだ。
というか、話に上がる程ってことは私めっちゃ可愛いのかな?
……い、いやいや有り得ないって!
川で私を見た時も別に日本にいた頃と変わらなかったし、なにより日本にいた時は可愛いなんて言われたことなかったもん。
あーでもこの世界基準だと私って綺麗に思われるのかなぁ?
んー、冒険者が言ってただけだしあんまり気にしなくていっか!
まぁでもどうしても少し口元が緩んじゃうよね。
なんたって褒められたことに間違いないんだから!
「あ、そういえば近くの森の一部が更地になったことは知ってるか?」
「あぁアレだな。確か麒麟が出たとか言ってる奴が居たな」
「ま、それは嘘だろ。伝説のモンスターがこんな近くに現れるなんて有り得ないしな」
「それじゃ更地にした別のモンスターがいるってことか」
「まぁそれはそれでまずい状況だな。そろそろ冒険者ギルドにも依頼が来るかもしれんからな」
むっ?
むむむっ?
私が噂になるの早くない?
あ、麒麟のこと知ってるのあの冒険者達だけだし、あいつらが広めたのか。
めんどくさいなぁ。ここでバレたらもう二度とこの街に入らないじゃん。
まぁ今は人間だし、そもそもモンスターって事がバレるわけないんだけどさ。
けど万が一にもあの森で出会った冒険者達にばったり遭遇したら厄介かも。
よし! フラグになりそうだからこれ以上は言わないでギルドを出よう!
噂なんてどうせすぐ消える! 私が気にする必要なし!
そう思って外に出た瞬間、街に轟音が鳴り響いた。




