106話 『更地を作った日』
ーー時は少し遡り、街に入らず門前払いされる前の私は、まだ見ぬ街へと希望を抱き、燃え盛る火を前に悩んでいた。
「ふむ、ひとまずこの火をどうにかする方法を考えようか」
誰かに見られても良いように、私は人間状態のままで目を閉じ、火を消す方法を考えた。
そうして、一瞬の静寂が私を包み込んだ後に、私は目を見開いた。
「うん、無理!」
いやー、無理だわこれ。
むしろあの冒険者凄いわー。
こんな燃え広がる炎を無視して街へと戻っていくんだもん。
私にはそんな事出来ないわー。
「んー、本格的にどうしたものかなぁ。更地にして良いならやっちゃうけど……それじゃあ本末転倒だし。かと言って、消せる魔法もないし……難しいなぁ」
必死に考えている中でも一向に答えは見つからない。
頑張れ私。負けるな私! この程度の問題なら余裕で解決出来るはず!
「いや、ってかなんで私がどうにかする流れになってるんだ? もうめんどくさいし無視しても良いんじゃない?」
なんとなく話の流れ的にっていうか、私の中で勝手に尻拭いをする感じにはなっていたものの、冷静に考えればそもそも私が火を消す必要はない。
なにせ、冒険者が火を振り撒いたのだ。
責任があるとすれば冒険者達にあり、私には一切ない。
ただ、問題があるとすれば罪を着せられることだ。
仮に冒険者達がーー「あの場にはゴブリン以外にも未知のモンスターが存在した! そいつが森を焼き払ったんだ!」ーーと冒険者組合とやらに報告した場合、私の事を知っている冒険者がいる街に入る事は難しくなる。
つまり、火を消さなければ不利になる可能性があるということだ。
だが、恐らくは冒険者達はまだ街へと辿り着いていないだろう。
もし森の中にまだ居るのならば、殺してしまえば全て解決する。
街の場所も分かったし、森の中ならモンスターに襲われたと勝手に解釈してくれる筈だ。
「けど、本当に私は面倒臭い事をしない為に人を殺せるのか?」
答えは当然ーーYesだ。
しかし、それじゃあ早速冒険者を追いかけよう! とは思わない。
冒険者を殺すことも出来るが、万が一にも冒険者が私の知らない力を持っていて、苦戦したらまずい事になる。
有り得ない可能性だが、絶対に私が勝てる保証はないのだ。
だからこそ、私は火と冒険者を同時に消す事にした。
いや、仮に冒険者が既に私の攻撃範囲外に逃げていれば死ぬことはないだろう。
そこは冒険者の運次第って訳だ。
「さぁて、必死に考えた末に結局更地にするって決めた訳だし、いっちょやってやりますか!」
人間状態から変身を解除し、麒麟へと変態した私は上空へと飛び上がった。
そして、燃え広がる炎を眼下に収めつつ、力を溜めていく。
そういえば、迷宮を揺らすほどのブレスを地上で使って生態系に問題とか起きないかな?
そう思った矢先に、私の力は溜め終わってしまい、答えを出す前に森へとブレスは放たれた。
激しい轟音と、土煙が上空にいる私をも襲い、視界は悪いまま。
しかし、数分後にはある程度煙は晴れ、ブレスによる被害を見ることが出来た。
その結果、炎は消えたものの、残っているのは一部消えた森とその代わりに出来たクレーターだ。
うわぁ、自分がやったとはいえこの被害は凄まじいなぁ。
跡形もなく消えた森とそこに存在していたであろうモンスターなどの生命体。
全てを塵にしてしまった事に後悔も特に感じてはいないが、やはり自分の力は迷宮においても、地上においても強すぎるという事を実感してしまった。
「あー! 私の宝石がない! どこ!? どこいったの!?」
更地となった地上へと降り立った私は人間へと戻り、持っていたはずの宝石がなくなっている事に気付いた。
そして、何が原因で消えてしまった事についたもすぐに理解した。
そう、自分で消してしまったのだ。
そもそも宝石自体を持てていたのは人間状態であったからであり、麒麟へと変態してしまったが為に、落としてしまったのだ。
そして、落とした宝石に気付かずにブレスを放ってしまい、全てが消えてしまった。
くっ、私のお金が……。
これじゃどうやって街に行ってから買い物をすれば良いんだ……。
楽しみにしてたのに! 密かな楽しみだったのに!
こうして現状へと戻り、結果的に燃え広がっていた炎を消す事は出来たものの、街へと向かった私は門前払いされたのだ。
つまるところ、街へと入ることも許されず、無一文にもなっている私の楽しみは全て奪われてしまった事になる。




